43.ゴーストさんが転んだ
おそらく一体目の討伐目標を撃破した私達は、再び深海のような無重力空間を進んでいく。
赤い人魂は未だに姿を現さない。もしもあの動きにパターンがあるとすれば、私達がその後を追うように動いていた場合、一生追いつくことができないのではないか、という不安が過る。
「こうも暗いと、気が滅入ってくるよね」
「へぇ、そんなナイーブなことを言うんだな」
ホント、口が悪い男だ。
「そういう時は、優しい言葉をかけないとモテないよ」
「そうか? これでも合コンなんかでは、男らしくて素敵って言われるんだが」
飲みの席のおべんちゃらなんて信じるなよ。
「連絡先を交換したりとか」
「……あれ、そう言えば、その後誰とも連絡をしていないような?」
「ご機嫌になって忘れているのかよ」
「そ、そういうこともあるだろ。ほら、自分が先頭を歩いていると思って、ちゃんと付いてきているか、と振り返ったら誰もいないとか……」
誤魔化すにしても、その例えばどうなのだろうか。そう感じて笑ったが、誘い笑いにはならなかったようでカイユウはどこか神妙な表情をしている。
後ろを、振り返ったまま? その姿に誘われるように振り返ると――。
ビクッ、と肩が跳ねた。
「し、白いシーツみたいなのを被った、典型的なお化けがいる!?」
「あ、やっぱり気の所為じゃないのか。良かったー、ちゃんといるよな? はぁ、俺にしか見えない幻覚かと」
いや、それくらい全く気が付かなかった。一体いつから後ろにいたのだろうか。それに、何の目的で私たちの後ろを付いてきて――もとい、憑いてきているのか。
逃げるようにスピードを上げるも、付かず離れず絶妙な距離を保っている。
攻撃されているようなことはないようだ、け、ど……。
「よく見たら体力ゲージが徐々に減ってるじゃん! アハ体験かってくらい緩やかに!」
「え、うっわ、マジかよ。なら、さっさと倒せば――」
やるしかない。そう振り返って、先ずはカイユウが動き出す。斧を振りたくって攻撃をするが、そのどれもがお化けの身体を通過していくばかりで、その攻撃が利いているようには見られない。
ならば。
「サンメテオライトッ!」
遮る場所がないことを活用して、移動しながらチャージをする荒技を披露しての魔法攻撃。これならば、と思ったのだけれど、それすらも利いているようには見られず、あいも変わらず私たちの後を憑いてくる。
レーザーのようなものを放つ人魂。ビームを放つ骸骨。前の二つに対して、存在そのものが異質すぎない?
「これ、どうすればいいと思う?」
「さぁな。問題はどこまで憑いてくるか、だな。このままいくと、……ログアウトしても背後にいたりして!」
本気でやめてくれと、力の限り睨んでおいた。
「わ、悪かった。本当に苦手なんだな」
「次に不用意なことを言ったら、ヒロくんに頼むであんたの料理を激マズにしてもらう」
「申し訳ありませんでした。……あいつ、妹の頼みならやりかねん」
分かればよろしい。そう頷いて、改めて背後のお化けを観察してみる。
相変わらず、体力ゲージはほんの少しずつ減っている。それ以外では攻撃してくる様子もなく、移動する私たちの後を憑いてくるのみ。
「さっき気になったんだけどさ。俺が攻撃した時、あいつ動いていなかったんだよ」
「それが?」
「一定の距離を保ってくるモンスターなら、それは不自然だろ?」
あぁ、確かに。一定の距離を保つモンスターなら、近接攻撃は当たらない。ならば、近寄ることはできるのか。
進行方向を変え、お化けに接近するようにしてみると、その説を覆すかのように逃走をするお化け。
やはり、距離は一定に保とうとするモンスターのようだ。
「なら、なんであの時は動きを止めたんだ?」
「何か条件があるんだろうね」
動きを止める条件か。私が魔法を使用したときには、動きを留めなかった。
「流牙ッ!」
不意打ちのように攻撃を繰り出したものの、やはりその距離は保たれていて、攻撃は全く当たらない。
物理攻撃なら当たる。その可能性はなさそうだ。
その他に考えられることは……。
「ねぇ、私が今、攻撃した時に振り返った?」
「あの突進系の技の時にか? 急すぎて反応できなかった」
つまり、そういうことか。
「解った。複数人いるときは、同時にお化けを見る。それが動きを止める条件なんじゃない? あ、先に立ち止まるのがいいかもしれない」
試してみよう。
そうして同時に立ち止まり、振り返る。見事、お化けは静止していた。……というところで、次なる問題だ。
「よし、動きを止めることはできたな。あとはどうすれば攻撃が通るか、だ」
「これもまた、同時に攻撃とか?」
「可能性はあるな」
これも試してみよう。
私は刀を抜き、カイユウは斧を構える。そうして接近をして、それぞれの獲物をクロスするように振るった。
結果はすんなりと通過。手応えなんてものは全くない。
「うわー、こんな面倒くさい戦い、それこそ夢に出そう」
「……」
余計なことを言いそうな口を自分で押さえるとか、ただの口の軽い男ではなさそうで安心だ。それについては安心できるのだけど……。
いや、これどうやって倒せばいいの?




