表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
日本史上最大のミステリー魏志倭人伝の完全解読に挑む  作者: ひだまりのねこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/51

第四十七話 若き日の百襲姫 姫島編

 

 縄文〜弥生〜古墳時代の日本列島は、今とはまったく違う景色でした。


 平野のほとんどが湿地、川は氾濫し放題、海岸線は入り組んだラグーン状、低地は泥炭地・沼・干潟、後は国土の大半を占める山地です。


 つまり、私たちが今住んでいる都市の多くは、古代の土地改良 (治水・埋立・湿地開発)の結果として誕生したということになります。


 例えば、東京は江戸時代まで湿地・干潟だったのを人工の埋立・河川改修で都市化したことは有名ですよね?


  大阪はかつて河内湖という巨大な湖でした。大部分が湿地で古墳時代の治水で平野化されました。


 名古屋は熱田湾の干潟です。古代の氾濫原で人は住めず、人工的な埋立で都市化されました。


 福岡も博多湾の湿地です。古代の港湾整備に伴う土地改良で都市化しました。


 このように現代の都市の多くは、古代〜中世の治水・土地改良によって生まれたものなのです。


 国生み神話では、最初に生まれるのは淡路島。次に四国。その後に九州、本州と続きます。


 これ、実は海退後に陸化した順番と一致しているんです。


 淡路島と四国は、古代の地形学的に最初に安定した土地でした。


 逆に本州 (特に関東・東海)は湿地だらけで、多くの人が住めるようになるのはずっと後。


 神話の順番は、地形の開発史そのものなんです。


 イザナギ・イザナミの矛で海をかき回すというのは干拓・埋立のメタファーです。


 天の沼矛で海をかき回し、滴り落ちた塩が島になる。


 これは、海をかき混ぜる=海底を掘る、塩の滴=浚渫した土砂、島ができる=埋立地の誕生という、干拓・埋立のプロセスと考えることが出来ます。


 古代の海人族は、実際に海底をさらって港を作り、干潟を埋めて土地を広げていました。

 

 古代王権の本質は、治水、土木、農地造成、港湾整備、航路管理、地形の読み取り、巫女による土地神の鎮撫という巨大インフラ事業そのものです。これらはまさに百襲姫が各地で行ってきたことですよね。


 もちろん、彼女一人で出来ることではありません。百襲姫をリーダーとした専門家集団がチームとなって活動していました。四国 (特に香川・徳島)に多く見られる五角柱の石塔「五神名地神塔」を部門と考えると非常に面白いです。一面ごとの神名を「土木実務」で読み解いてみましょう。


 1. 天照大神あまてらすおおみかみ = 百襲姫【測量・設計】

  実務: 鏡 (光)による方位と水平の決定するチーフエンジニア。

  

 2. 倉稲魂命うかのみたまのみこと = 【食糧インフラ・物流】

  実務: 長期工事を支える食糧(備蓄米)の管理と補給。


 3. 埴安姫命はにやすひめのみこと = 【地盤・遮水・耐火】

  実務: 粘土 (ハニ)による堤防の遮水と、製鉄炉の構築。


 4. 少彦名命すくなひこなのみこと = 【化学・医療・醸造】

  実務: 水質の浄化、作業員の衛生管理。


 5. 大己貴命おおなむちのみこと = 【土木施工・重機・地鎮】

  実務: 岩盤の破砕と、巨石による護岸構築。


 ちなみに、田村神社・船山神社ともに同じ五柱の祭神構成ですので、この五人が 四国における百襲姫チームのリーダーたちであったと思われます。


 ① 倭迹々日百襲姫命=総監督・プロジェクトマネージャー


 ② 彦五十狭芹彦命 (吉備津彦)=開拓・農地造成部門のリーダー


 ③ 猿田彦命=測量・交通・航路部門のリーダー


 ④ 天隠山命あまのかぐやまのみこと=山の神・地形管理部門のリーダー


 ⑤ 天伊田根命あまのいたねのみこと(天村雲命)=土質・基礎工事・地盤部門のリーダー


 このチームに③④⑤という神武東遷神話に関わる神がいるというのは、東遷神話に百襲姫らの業績が上書きされている証です。もっと言えば、神武東遷神話の大部分は孝霊天皇の業績が使われている可能性があります。本題ではないのでここで深堀はしませんが。


 さて百襲姫は、8歳から成人まで四国にいたと記されています。当時の成人は、12~15歳ですので、当時の大規模治水工事の工期五年~七年と考えると妥当な期間と思われます。


 では成人した百襲姫は次にどこへ向かったのでしょうか?


 解像度を上げるために、視点を広げて彼女の家族の動向を見てみましょうか。


 百襲姫の父である孝霊天皇は、息子たちと各地を巡行しながら鬼退治をしまくっています。伝承がすべて本当なら日本は鬼に支配されていた人外魔境になってしまうので、ここで言う鬼とは、土蜘蛛と同じく厄介な地形や土壌のことでしょう。つまり、百襲姫が四国でやっていたこと (土木・治水工事)を全国各地でやっていたわけですね。


 母である倭国香媛は、阿波の天佐自能和気神社に祀られています。淡路島から四国へ入った後、百襲姫は讃岐を、倭国香媛は阿波をメインに活動したと考えられます。百襲姫ゆかりの神社には、母倭国香媛も祀られていますので、常に離れ離れというわけではなく、おそらくは役割分担をしていたのでしょう。


 阿波国の別名は「大宜都比売」(オオゲツヒメ)」、すなわち食糧の女神そのものの名です。神話において、彼女の体 (目・耳・鼻など)から稲・粟・麦・豆・大豆が生まれたとされますが、これは阿波が、高度な栽培技術の集積地であったことの証であり、大宜都比売はこの母娘の神格化された姿であると考えます。気候変動による食料不足の危機を救った五穀がこの地で育てられたという考察は以前しましたよね。


 つまり、父と息子たちは本州で、母と娘は四国で日本を救うために奔走していたということになります。


 百襲姫は成人後、弟たちと合流して瀬戸内海の海賊・鬼退治をしながら西へ移動します。孝霊天皇も西へ移動しているので、伝承の痕跡で考えると少なくとも国東に上陸した段階では家族が合流していた可能性は高いです。


 これまで私は百襲姫が成人後大和に居た時期もあると考えていましたが、少なくとも長期間ではなく、あるいは行っていない可能性もあります。家族を含めすべての痕跡が西への移動を示唆しています。彼女が成人した段階で大和はすでに父孝霊天皇から異母兄の孝元天皇へ世代交代していた可能性が高いです。大和での赴任を終えた孝霊天皇は、家族を連れて一路本拠地がある九州へ西進しました。


 百襲姫と吉備津彦は、赴任先の大和で淡路島出身の母との間に生まれた可能性が高いので九州出身ではありませんが、父孝霊天皇は、ほぼ間違いなく九州出身と考えています。一言では説明できないので詳細は省きますが、大和は九州からの度重なる東遷によって移植がされています。大雑把に言えば、崇神天皇が初代王として大和入りする以前の記紀に記された出来事は、一見大和のことのように勘違いしますが、実際はほぼ九州におけるものと考えています。


 これは記紀の編纂者が意図的に舞台を大和にした可能性もゼロではないですが、記紀の内容を総合的に考えると、その整合性の高さから考えて地名などが同じなので普通に大和周辺が舞台であると勘違いしたと考える方が自然です。


 ただ、事はそう単純ではなく、孝霊天皇のように九州と大和を何度も行き来している人物もいるので、めちゃめちゃ紛らわしいんです。古代史を読み解くには、九州からの東進 (東遷)という構造を理解した上で、地名や氏族名はもちろん伝承や神話すら移動するのだということを念頭におく必要があります。どれが九州での出来事で、どれが大和における出来事なのか、常に見極める必要があるということだけ覚えておいてくださいね。


 まあ……孝霊天皇については状況証拠しかないので、別に大和出身でも大勢に影響はありませんしどちらでも構わないのですが、吉備津彦は豊後 (大分)と肥後 (熊本)の国造の祖となっていますし、これまで触れてこなかった百襲姫のもう一人の弟、日子刺肩別命は豊後国東を治める支配者であったとはっきり書いてあるので、この一族が九州において巨大な地盤を持っていたことは間違いないでしょう。


 さて、百襲姫の移動に関して、四国から九州へ西進した場合、立ち寄った可能性が極めて高い場所があります。それが以前少し触れた国東の姫島なのですが――――この島にはじつに興味深い伝承がたくさん残っています。


 姫島の拍子水ひょうしみずは現在も観光スポットですが、ここは海水に近い場所にありながら真水 (冷鉱泉)が湧くという特異な場所です。伝承では、アカルヒメが手を叩いたところ湧き出したとされ、この時の拍子が神楽の拍子や所作の源流となっているという説もあります。


 アカルヒメ (赤=太陽)が百襲姫の若い頃の神格 (ワカヒルメ)と酷似していることもそうですが、四国において指で突いて湧水を出した構造と同じことに注目してください。姫島が瀬戸内海と九州を繋ぐ経由地であることから彼女が姫島においても活動したのはほぼ間違いないと考えます。


 そして姫島には他にもアカルヒメにまつわる不思議な伝承があります。


 「かねつけ石」: 姫がお歯黒を付ける際、筆と猪口ちょこを置いた跡が石に残ったとされるものです。


 「逆柳さかさやなぎ」: 柳の楊枝を地面に逆さまに刺したところ、そのまま芽が出て成長したという伝説です。


 こういった伝承や神話というものはファンタジーとして受け入れてしまうと本質が見えなくなります。ましてや百襲姫の伝承です、必ず意味があると考えるべきでしょう。いざ考察タイムです。


 まず「かねつけ石」ですが、この時代にお歯黒の文化はありません。では後世に伝承が上書きされたのかといえばそうではありません。まず「かねつけ」という名前に注目します。かね=金属です、金属に付けるための石という意味ですね。そこから伝承の意味が推測できます。


 古代にお歯黒はありませんが、刃黒はぐろという鉄をコーティングする防錆技術があります。鉄器、特に「」にとって最大の敵は錆です。植物のタンニンと鉄分を反応させて「タンニン鉄」の黒い皮膜を作る工程は、現代でも行われる高度な防錆処理です。お歯黒の正体はこれだと思います。


 ちなみに孝霊天皇の子 (百襲姫の異母弟)に圧倒的な武を誇る歯黒皇子 (彦狭嶋命)がいますが、彼がお歯黒をしていたとも思えないので、当時の最先端技術で生成された漆黒の鉄剣を持っていたのでしょう。


 そして「逆柳さかさやなぎ」ですが、これは柳が鍵となります。


 実は柳というのは水を好む植物で、湿地帯の水抜きにもよく使われますが、成長速度を利用して地下水位が高い場所を探していた可能性があります。

 

 さらに言えば、柳の皮には刃黒に必要なタンニンが含まれていて、良質な炭 (木炭)の原料となります。また柳の灰は金属の精製過程で助剤として使われることもあるのです。


 水 (柳)を制御し、火 (炭)を操り、黒い鉄 (お歯黒)を生み出すという一連の土木・化学プロセスがこれらの伝承に凝縮されていると私は考えます。


 これでも考察は十分なのですが、興が乗ったのでもう少しマニアックな世界にお付き合いください。


 姫島は火山島であり、最高峰の矢筈岳などは角閃石デイサイトで構成されています。一般的に火山岩(安山岩やデイサイト)には磁鉄鉱マグネタイトが含まれます。磁鉄鉱は別名「四三酸化鉄」であり、緻密な「黒錆」として金属の腐食を防ぐ性質があります。同時に姫島は研磨剤に適した石材が豊富です。最先端の技術と知識を持つ天才百襲姫なら当然利用したのではないでしょうか。


 余談ですが、姫島から国東半島沖にかけては、最近の研究で全長約60~75kmにも及ぶ海底活断層 (横ずれ断層)の存在が確認されています。


 姫島の「拍子水」は二酸化炭素を多く含む炭酸水素塩泉で、前述したとおり海水起源ではなく、現代にいたるまで枯れることもありませんでした。これは断層を通じて地下深くからガスや水が上昇している証拠であり、古代においてこうした特異な湧水を見つけることは、地殻の活動を読み解く巫女 (技術者)の最も重要な役割であり才能だったと考えます。


 つまり姫島の「拍子水」や四国の「水主」の伝承は、単なる奇跡ではなく、百襲姫の帯水層 (水を含む地層)を特定・見極める力の証であったということになります。


 姫島の伝承には、大蛇を埋めたことで「田が揺れる」という「浮田」の話があります。 これは明らかに液状化現象や泥炭地のような不安定な地盤を示しています。


 断層は地震を引き起こす危険があり、日本列島は断層の上にあるようなもので、安全な場所はないとよく言われます。


 しかし、断層は地層をずらし、本来地下深くにある鉱物 (鉄・銅・丹等)を地表近くに引き上げ、地下水の通り道を作るため、湧水、温泉、鉱泉が生まれやすいのです。


 また、断層運動で砕かれた岩は風化しやすく、栄養豊富で農耕に適した肥沃な土壌が生まれます。


 古代において聖地とされた場所は、現代の基準で見ても驚くほど危険性が低く、かつ断層の恵みを受けられる、という共通点を持っています。


 巫女とは、現代人が考えるような単に祈りを捧げる非科学的な存在ではなく、湧水の変化、地割れの方向、地層の傾き、山の形、地鳴り、動物の行動、土地の揺れやすさなどを駆使して安全性を見極める役割を担っていたと考えられます。だからこそ修行が必要で、常人よりも五感が優れた人間が巫女に選ばれたのだと思います。


 少なくとも、その分野において百襲姫はまさしく天才であったのでしょう。知識だけでなく、第六感のような超感覚すら持っていた可能性が高いです。  


 

 さて、考察が楽しくて姫島で終わってしまいました……ごめんなさい。次回、一行は国東へ上陸します。どうぞお楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ