45.人魂は何処
強力な強化魔法の影響を受けたビンタだったから、なのだろうか。それを受けた白いシーツを被ったようなお化けは、黒い霧のように消えていった。
その光景を目にしながら、私はそのビンタを繰り出した右手をじっと見つめながら、こう呟く。
「私は霊媒師の才能があるのかもしれない」
「いや、どちらかと言うとキャットファイト」
名前は可愛いのに褒められている気が全くしない。
そんなことよりも、これで二体目のモンスターを倒すことに成功した。残りは一番最初に遭遇した赤い人魂だけなのだが、それがどこで出会えるのかが全く分からない。
手当たり次第、とするには目印の全くない空間であり、下降するように作用する力がなければ、街がどの方向にあるかも分からないくらいだ。
少なくとも、この力があれば街には問題なく戻ることができる。まぁ、街へ向かうだけならワープ機能もあるのだし、不都合はないのだけど。
「で、当てもなく飛行をしてみたものの、一向に遭遇する気配がない」
「最初に遭遇したことを再現しようとするなら、一度この空間からでて、もう一度湖に飛び込む、しかないか」
カイユウの案は、正直賛同しかねる。
彼だって、山から飛び込む際には相当の叫び声を上げていた。私だって怖くて目を瞑っていたのだし、出来ればあのようなダイビングは二度と御免。というのが素直な感想だ。
あのような行動に出た私達を、付近にいたプレイヤー達はどんなふうに見ていたのだろうか。
真似しようと思う? 何らかの意図を持っていただろうとは察するだろうけれど、真似しようとするのだろうか。……いや、しないとここには来られないのだけど。
「あ、もしかして結界がどうのっていうので、この空間に来づらくなっていたのかな?」
「あぁ、そういう考え方もあるのか。モンスターが出ないだけかと思っていたが、そうか、このエクストラクエストをクリアすれば、湖に入るだけでもここに来れる可能性がある」
そうすれば赤い人魂とも簡単に……。会えるかもしれないけれど、そのためには赤い人魂を倒さないといけない事実。
では、どうすれば赤い人魂と出会えるのか。
あの時と今とで、何が違うのか。その違いが原因なのか。出会った時に、私達は何かをしていたのか。今回の私達は、あの時にない何かをしているのか。
「……あ、ピンときたかも。カイユウ、空を飛ぶのを止めよう」
「お? あっ! そうか、あの時、俺は空を飛んでいなかったのか。それを隙とみて襲いかかってきたのなら――」
誘き寄せることが可能なのではないか。
早速試してみると、これが大当たり。飛んで火に入る夏の虫、というか、現状から言えば飛んでない人たちを襲う冬の人魂、なのだけど、接近するチャンスが生まれたのは喜ばしいことだ。
早速のご挨拶に浴びせられるレーザーを飛行魔法を使用して躱しながら、その距離を詰めていく。
「金烏玉兎っ!」
強化魔法をかけて、武器を構える。
お化けだって一撃で倒せたんだ、今度だってっ! という意気込みで、尚且つ今度は二人がかりでの攻撃。これは余裕かと思われたが……。
「避けられたっ!?」
ふわりとした軽い機動によって、私達の攻撃は当たることがなかった。
人魂は、そのまま私達から距離を取るように離れていく。
「飛行魔法を解除して!」
「分かった! ……でも、何が駄目なんだ? エクストラクエストの発生条件にもなるんだから、ある程度は簡単に倒すことができる筈だろ?」
再び無防備な状態になって、人魂の誘引する。
「前回は螺旋状に動いて接近したら、攻撃を当てられた。でも、それは攻撃を避けるためでもあるし」
「ああ。それと、俺だけ飛行魔法を使ってはいなかった」
もしもそれを再現して、一撃で倒せたとするのなら。完全に私のミスだ。最大値体力ゲージが減るのにビビって、様子見をして強化魔法を使用するのを控えてしまった。
「カイユウって、結構このゲームの歴は長い?」
「サービス開始からやってる。初任給で端末を買ったから、ちょうど良かったんだよ」
「初任給って、じゃあ、もしかして私と歳が近いの!?」
「あー、そうかもな。これでも新卒だったし、――って、お前は俺を幾つだと思ってたんだよ!?」
兄と同僚だというから、てっきり歳上だとばかり。
でもそうか。彼は兄から私のことを聞いていて、歳が近いと分かっていたからフレンドリー、といえば聞こえはいいけど、近い距離感で接していた。歳上なら、もう少し丁寧な感じにもなり得るか。
「いや、あはは」
「そんなに老けて見えんのか? 俺は」
「まぁ、大人っぽいとは思うよ。うん。それより、それだけゲームをやっているんなら、ダメージを肩代わりしてくれるような、身代わりになるようなアイテムがあったりしないわけ?」
私が想像しているのは、藁人形のような物。ホラーが苦手なくせに真っ先にそれが思い浮かぶのは、人魂と対峙しているからだろうか。
誘引に成功し、私だけが飛行魔法を解除する。
カイユウのメイン武器は両手で用いることが前提で、サブ武器も魔法が使えるようにと杖にしている。どちらも片手で振るうには都合の悪いため、私がアタッカー役だ。
「あるらしい、って話だ。効果もいまいち分かっていないけど。つまり、まだ誰も見つけていないってことだな。ある特殊なモンスターを倒したときに手に入るアイテムを所持していると、クラフトで作成できるようになるらしい」
「そのモンスターは?」
「不明。ここのモンスターであるなら良いんだけどな」
もしも違うのなら、そのモンスターを倒すことが私の次なる目標、となるだろう。
螺旋を描くように、人魂との距離を詰める。振り抜かれた刃は、その揺らめきを切り裂いた。




