35.図書館
街同士におけるワープを使って草原の街へと戻ってきた私は、インベントリに入った紙袋を取り出しながらクエスト斡旋所へ向かった。
砂漠の街が開放されたせいか、受付へ問い合わせようとする人たちが行列を作っており、それをさばく社員の方々の苦労になんだか申し訳なく思えてくる。
手伝ったほうがいいのだろうか。でも、業務の内容が違いすぎて邪魔になるだけか。
そもそも、私もこの行列に並ぶ側だ。心の中で手を合わせながら、目的の人物が座る列に並んでその時を待った。
「お疲れ様、カレン」
「あ、モカさん。お疲れさまですー。いやー、私達にとっては嬉しい悲鳴ですかね。こう、ゲームが進んでいるんだなぁと実感できます」
「そういうものなんだ」
「ですです。モカさんでいうと、作った料理を美味しく食べている姿を見ている感じですかね」
そう例えられれば、たしかによく分かる。
「じゃあ、その気持ちを味あわせてもらおうかな。これ、差し入れのエッグタルト。よかったら此処の皆で食べて」
携えた紙袋を手渡せば、それだけで笑顔の花が咲いてくれる。それだけで、私もなんだか嬉しくなってくる。
「わぁ! ありがとうございます。モカさん、お菓子も作られるんですね」
「私としては、中華の領域って認識だけどね」
「分かります。中華街へ行くと、ついつい探してしまうんですよね」
こんなところにお菓子がある。みたいな発見をすると、より美味しく頂けるような気がして。そんな癒しが、エッグタルトにはあると思う。
なにより、私としては給食で食べた思い出の味。かな。まさか、給食でお菓子が頂けるなんて。という衝撃。
「列も凄いし、あんまり長居しちゃ悪いかな?」
「そうですね。私の業務が六時までですから、その後でなら個人的にお付き合いできますよ」
「んー、それはちょっと申し訳ないし、簡単に転生について教えてもらえれば」
ステータスポイントは使い切ってしまったほうがいいと聞いたけど。そう伝えると、それについてなら神殿の図書館へ行ったほうが良いとアドバイスを受けた。
図書館と言っても神殿の中にある一室で、世界観を紐解くための資料などもあって、暇つぶしにはぴったりだとか。
「そのくせ、プレイのコツなんてものを教えてくれる本もあるんですよ。自分で探すと手間ですから、此処で訊いて貰えますと本の場所なんかも助言出来ます」
「司書とか居ないんだ」
「神殿は基本的に無人なんですよ。いえ、聖職者しか居ないというか」
このゲームのNPCは全て社員の方々が担当しているそうだから、そのために無人と表現しているのだろう。テキストベースだけれど、確かにそこに人はいるから。
「転生に関する本は何処に?」
「Eの棚の上から三段目にあります」
「ありがとう」
「夜は酒場に顔を出す予定なんです。良かったら一緒に飲みません?」
「いいね。良いところで区切りをつけておくよ」
手を振って別れ、神殿へ向かった。出てくることはあったけれど、初めて入る場所に少し心が躍っているのが分かる。
入ってすぐ、左脇に受付がある。真っすぐに進めば円形のホールがあって、中央には女神を象った像が置かれている。取り囲むようにベンチが置かれていて、転生に関する操作は此処でしか出来ない。
その他の施設は、ホールを取り囲むように螺旋状に作られた通路からそれぞれ繋がっており、図書館は二階。しんとした空気が神殿に合わさり、より厳かな雰囲気が感じられる。
棚は六列。背中合わせにして置かれている。棚の上にアルファベットの紙が三角形に置かれていたため、それを確認しながら目的の場所を探す。
(そう言えば、カナタって前に話したときとは少し雰囲気が違っていたなぁ)
探し物をしている時、ついつい別のことを考えてしまうことが偶にある。
(どちらが素なのか、訊いてみたいような、そうでもないような)
ヒナタが好きで、彼女がいると意識してしまうのか。はたまた、ヒナタ以外の女子とは緊張してしまうのか。
まぁ、どちらにせよ初々しい反応ということで。
僅かに口の端を上げながら、棚の中にある本を目で追っていく。直ぐに目的のものを見つけることができた。
「『先輩冒険者の転生アドバイス』ね、そう言えば、私達って冒険者なのか」
それすらも知らなかった。それについても調べたほうがいいのだろうか。まぁ、それは時間があったときに。
本を片手に空いている席を探し、私は腰を落ち着けた。
斜め向かいに座る人が、何かを熱心に熟読している。気になって表紙を覗き込むと、『大きな魚を釣ってみよう』というタイトル。釣りもできるのか。採集ポイントじゃ満足できないのか。
(鮎とか、捕まえられるのかなぁ)
焼きたての鮎を堪能できる時期を楽しみにしながら、私は本を開いた。
分かったことを、いくつか箇条書きにしていこうと思う。
・転生するとレベルが初期化される。
・余ったステータスポイントは繰り越せる。
・ステータスの一割を引き継げる。
・ステータスポイントの使い道が増える。
・転生ごとに種族が選べる。
重要なのは、この五つだろう。
まず一つ目。転生するとレベルは初期化されてしまう。だから、いきなり戦闘に出るよりもスキップでレベルを上げてからにしよう。
これを忘れるとレベルが一のままでボスに挑戦、なんて事も考えられるから、本当に注意しておこう。スキップではアイテムが入手出来ないから、スキップしない選択肢も必要なのだ。
続いて、余ったステータスポイントは引き継げる。
これも重要な要素ではあるのだけど、序盤で行うのは罠に感じる部分があるので、まずは考えないようにする。
それ以上に大事なことが、ステータスの一割を引き継げることだ。
このゲーム、ステータスのカウントストップが九百九十九に設定されている。それから上げるためには必要になってくるのが、ステータスポイントの使い道の拡張だ。
その前に、ステータスの引き継ぎの話。大事なのは、引き継いだ値によって、初期ステータスが永続的に上昇するということ。
要は一部のステータスに振り切ってしまい、転生によって一割を引き継ぐ。それを繰り返して、常時カンスト状態にしてしまおうというわけだ。
ステータスを繰り越すのは、それが終わってからの方がお得。
以上のことを考えると、私はひとまず、目的のステータスの初期値をカンストさせることを目指すべきだ。つまり、ここが方向性を決める重要なポイントと言える。
「ここで間違えると、無駄な時間を過ごしそうだなぁ」
視線が向けられるのを感じて、思わず言葉に出てしまったかと口を押さえる。少しだけ居心地の悪さを感じて、逃げるように本を戻して、図書館を後にした。
「さて、と。一人だけで決めるのはちょっと怖いなぁ」
誰かを探して相談をするか、それとも……。
「時間をつぶして、カレンに話してみるのも手かな」
プレイヤーではなく、運営的なアドバイスも貰えるかもしれないと、少し打算的な目的もあって。




