30.VSサンドリットゴーレム その四
砂嵐のような攻撃が止んだのを確認すると、私は隠れ場所として利用していた落とし穴から飛び出した。
巨大な人のような頭部となっていたサンドリットゴーレムは砂に溶けていき、弱点らしい球体も見当たらない。さて、次はいったいどんな姿になるのだろうか。
固唾を飲んで見守っていると、ゴーレムがいた場所は次第に、蟻地獄の巣のように窪んでいった。
と言うことは――。
「舐めんなっ!」
目の前に迫る拳を刀で弾き、私は初めて、果敢に攻めてみることにした。
人型となったゴーレムの弱点らしき球体は、おおよそバスケットゴールほどの高さにある。動くスピードはかなり速いため、隙を逃しては直ぐに距離を取られてしまうだろう。
左手に構えた鞘を打ち込み、バックをして距離を取ろうとする動きに合わせるように、私は必殺技を起動した。
「流牙ッ!」
命中すると、直ぐに私の方から距離を取る。追撃をするために、ティアとヒナタが駆け寄ってきていたのだ。
「オラァッ!」
斧が激突し、その衝撃で体勢を崩した。その隙に、ロンドが放つ弾丸が瞬く間に命中していく。
雨あられのような弾丸が止み――。
「オマケですッ!」
ヒナタが独楽のような滑らかな動きで鎌を振るい、連撃を与えていく。
「みんな、必殺技は使わないの?」
「状況によるかなぁ。ま、モカも転生をするまでレベルを上げれば、なんでそうなるかを理解すると思うよ」
ゴーレムが砂漠に沈んだのを確認してティアに問い掛けると、私の実力不足を痛感するような言葉を頂いた。
転生は、確かレベルが百になったら可能となる筈だ。砂漠での移動やマキシマムゴーレムとの戦いで多少のレベルが上がり、今は五十と折り返し。
これ以上のレベルアップを図るなら、やはり山岳エリアの方へ向かいたい。
ならば、さっさとこのゴーレムを倒して、さっさとエクストラクエストを終わらせて。次のステップへと駆け上りたいところだ。
「やっほー。ヒナタちゃんだよね? 話は聞いているよ。私はロンドちゃん。アイドルでーす」
「知らない人。……ご当地アイドルです?」
「……首都です」
それもある意味、ご当地では?
「ま、まぁ、そんな話はさておくとして、ここで再び賭けの時間です。賞品はモカさんの作るあんまん。お題は、サンドリットゴーレムはどんな姿に変化をするか」
「今度こそ足」ティアが答え。
「やっぱ足だよね」私が答え。
「足なんですね」ヒナタが答える。
その結果にロンドはブーブーと不満そうだけれど、ここで一人違うものに賭けて、一人勝ちを狙うと言うことは、するつもりもないようだ。
「じゃあ、ロンドちゃんも足にしますー。胴体の形をとるっていうのは、ちょっと敵としてのビジョンが浮かんでこないしね」
「もしも胴体がなくて頭と手足への変化だけだったら、この戦闘も終わりが近付いているって感じだね」
ティアがそう言うと、私達は揃ってそれぞれの顔を見た。
集まったのは四人。まだ参戦していないガイアとミクは、間に合うのだろうか。
たしか、ガイアは明日の天気が急に雨の予報となってしまったため、出来ていなかった対策を急遽することになって、ログインする時間が遅くなると言っていた。農業の辛い性、というやつだろうか。
ミクも仕事の都合がつかないかもしれない、と言っていたので、そもそも今日ログインをしていたらラッキーなぐらいだ。
二人ともログインは――。
「あ、でも二人ともログインはしているみたい」
「お、確か二人とも砂漠でログアウトしていたよね? じゃあ、間に合う可能性もあるわけだ」
「ガイアはアタッカーしか出来ないから、ティアさんがいればそれでもいいんですけど……」
「ミクさん、待ち遠しいですよねぇ」
ヒナタの言葉に、今回の戦闘の全てが詰まっているような気がしてならない。
ターゲットにされている私は、あまり大きな魔法が使えない。けれど、広範囲に影響を与える魔法が使えていたら、手の平のように変化をしたときも、頭部のときと、相手の動きを影響を受けずにダメージを与えられていただろうから。
「ロンドさんは魔法は使えないのです?」
「ロンドちゃんは物理特化を目指してるからねぇ。そう言うヒナタちゃんもそうでしょ?」
「ですです。どうにも、魔法のマーカーの操作が苦手で」
「解る〜」
物理特化、か。私のレベル帯では、まだまだ分からないことが多そうだ。
「もう少し、モカに自由に動ける余地があると思っていたしねぇ。これならミクが動けるタイミングを待つべきだった」
「ティア、それは次のボスとの戦いの糧にしようか。そろそろ動き出すみたいだよ」
頭部の時と同じように、何かに変化したらしいゴーレムが徐々に砂漠から迫り上がってきている。
その姿は、いったい何なのか。今のところ円柱状のものに見えるけれど。
「あれ、なんか揺れてる? 地震? いや、なんか違うような……」
ロンドが訝しがるように周囲に視線を巡らせている。たしかに地震、のようには感じないけれど。
「このゲームでは地震が起こるの?」
「聞いたことないです。でも、確かに地面が振動をしている気が……」
傍にいたヒナタに問い掛けた直後、見えていた円柱状のものが後ろに傾いた。
その瞬間、私は察した。あれは、脛の部分だったのだ。振動は力んででもいたのだろう。思いっきり、砂漠の下から私たちに向け、――蹴り上げた。
「うわっ!?」
回避をする余地もなく、私達は巻き上げられた砂と共に上空へと蹴り上げられる。まるでサッカーだ。重力に任せて落下をする私たちを狙い済ませて、足に変化をしたゴーレムはもう一度、シュートの如き蹴りを放とうとしている。
「球体はッ!?」
「足の甲にある!」
ロンドの問い掛けに答えると、私は刀を構えて迎え撃つ体勢をとる。
「相手の蹴りに合わせて攻撃をするって、なんだかタイミングアクションって感じだね。ロープレのイベントシーンか、はたまたゴルフゲームなんかで、タイミングよくボタンを押すとナイスショット、みたいな」
「ティアはそう言うの、得意なの?」
「待つのは性に合わない。直感を信じる」
「ロンドは?」
「待ちすぎてなかなか押せない」
「ヒナタは?」
「いっそ目を瞑ってみます」
最大のピンチが到来したかも?




