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33.戦いの後に

 一日置いて、もう一体のゴーレム――ウインドリットゴーレムに挑んだ。


 行動パターンは概ねサンドリットゴーレムと同一であったし、最初からフルメンバーで挑んだために、それこそ力によるゴリ押しの構図となり、とくに苦戦することなく戦闘終了の運びとなった。


 これらの戦いによって、一年という時間の重さが嫌というほどに実感できたと思う。


 戦闘終わりに街の酒場で打ち上げを行って、二次会に参加したのは私とティアの二人だけ。気心の知れた旧知の人物とあって、私は素直に、この感情を打ち明けてみた。


「結構、疎外感は感じるわけよ。私がいなくても楽に倒せたじゃん、って」

「ま、事実だよね」


 カラカラと笑って、ティアはビールを呷った。


「でも、それはモカが生真面目にゲームを進めているから、かもね。いや、ゲームと言うよりも仕事か。ちゃんとゲームをやっていれば、追いつく方法はいくらでもあるし」


 私はハイボールを口に付けながら、どういうことだとティアに続きを促した。


「モカには仕事があって、エクストラクエストをクリアしなければならないわけでしょ? 今はそこに一生懸命になっていると思う。でも、それはひとまず経験豊富なロンドとガイアに任せて、自分はレベルアップに努めるのも、一つの手だと思うわけよ」

「でも、それが仕事なんだしさ」


 チッチッチッ、とティアが指を振る。


「人に任せるのも仕事のうち。ユキに言われなかった? プレートを人に預けるのも一つの手、みたいに。みんなが戦っている間に、レベル上げも出来たと思うけど」


 そう言われると、頭が痛い。そうか、適材適所か。私には難易度が高そうなものなら、いっそ人に任せて自分は自分にあった行動をすべし、か。


 マキシマムゴーレムとの戦いを思い出す。形勢が逆転したのはティアと合流してからだ。そこできちんと、自分の実力を把握しておくべきだった。


 はぁ。こう言うのも、経験の差なのだろうか。私は日頃から、両親に甘えていたのかもしれない。なんでも自分で決めて、行っているような気になっていたけれど……、とね。


「オーケー。分かった反省した。多分ね、自分で見つけたものだから舞い上がっていたんだと思う」

「ま、ゲームなんだからそれも一つの楽しみだと思う。普通だったらそれでもいい。でも、モカの場合は仕事でもあるからね。時には効率的な考えも必要だよ。その上で――」


 楽しめるときは、存分に楽しむ。そのための力を付けるといい。ティアはそう笑ってビールを飲み干した。


 翌日、私はユキに呼び出されて砂漠へと向かった。


 どちらにせよ、街を開放するためには砂漠の砂を掘らなければならないわけだし、砂漠へ行くのは確定していたから、断る理由はない。


 砂漠に街があれば、そこで打ち上げをしたのに。と残念でならない。


 なら打ち上げは全て終えてからに……と言われてしまったらそれまでなのだけど、長い戦闘を終えたら飲みにでもいきたくなる。その気持ちは理解してほしい。


 ユキは乗合馬車の停留所で待っていた。


「お疲れさん。いろいろ学びがあったんじゃないか?」

「お疲れ。あったよ。私は色々と経験が足りていないからねぇ」


 朗らかに笑うその肩を軽く殴ると、「頑張ってレベル上げアンド、装備強化だな」と言う。


「装備強化はカナタくんに任せるとして、どこかに良いレベル上げスポットなんてないの?」

「スポットはないけど、手っ取り早い方法はある。後でゆっくり教えてやるよ。知りたくなったタイミングで教える。それが学びにおいて大事だと思うからな」


 何を偉そうに。そう不貞腐れながらも、ユキに促されて砂漠を進んだ。


「それもこれも、この砂漠の街のエクストラクエストクリアした後ってわけだ」

「まぁ、そうだな。けど安心しろ。それについては手を打っておいた。ほら、見えてきただろ」


 指で示された方向に視線を向けると――。


「なんか、人がいっぱい居る?」


 賑やかな声が聞こえてきた。


「おーい、ダイワームのゴーレムで掘るのは、ちょっと無理そうだぞー! 壁面が固まってそれ以上は穴を広げられなくなる!」

「手作業よりは、風の魔法で払ったほうが早いかもな」

「地の精霊に転生した奴は居ないかーっ?」


 どういうことだと、ユキを見る。


「クエスト斡旋所のフリースペースで募集した。戦闘に関してはパーティーとか、フレンドの兼ね合いでそんなに人は呼べないけどさ。こういった時には、みんなで協力をするのが早いんだよ」


 学んだんだろ? ユキの目は、そう言っているように感じられる。


「もしかして、社員だから一線引いてしまうタイプか?」

「ちょっとある。けど、むしろ引かれるんじゃない?」

「それは大丈夫。プレイしながらゲームの進行を助ける存在がいることは通知済み。まぁ、それを上手く可視化する方法を考えてはいるんだけど、それは追々と」


 すなわち新たな対立である。それくらいは、私も既に学んださ。


 それにしても――。


「話は変わるけどさ」

「うん」

「私としては、さ。スカッとするような終わり方を目指していたつもりなのよ。みんなで謎を解いて、みんなでボスを倒して。やったねー。なんて言いながら砂を掘り返して街を出して、ね」

「今まさに、そういう状況だろ」


 はぁ。と、私はため息をついた。


「それなら、私はみんなの英気を養うために、力のつく肉まんでも作りますかね。いや、豚まんと言ったほうが通じる人もいるかも?」

「……お前、昔からこういう人の輪に入るの苦手だよなぁ」


 思えば、体育祭や文化祭も居心地の悪いものだった。


 別に、クラスのみんなと仲が悪い、というわけではない。むしろ良すぎるくらいで、放課後に声をかけられては街で寄り道をする。なんてこともよくあった。


 そんな具合だからこそ、みんなも私のことをよく分かっていたのだろう。


 私は、こうも大人数が集まる場では、遠慮してしまってうまく動けなくなってしまう。


 この作業はあの人が行うかも。私がやっては邪魔になるかも。そう思ってしまって、次第に輪から外れていく。それが自分でも嫌で、それなら最初から……と思ってしまうのだ。


 だから体育祭ではあまり競技には出なかったし、文化祭ではほとんど人がいない部活の、ひっそりと奥まったところにある教室で営む活動の店番をする程度。


 ジッと本を読んで、たまにクラスメイトが持ってくる差し入れを食べる。クラスでの催しは、参加すらしなかった。


 大人になって変わったかと思えば、そうか、そりゃ両親との仕事が主の場で遠慮をする機会なんかないのだから、早々変化を見せることもないか。


 町内のことも、仕事のことも、思えばほとんど親がやっていたように思う。

 

「高校の頃は、私はいつも差し入れを頂くばかりだったからね。自分からこうして動くのも、大きな一歩だと思いますけど?」

「拗ねるなよ。調理器具はあんの?」

「便利なものは一通り揃えた」

「ここで店でも開く気か?」

「冗談。私は今、飲食から離れているの。だから料理を仕事のようにするつもりは全くないね」


 それはそれで残念だ、と呟くユキに、私は笑った。


「穴掘りに励むみんなさん! 差し入れを用意しました!」


 初めてのMMORPGという世界。その醍醐味を味わうための最初の一歩を、私はようやく踏み出した。

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