32.VSサンドリットゴーレム その六
サンドリットゴーレムの足形態。それが解除されたのは、私が上空で振り回されている最中だった。
球体を取り残すかのように砂の身体が溶けるように消えていき、そして、球体が力なく刀から抜け落ちていった。
お陰で私は命からがら着地を果たしたのだけど……。
「こういう時に、格好良く男性に受け止めてもらう願望が私にはあった」
「なんか、すみません」
いつの間にか到着していたガイアに対して、私はジトッとした目で訴える。
それがもしも好きな相手であったのなら、当然トキメクだろう。そうでもない相手でも、それなりの感情を持って然るべきだ。
「まぁまぁ、ガイアも到着したばかりで状況を飲み込めてないんだから、そう責めずに」
なだめるティアに、私は思わず吹き出した。
「本気じゃないよ。無茶をしたのは私だしね」
「それは本当に。ロンドが、あれでは攻撃できないとプリプリしてた」
「そんなに可愛く怒ってた?」
「うん。ピーピー怒ってたよ」
それは放送禁止用語では?
そんな話をしていると、鎖を回収しながらヒナタが駆けつけ、ロンドがミクを連れてやってきた。
「お姉様、お疲れさまです。いやー、よくあのまま耐えましたね」
「ま、二度目だからね」
ダイワームとの戦いでの経験値が、役に立ったと言えるだろう。
「うんうん。なんか見覚えのあることをしているなぁ、と思ってました。モカさん、ああいうのがお好みで?」
「遅れている人たちに、良いものを見せてやろうというサービス精神だよ」
なんてリップサービスをして、ミクの到着を喜ぶ。
透かさず、私が使うものよりも強力な強化魔法を使ってくれるあたり、自分の役割というものをしっかりと理解しているのだろう。
「うっし。みんな揃って準備万端。流れ的には、人型に戻る感じかな?」
腕を回して意気込むティアは、周囲に視線を向けてゴーレムも行方を捜しているようだ。
その姿は未だ見せていないけれど、確かに今までの流れを考えれば、人型に戻る事が予想される。
「でも、これだけの上昇率の強化魔法を貰ったら、人型なんてサクッと倒してしまいそうですよね」
ロンドの言葉に、確かにとヒナタが笑った。
「人型は弱い感じなんすか?」
「今のところ、形態が変わる前のウォーミングアップって感じ、なのかなぁ。動きは素早いけど、それほど強いわけじゃなかった」
そう答えると、ガイアは虚空を見上げる。
「ティアさんに少し聞いたんすけど、手から始まって頭、足ときたんすよね」
「そう」
「次は胴体が来るのか、はたまた合体状態なのか」
何が言いたいの? とガイアを見る。
「あ、もしかして三形態を経て、人型がパワーアップしているのでは、なんて言いたいの?」
ミクの発言に、私の頭に嫌な予感がよぎる。
待て待て。それで狙われるのは私なのだよ? いくらミクから強化魔法を貰っていても、神経をすり減らす戦闘は御免なのだけど。
拳と刀の打ち合い。タイミングを間違えばそれが自身に突き刺さると考えれば、先程の足との戦いとは比べ物にならないほどのスリルだろう。
私としては、勝てるタイミングで一手を打つのが好きなんだけどなぁ。
「あ、球体が出てきました」
ヒナタの指が指し示す先を、みんなが揃って見つめる。
球体が現れ、徐々に水のように流れ動く砂が肉付けされていく。
人型。体長は先々のものとはそう変わらない。変化があるとすれば、膝や肘、肩などが刺々しく突き立っているところだろうか。そして今、翼が生えた。
「雰囲気的には、最終決戦かな?」
「ティア先生。こういう場合はどういうふうに攻めたらいいのかしら?」
「モカ生徒。このアタシから助言を授けてしんぜよう」
翼をはためかせて、一息で距離がゼロになる。
「火力で押し通すのだよッ!」
咄嗟にしゃがんだ私の頭上を、斧が通り過ぎていく風圧を感じた。
「そう言うのは好みっすね!」
透かさずガイアが追撃に入る。
両手に携えた剣を獣の腕のように交互に振るい、凶悪な見た目のサンドリットゴーレムを押し戻していく。
それを嫌がるように、翼が忙しなく動く。空へ逃げようとしているのだろうか。
「させるかッ!」
雨あられのように弾丸を浴びせられる、その身体が僅かに怯む。その隙を逃すまいと、鎖鎌が纏わりついて行動を抑制する。
「そんじゃ、デカいの行きますかッ!」
夜の暗がりを染め上げるほどの輝き。まるで光の柱のように、天から何かが振り注ぐ。
「サンメテオライトッ!」
ミクが放つ強力な魔法に、サンドリットゴーレムが飲み込まれていく。
火力で押し通す、か。私はどうやら、肝心なことを忘れていたらしい。
そりゃ、未だに最初のエリアをウロウロしている私にとっては、戦いごたえのあるボスであろう。けれど、私の周りにいる五人にとっては、そこはもう既に過去の場所なので。
既にこの地を離れ、数段上の難易度を主戦場としている皆にとって、所詮、砂漠のボスなのだろう。
合間の人型がウォーミングアップに感じていたのも、きっと、みんなのお陰だ。
せめて、最後に一太刀浴びせたかった。けれど、動き出すだけの経験値も私にはなかった。
「まったく、……時間ってのは恐ろしいな」
私の呟きは、魔法の余波によって風と共に消えていった。サンドリットゴーレムもまた、もう其処には居なかった。




