29.VSサンドリットゴーレム その三
「お姉様っ!」
巨大な人の頭部の形状をとったサンドリットゴーレム。その大きな口が私に迫る中、不意に聞こえた声。
それと同時に、私の胴体に鎖が巻き付いた。
「ぐっ!? ……ありがとう、ヒナタ」
腹部への衝撃はなかなかだったけれど、命拾いをしたのなら感謝の念を抱くしかない。もう少し優しい方法はなかったものか、とも思ったけれど、彼女の武器が鎖鎌なのだから、咄嗟の判断ではこれ以上の方法はないだろう。
「いえいえ。頑張って宿題を早く終わらせたのです。その甲斐がありました」
「身についた?」
「……ヒナタは、何の宿題をしていたのでしょうか」
本当に、終わらせるためだけに取り組んだのが分かる台詞である。
閑話休題。
そんな話をしている間にも、サンドリットゴーレムは敵意を口角に表している。口を開けば、砂嵐のごとく砂が吐き出されるだろう。
猶予はどのくらいあるだろうか。
ロンドは背後に回ってガトリング砲を乱射し続けている。が、どうにもダメージが与えられている様子がない。人型の時にもそうであったが、背後からの攻撃には耐性のようなものでもあるのだろうか。
ティアもそれが気にかかっているようで、弱点であろう球体目掛けて攻撃を繰り出している。
先程は砂の攻撃を避けるために距離を取り、そのまま様子を見ていたのだろう。狙い澄ました一撃は、確かに球体へと吸い込まれていった。
一撃で形態を変化させるのか。それとも、もう少し頭部だけのターンが続くのか。
どちらにせよ、あれの狙いは私だけなのだろう。
「ヒナタも加勢に行きます!」
「待った。いま行くのは拙いかもね」
今にも駆け出しそうなヒナタを制し、私はショートカットに登録したままにしていた魔法を起動する。
「ダイワームゴーレム!」
落とし穴を掘って避難するのと、砂が巻き起こるのはほぼ同時だった。
「まったく、一度受ければ対策は思い付くっての」
要は、モグラ叩きのようなものだ。砂の攻撃を落とし穴で避け、止んだら球体を攻撃。再びターゲットが姿を現せば、同じ攻撃を繰り返して球体に攻撃をした人は安全に距離を取ることができるだろう。
そうして、ちまちまダメージを稼げばいい。
「ひぇ~。砂が入り込んできます。服のすき間に入って気持ち悪いですよぅ」
「こういう所はリアルだよねぇ。ま、この砂にダメージ判定がないのは救いか。服を脱いで砂を落とせるかな?」
「インナー姿にはなれますね。そこまで露出は激しくないので、装備を解除しても安心です」
「どんな感じ?」
「えっと、スポーツができそうな感じのやつ」
あぁ、なんとなく想像がついた。トレーニングウェアみたいなものか。
下はスパッツなのだろうけど、丈はどのくらいなのだろうか。中学の頃に卓球をやっていたからか、太ももが太めなのが少し気になっているのだけど。
「足首まで覆ってる?」
「あ、それはメニュー画面から選べますよ」
それはいい。この待ち時間の内に設定をしておこう。
「水着も結構種類があって、それをインナーにするのもお洒落ですよ」
「へぇ、水着。私は子供の時以来、着ていないかもなぁ」
「そうなんです?」
「泳ぐのは好きなんだけど、学校を卒業しちゃうと自由に泳げる場所って少なくなると思うんだ」
スポーツジムのプールは、遊ぶためのものではないし、スイミングスクールもそう。レジャー施設のプールは人が多いし、海や川では潜水する楽しさはあるけれど求めている泳ぎがなかなか。
私は、学校のプールで塩素を拾うような遊びがしたい。
「そうなんですねぇ。カナタくんの別荘にプールがありますし、ヒナタはよくそこで遊んでいるのでイマイチわかりません」
えぇ。
「あの子、お金持ちなんだ」
「ですねぇ。でも、カナタくんのご両親は海外で暮らしていて、祖父母に預けられているんです。別荘も、カナタくんが寂しくないようにと」
どんな職業をしているのかが気になってくるけれど、本人以外からそれを訊くのは少し憚れるし、この話はここまでにしておこう。
待つターンが多いせいか、閑話休題の出番が多くなりがちになってしまう。
「ティア、様子はどう?」
通信を繋げて状況を問う。
「んー……、お。オッケー、砂がやんだ。今から攻撃をするから――」
「私が飛び出して注意を引きつける」
「そう。ヒナタも居るんだよね?」
「居るよ」
「鎌を突き刺した状態のままにできるか試してほしい。そうすれば、長い砂のターンの内にダメージを蓄積させられるかもしれない」
なるほど、長い待ち時間をそのまま攻撃のターンにしてしまおうと。
「ヒナタ、この後飛び出して、ゴーレムの中央にある球体に鎌を突き刺して、距離をとってほしいの」
「あ、継続ダメージを試すわけですね。それなら、私の得意技です」
同意を得たら、後はタイミング次第。
「攻撃、ヒット!」
ティアからの合図を受けたら、私もヒナタは落とし穴から飛び出した。
ターゲットが現れたことで、ティアに向いていた注意が私の方に向いたのが分かる。その隙に、ヒナタが弧を描くように駆け寄って、球体に向けて鎌を投擲した。
命中し、刃が球体に深く食い込んだ。嫌がるようにしきりに首を振っているが、外れない事がわかると、その恨みを晴らすべく攻撃に転換するようだ。
口が開くと同時に、私は再び落とし穴に飛び込んだ。
「まるでプレイリードッグ……いや、ミーアキャット? あれ、どっちがどっちだ? 巣穴を作るのは、あれ、どっちもだっけ?」
メニュー画面から検索ができる。そのありがたみを感じながら、私はまったりとしたひとときを過ごした。




