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28.VSサンドリットゴーレム その二

 これほどまでに、ユキの存在が恋しいと思ったことはあっただろうか。


 手の平状に変化したサンドリットゴーレムとの戦いは、さながら銃撃戦のような様相を見せていた。指を閉じているとガード。指を指して砂の弾丸。私が射線から逃れると、指を開いて姿を探す。


 盾を使い、相手の様子を見て銃撃。だから銃撃戦。でも、言葉で状況を説明すると、相手の形状から見ても、じゃんけんとしか表現できないのではないか。


 だからこそ、相手と同じ手を用意したいのだ。けれど、私にとってのグーでは、相手のチョキ――銃撃を防ぎ切るだけの範囲の防御を賄えない。


「あぁ、ユキが恋しい」

「素直に弾除けって言わないモカって良い子だよね」


 ティアは素直に言うタイプだよね。私はまぁ、本人が居れば素直に言うと思う。けれど、本人が居ないところで言うのは憚れると言うか……。


「現状で言えば、言葉を荒らげるほど追い詰められてはいないかな」


 小刻みなステップで砂の弾丸を躱しながら、ゴーレムの様子を窺うティアに答える。


 正直なところ、ケースバイケースだと思う。言葉というのは、その場のノリのようなものだと私は思っているから。


 相手によっても使い分けるし、気分によっても変わっている。語彙が増えればそれに影響を受けて変わるだろうし、あえてそう言ったほうが受けるのでは? なんて考えて変えることもあるだろう。


 先程から、アイドルらしからぬ罵詈雑言を放ちながら銃弾を放つロンドの様に。


「くっそーっ! やっぱり背後からではダメージが与えられていない気がする!」

「そうなってくると、人型ほどダウンをとるのは容易ではない気がするね。正面からの水魔法は効果がある感じだけど、ダウンするまでには至らない」

「じゃあ、私が魔法で怯むせたら、ティアが弱点を狙って突撃。って感じかな」

「そんな感じかなぁ」


 避けながらでも会話をする余裕ができてきたから、私達は打開の一手を打ってみる。


 今は砂の弾丸――所謂チョキのターンだから、射線上から離れて姿を眩ませれば、ゴーレムが指を開いてパーの状態に移行するはず。


 こういう時にも便利となるのが、移動を伴う必殺技だ。


「流牙っ!」


 長い距離を一気に移動し、砂の弾丸が砂漠に溶けていくことでゴーレムは異常を察知する。すると、指を開いて周囲を確認し始める。


「旋斧っ!」


 がら空きとなって手の平に埋め込まれた球体に、ティアの斧が突き刺さる。


 バットをスイングするように振り抜いた斧に弾かれて、砂の大地をバウンドしながらゴーレムが吹き飛ばされていく。


 抵抗をする意地をなくしたように上空を向いたその手の平は、徐々に溶けるかのように砂に消えていくのだろうか。そうなのだろう。既に球体は砂に沈んだように消えていった。


 第三ラウンドは、再びの人型だった。


「モカが引き付けてアタシが隙を見てダウンを取る。ロンドは変わらず乱射してねーっ!」

「りょーかーい!」


 塵も積もれば――、と言うことに期待しつつ、私は人型となったサンドリットゴーレムを迎え撃つ。肉弾戦になることは経験済みなため、冷静に拳を弾くようにして鞘を振るう。


 多少は仰け反らされるものの、概ね互角で打ち合えているのはカナタによる装備の強化のお陰だろう。それ程まで、私は大幅なパワーアップに成功をしている。


 後はレベルを上げて、使用できる必殺技や魔法を増やして行くのが今後の流れだろうか。その先には、種族すらも変更可能な転生が待っている。


「吹っ飛べっ!」


 ティアの斧がゴーレムの頭部に命中し、再びダウンを取った。今度は球体が砂に沈んでいくのを見逃さない。


「ねぇねぇ、次はどんな姿になるか賭けません?」


 傍に寄ってきたロンドの言葉。


「良いねぇ。アタシは足になると予想する。手の平の次は足だよ、足」

「ティアさんはベターですねぇ。となると、モカさんはもう一度手の平になると予想するんじゃないですか? モカさんって、そういうタイプな気がします」

「え、舐められてる?」

「舐めてません。賭けに勝つための挑発です」


 素直で良い子だなぁ。


「残念だけど、私はもっと違う感じになると思うなぁ。……大きな袋、とか」

「大きな袋?」

「そう。その袋には眠気を誘う魔法の砂が入っていてね、夜な夜な人の目に入れては眠りに落とすんだ」

「へぇ、面白そう。では、私は人型になってその様な攻撃をしてくる方に賭けます」


 抜け目ないなぁ。


「で、賭けに勝ったら何がもらえるの?」

「あんまん。聞きましたよー。私に内緒で美味しいものを与えたとか」

「どっちから?」

「ミクちゃん。あの子、結構顔が広いんですよ。広場のアイドルなんて呼ばれているから、ちょっぴりジェラシー」


 その対抗心は、サンドリットゴーレムに向けてくれると嬉しいな。


「ま、賭けに勝ったら幾らでも差し上げるよ。ほら、徐々に姿を現してきた」

「うわっ、人の頭っぽいのが見えてきた。アタシは外れかなぁ」

「……いや、まだ分からなくない?」


 徐々にその全体像が見えてくる。それは、たしかに人の頭部のようなものを持っいた。けれど、人型というのとは少し違う。


 それは――。


「あれは、大きな頭部? 中央に球体があって、口があるだけの?」

「あちゃー。これじゃあ賭けはお流れですね」

「ロンド、そんな悠長なことを言っている場合じゃないかもしれな――逃げたほうがいいっ!」


 ティアの声に反応して、私達はそれぞれ別の方向に駆け出した。


 けれど、その頭は確実に私の方を向いている。逃げる私を常にとらえているように、顔面が常に私の方を向いている。


 これは無理だと素直に観念し、腰を落として状況を注視する。さぁ、どんな攻撃が来る。ゆっくりと、口が開いた。


 その瞬間、襲い来る砂嵐。砂漠を進む旅人を飲み込む苛烈な攻撃。周りの景色も、自分の姿も見失うような、そんな攻撃に襲われた。


 思わず閉じた目。暗闇には自身の体力ゲージや、ショートカットのアイテムや必殺技が見えるだけ。


(嘘だろ、体力がどんどん減っているじゃん!)


 ショートカットの回復アイテムに視線を向け、発動する。その回復分がなくなる頃に、アイテム使用のクールダウンが完了して、再びアイテムが使用可能になる。


 体力ゲージは常に減らされ続けている。

 アイテムを使用する。

 ゲージが減る。

 アイテムを使用する。


 どのぐらい経っただろうか。アイテムの消費は二桁を超えた。ゲージの減少もなくなり、私は目を開く。


「っ!?」


 目の前で、大きな口が開いていた。

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