44.ゴーストさんは転ばない
「金烏玉兎」
「せぇの、で行くぞ」
今更ながらパーティーを組んで、カイユウに対しても強化魔法を付与できる状態にした。金烏玉兎の消費最大ゲージは大きく、残ったのは一割りほど。
といっても、お情けの一割なんだろうね。この割合から脱却するのが、一先ずの目標だろう。
具体的に言えば、体力ゲージの初期値は五百。ガードのステータスを一上げると、同じく一上がる。そこに装備の強化によって増加させたりもすれば……、となるのだけれど。
当初は体力ゲージがそこまで重要になるとは考えていなかったため、カナタが気を利かせて上げておいた分を合わせて千程度。ステータスの分も合わせれば、合計で二千には少し届かないくらい、か。
閑話休題。
同時に振り返ったことで動きを留めた、白いシーツを被ったような典型的なお化け。この動作によって動きをとめることは判明したものの、未だにダメージを与えることができずにいた。
物理攻撃は駄目。魔法攻撃も駄目。同時に攻撃してみても駄目。ならどうするか。
それまでは私のゲージ残量を気にして強化魔法を使ってこなかったのだが、ゲージを徐々に減らしてくる攻撃しかしてこないようなので、思い切って使用して強化された攻撃を披露しよう。というわけだ。
カイユウが振り下ろす斧に合わせるように、私はお化けの背後にワープして刀を振るう。
命中はしたものの、――手応えはない。
もう一撃。もう一撃。
無防備なお化けに対して攻撃を繰り返す。しかし、やはり手応えのようなものは一切なく。ウィークアイズでお化けの体力ゲージを確認してみるも、やはり減っていることは確認できない。
「どうする?」
ワープを使ってカイユウの隣に戻ると、ため息を隠すことなくそう訊いた。
「可能性を考えるなら、他のモンスターの攻撃を当てる、とか?」
「他って、人魂とか骸骨とか? でも、骸骨は倒しちゃったけど」
「じゃあ人魂だな」
「その人魂、倒すことがエクストラクエストの発生条件の一つだった筈だけど。それがギミックに必要になる?」
「……え、詰んでる?」
その考えでは、詰んでるだろうね。
「他に攻撃が利くようになる条件がある、ってことじゃないかな」
問題のモンスターと見つめ合いながら、私は最大値の減ったゲージを意識しながら考える。幸い、金精霊の強化魔法は戦闘が終わるまで効果を発揮し続ける。自身に付与する魔法である閻浮檀金は、任意のタイミングで解除ができるのだけど……。
自分以外影響を与える魔法は、任意での解除ができないのがこのゲームのルール。なので、考える時間は充分にある。
答えに辿り着く要因は、一体どこにあるのだろう。
「お化けを倒すとしたら、まず何をする?」
「祈る」
「じゃあ祈ってて」
ヤンキーみたいは見た目の人が、両手を合わせて祈っている。演出一つでとんでもないバックボーンが生まれそうだけど……。
「何を考えて祈ってる?」
「昼めしのカップ焼きそばが美味かったことに関する感謝。指定された時間よりも、少し待つのが美味いんだよ」
それは感謝ではなく自画自賛では?
ともあれ、祈ったところで目の前のお化けには効果がなさそうなので、別の手を考えよう。
「他は?」
「塩をかける」
「ナメクジかよ」
盛り塩やらお守りやらは訊いたことがあるけれど、直接かけるのは聞いた覚えがないような? でも、葬式帰りの人にかけたりはするのだから、その延長線みたいなものなのだろうか。
ホラーと言うか、オカルトは苦手で通ってこなかったから知識に乏しい。
念のために、手持ちの塩をかけてみた。
「いっそ、塩釜にしてしまおうか」
「あ、火魔法ってのもいいかもしれないな」
「試してみよう」
基礎的な火魔法はヒューマンの時にも取得できるので、二人でそれを使用してみた。当然の如く効果はない。当たり前だよなぁ。魔法攻撃は効果がないと、一度試したのだから。
例え特定の属性だけが効果を発揮するのなら、何らかのヒントがありそうなものだし。
ならば、これまでのやりとりの中に、なにかヒントはあっただろうか。
先ず、あのお化けは近付こうとすると一定の距離を保つようにして離れていく。どれだけのスピードで近寄ろうとも、その距離が縮まることはない。
次いで、同時に振り返る。そうしてお化けを見ることで、その動きを止めることができる。しかし、それではダメージが与えられない。
では、……その先があるのか? いや、そうか。その先があるはずなのか。
「ピンときたかも。あのお化け、私たちの後を付いてきていたでしょ?」
「そうだな」
「で、振り返ったら動きを止める」
「だな」
「では、振り返らずに私たちが動きを止めていたら?」
「……どういうことだと?」
つまり、私たちが動いているとお化けも動く。振り返ると止まる。そして、攻撃する際にも動きを止めている。ならば振り返らずに、止まったままでいたらどうなるのでしょう、という話。
「まんま、『達磨さんが転んだ』だよ。振り向けば動きを止める。でも私達が動いているから、この遊びは始まらない。私達が動きを留めて、初めて始まるんじゃないかな」
でも、なぁ。と言うのが素直な感情だ。もしもこれが当たりであったのなら、私たちが振り返るまでの間、お化けは私たちに向け近付いている筈。そんな中で振り返ったら?
……お化けが至近距離にいたら、怖いんですけど。
「で、二人で同時に振り返った時に、私は攻撃できないかもしれないから。その時は任せるよ」
「え、なんでだよ」
「怖いから」
「そうですか。……美人に凄まれると、怖いんだな」
可愛げがなくて悪かったね。
「というか、美人美人って煩いんですけど。そんだけ言っていると逆に嫌味に聞こえるって」
「えー、そうなん? あんまり女性と接点がないからいまいち分からんな」
ま、面と向かって言われることは少ないから、嬉しかった面はあるけれど……。それを口に出せば調子に乗るだろうから、この話はこれでお仕舞いにしておこう。
「じゃあ、試してみようか」
「うっし。ここは童心に戻ってみるのもいいかもな。おーばーけーさんが、こーろー――」
私達は、お化けとの達磨さんが転んだに挑んだ。
ドキドキの瞬間だ。どれぐらいのスピードで接近してくるのか、相手から触れられたら、こちらにダメージが発生するのか。触れられないけど、限りなく近づいた状態にすることで、何が起こるのか。
深呼吸をする。そして横目で合図をして息を合わせる。
「――んだ!」
私達は、振り向いた。そして――。
私は驚いて、お化けに対して思いっきりビンタをした。




