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メビウスクエスト・エクストラ  作者: 如月 和
転生と設定とそのまた次へ
34/44

34.それは、偉大な言葉

「モカさん、大当たり。クエストでの返答次第で、海岸に亀が出現することが分かりました」


 強い日差しに当てられた大通りを歩きながら、私はガイアから届いた通信に耳を傾けていた。


 興奮したように説明してくれた状況によれば、『海岸で虐められている亀を発見した。どうすればいいか』という質問形式のクエストで、『俺が行くから待ってろ!』などと答えれば、海岸で虐められている亀と遭遇できるという。


 本来このクエストは、『助けたほうがいい』と答えれば回復アイテムが貰えるというものだと聞いていた。得たアイテムを売って、金策ができるいいクエストだと。


 それがエクストラクエストのキーになっているだなんて、いったい誰が想像するだろうか。


 例えば脳トレなどの問題に対して、こんな時どうすれいいでしょうか。と問い掛けられる。そんな時に、俺が行くよ! みたいに答える? 答えないでしょ。自分はその登場人物ではないのだから。


 ……それがIQと言われたら、私はもうお手上げだけど。


「それで、どんなエクストラクエストなの?」

「レースゲームみたいなものですかね。二人一組で亀に乗って、一人が進行方向を決める。もう一人が襲い来る敵をバリスタで撃墜する」

「バリスタ? ……コーヒー?」

「あはは、そっちを想像する人っすか。弩砲っすよ。でっかい弓」


 あぁ、映画で見るようなやつか。


「え、亀の甲羅にそんなの付いてるの?」

「ただの亀ではなく、ゴーレムでした」

「あ、もしかして隠されている街はゴーレムと関わりがる。みたいな?」

「かもしれないっすね。こっちは俺とロンドでやるんで、余裕ができたら湖エリアの方の調査を頼むっす」

「了解っす」


 口癖を真似て、お互いに笑い合って通信を切った。


「西日が眩しいなぁ」


 此処は砂に埋まっていた砂漠の街。数を頼りに掘り出したこの街だけど、砂で囲まれていない唯一の方角が、街道に続く街の出入り口。つまり西。


 この眩しさは、抗いようのないものだった。


 日傘でも差したい気分であるが、進行方向を遮るのは危険であるため、それも控える。


 街の探索をしているプレイヤーが、私の姿を確認すると手を振ってくれる。肉まん一つで懐かれたものだ。それが嬉しくもあり、恥ずかしくもあって、微笑みながら真っすぐに街の出入り口へと進んでいく。


 彼はちょうど到着したばかりであった。


「ようこそ、砂漠の街」

「どうも」


 素っ気ない返事を口にして、周囲に視線を巡らせるカナタに私は微笑んだ。


 童顔で中性的な顔立ちに反して、つなぎの袖を腰に巻いたワイルドな格好。大人しそうに見えるけれど、その視線は好奇心に満ち溢れている。


 仲のよいヒナタに語らせれば、そういうギャップが魅力的なのだとか。


「ゴーレムに興味があるの?」


 彼にこの街を案内してほしいと頼まれたのは、昨日の夜のこと。興味本位で歩いて迷子になることが偶にあるため、一人では不安だということだった。


 強化用の素材を安くしてくれるのなら、と注文をつけることなく快諾した私は、個人的な目的を果たすついでに、此処で待ち合わせをしたのだ。


「別に。面白そうだと思ったから」


 どっちだよ。と、心の中で笑った。


「それより、レベル上げは順調?」


 カナタが一番興味を惹かれているであろう、クエスト斡旋所の様な建物を目指しながら、その問い掛けに頷く。


「勿論。頼りになるフレンドがいっぱいいたからね。でも、まさかのボス挑戦チケットが経験値になるとはねぇ」


 なんと魅力的な言葉だろう。スキップ。それ素敵で偉大な言葉だ。思わず、スキップでもしたくなってしまうほど。


 詳しい仕組みとしては、スキップクエストと呼ばれるクエストをクリアすることで、ボス挑戦チケットを五枚消費して一回分の戦闘で得られる経験値を、戦闘なしで受け取れるというものだ。


 スキップクエストも特定のボスをソロ――つまり一人で倒すというものだから、そこまで難しくはない。


 チケットはそれぞれ、出現するエリアでランク付けがされている。草原がランク1、砂漠がランク2といった具合だ。


 要は、エリア毎にスキップクエストが用意されているというわけ。本当に、ティアの言葉が身に染みるようだ。


 エクストラクエストにかまけてないで、もっとクエストを確認しておこう。とね。


「でもさ、こういう便利機能は真っ先に教えてくれてもいいと思うんだ」

「可愛い子には旅をさせろって言うからね」

「……え、私、可愛い?」

「うん」


 ……美人だとか、綺麗だとかという表現はよくされるけれど、面と向かって可愛いと言われるのは、なんだか新鮮な気がする。


 ユキやティアには、からかう目的で言われることは良くあるのだけど、この子の表情からは、そういった思惑は感じられない。


 よくそんな言葉を臆面なく言えるよなぁ。最近の若者凄すぎない? 私、ちょっと動揺してしまうのだけど。これがヒナタがメロメロになる所以か?


「そう、ありがとう。それより、ランク2までのチケットはスキップ出来るようになったよ。草原のフラージュマンティスはまだしも、ダイワームのソロ討伐は面倒だったなぁ」


 よし、これで自然に話は戻せただろう。クールな表情だけは、私の誇れる特技なのだから。


 ともあれ、スキップクエストの話だ。


 フラージュマンティスは花に擬態した、カマキリのモンスター。素早い動きで視界から逃れ、デコイとなる花を複数用意して身を隠すのが厄介であったけれど、範囲攻撃が可能ならば、そうそう手こずる相手ではない。


 対して、相変わらずのダイワーム。


「あれ、倒し方が決まっているからね。ゴーレムを囮にするのが鉄板だけど、囮になるようにするには自分で操作をする必要が出てくる」

「そう。ゴーレムを操作して、攻撃して節を切り離して、またゴーレムを操作して。あぁ、面倒だった」


 山岳エリア、湖エリアではどんなモンスターとの出会いが待っているのか。少し頭が痛くなりそうだ。


「でも、転生できるくらいには一気にレベルアップできそうでしょ」

「おたくのヒナタにもお世話になりました。……ところでヒナタは?」

「部活。僕は帰宅部だから」

「へぇ。何部?」

「園芸部。鎌が好きなんだって」


 どういう動機? こういう笑いどころが多いから、この子たちの話を聞いているのが楽しくて仕方がない。まるで、自分の学生時代を見ているようだ。


 ティアなんて、撮影で使えるイコール自由にスマートフォンが使えるのでは? なんて考えて、写真部に入ったくらいだし。


 部活動紹介で、そう暗にアピールしてきたのだから、あの時の部長はなかなかやり手だった。


 どんな花が好き? 花言葉を聞かされるから覚えた。そんな話をしながら、私達は目的の建物へと辿り着いた。


「はい、到着でーす。この建物で、土魔法の拡張が可能になります」

「ゴーレムをカスタマイズすることができる機能、か。造形もいじられるみたいだから、興味を持ったんだ」


 詳しく聞けば、両親がその手の仕事をしているらしい。それで別荘を建てられるくらいなのだから、なかなか実力のある人達なのだろう。


「案内してくれたお礼に、一つアドバイス。転生をする際にステータスポイントを使い切っておくこと。詳しくはクエスト斡旋所の受付で訊くといいよ」

「気にしなくていいのに……、と言いながらも、そのアドバイスはありがたく受け取っておきます」


 この砂漠の街、街としての機能は神殿と街同士のワープくらいで、プレイヤーの自由にできる余地がある場所だった。


 そして、転生は神殿で行うことができる。そのため私は、此処で転生を行う予定でいたのだけど、ね。


「じゃあ、私は草原の街へ戻るよ」

「転生機能はこのゲームの肝だから、しっかり勉強しておいたほうがいい。その方が、僕も仕事がしやすいから」


 次に会うときは、その言葉の意味もしっかりと理解していることだろう。


 まったく、私の周りには説明が足りない人ばかりだな。そう呆れながら、建物の中に入っていくカナタを見送った。


 ま、それを面と向かって言ったところで、自分で調べたりするのもゲームの楽しみだろ? なんて言われるのがオチだろうけど。


 ……再び可愛いと言われることは、期待していないよ?

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