47.新たな地を目指して
湖エリアから入ることのできる精霊の隠れ里。そこで明らかとなった、伝記を集めることによって新たな街が開放される……という仕様。
そのために、まだ未解放されていない森林エリアと川エリアの解放を急ぐ流れができるか、と思われたのだが。
結果として、海エリア、海岸エリアでのボス討伐ペースは速まった。けれど、それは未知なる街の解放を目指す目的ではなく……。
「あぁ、気持ちがいいなぁ」
私は、浮き輪に乗って海を漂っていた。
「ちょっと、モカさん? せっかく装備をしたんだから見てくださいよ」
冬とは思えない暖かな日差し。ゆらゆらと体を伝う波の心地よさ。これはたまらんと目を瞑っていた私を、サーフボードの上に立ったロンドが注意をする。
ビキニみたいな鎧を見たことがない私に対し、ロンドが披露してくれているのだ。
布地はほとんどなく、金属製のプレートを曲線に合わせるように加工して紐で繋げたようなもの。見た目はまさにビキニだが、スカート状のオプションがあったり、腕を覆う防具がゴツかったり。
露出の多い分、他でバランスを取っているつもりなのだろうか。
「すごい格好だよねぇ。それで戦うの?」
「ですよー。だってゲームですもん。格好でも遊ばないと」
そうやって自信満々で言えることろは、見習ったほうが良いのかもしれないけれど。
「モカさんは、あんまり肌を出さないタイプ?」
「出さないタイプ。油がはねて痕になるのが嫌だから、って防御してたら癖になったね」
「あー、そういう」
今は水着に着替えているから、その発言にはあまり説得力はないのかもしれないけれど。
それはともかく。目的も達したので海の街へ戻ると、堤防で釣り糸を垂らしていたガイアと合流をする。
私達は無事、三つのエクストラクエストをクリアした。そしてビキニな鎧の実装を迎えた瞬間を、共に迎えたのだ。
「おかえりー。ロンちゃんはずっとその格好っすか?」
「いや、ビキニ鎧でガトリングは属性盛りすぎだからね。いつものガトリングアイドル魔法少女装備に戻るよ」
「盛りすぎ盛りすぎ」
二人のやりとりに笑いながら、浮き輪を片付けて水着から着替える。
そのタイミングで、ユキがやってきた。
「お疲れー。お、なんだ。水着はもう着替えたのか?」
「お疲れ。人に見せるようなものではないしね」
「いや、謙遜」
手を振って否定をするロンドに、そう? とアイコンタクトをとる。しっかりと頷かれたので、ありがとうと伝えるように頭を下げておく。
「それより、どうなんすか? 次のエリアの開放は」
ガイアの問い掛けに、ユキは若干遠くを見ながら「結構速まりそうだ」と言った。
「バレンタインを過ぎてしばらく、くらいには解放されそうだな。湖が使えなかった影響がここまで大きいとは、な」
それが最大の要因らしい。
泳ぎたいけど、波のある海はちょっと苦手。そんな人達が湖を拠点として遊泳ライフを楽しんでいたわけだけど、そこがそっくり隠れ里への入り口と化してしまった。
さぁ、そこを拠点としていた人達はどうしよう。この大陸――というほど大きくなのかもしれないが、このマップの中に海水ではない水があるのは二ヶ所だけ。
湖エリアと、川エリアだ。
湖エリアと川エリアには、決定的に違う点が一つあった。それは、流れがあるかどうかではない。プレイヤーが好きにできる余地のあるエリアが存在する、という点だ。
「もともと、川の水を使って湖や池みたいなものを好きに作ってもらえればいい。と思っていたんだけど、それが最優先の目的になるとは思わなかったな」
「海があるから良いだろう、と思っていたわけだ」
「そう。むしろ海のほうが人気なんじゃね? なんて思っていたら、このゲームのユーザーはどちらかと言うと川の方が好みらしい」
需要と供給が一気に崩壊し、供給を求めて頑張ろう。そんな思いがプレイヤーの結束を強くした。
積極的にパーティーを組んでチケットを集め、ボスの討伐を繰り返す。私も微力ながら、ロンドたちと共に討伐に明け暮れたものだ。
「バレンタインでは特別なモンスターが出現するイベントがあるから、少しペースは落ちると思う。それを加味したうえでの、バレンタインを過ぎてしばらくしたあたり。だな」
堤防に並んで座りながら、話の流れでバレンタインにチョコをあげるかどうかをロンドに訊かれる。
「親と、バイトの人にあげるくらいかな」
「バイト?」
「配達なんかをやってくれる人がいてね。ほら、ユキは憶えてる? 酒屋のシュウくん」
「あぁ、秋夜か。俺達が卒業してから高校入学だったし、あれから会ってねぇな。あいつ、免許取ったんだな」
「うん。どっちにしろ自分とこの配達でも必要になるって言ってね。で、あの後酒屋、角打ち始めたのよ。うちの惣菜をアテにね。それで料理の修行でもしてこいって、うちでバイト」
「へぇ、それは行ってみたいな」
今頃は私の代わりも勤めていてくれているのだろうか。仮店舗、思いの外狭くはなかったし。
「もう、こういう時に地元トークは駄目ですよ。それより、友チョコなんかはないのです? ガイアも欲しがりますよ」
「女性からのチョコは歓迎っす!」
「そう言われても、チョコ作りはなぁ」
「叔母さんは得意だけどな」
「あの人は本職だから」
彼女が嫁いた家も洋食屋だし、うちの家系は本当に飲食に縁がある。とまぁ、これ以上の地元トークは、またロンドを拗ねさせるだけなので控えるとして。
「ま、これを期に挑戦してみるのもいいかもね」
「その意気っすよ、モカさん。俺、チョコブラウニーが好きなんですよ」
「そう言うのは買って食べて」
「そんなっ!?」
ショックを受けるガイアに、冗談だと笑う。けれど、いきなりそう言った本格的なものは早いから、先ずは溶かして固めるだけのものを目指そう。ココアパウダーをまぶせば、それなりの形にはなるだろうし。
「ロンドも一緒に作る?」
「ロンドちゃんは食べる専門です」
「食べる専門なら、時間はたっぷりありそうだな」
どういうことだ? と、発言をしたユキに三人の視線が向けられる。
「要は、新しい仕事だ。事前にルールなんかを頭に入れておいてもらいたいからな。今回のは重要だぞー。ズバリ、ギルドというのはどういうふうにあるべきか」
ギルド? と、また私に分からない言葉が披露された。次から次に新しいことを。若干呆れそうにもなるが、まぁ、仕事があるのは嬉しいと言えば嬉しい。
「その報酬がチョコレート、なわけないよね?」
「……」
黙るなよ。




