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TS化したお兄ちゃんと妹  作者: 白花
私を愛してくれるなら
27/28

if 1. もし性別転換がなかったら



 今日もまた憂鬱な一日が始まる。

 お兄ちゃんに「彼女」ができてから、食事も喉を通らず、生きる活力さえ失ってしまった。


 ただそこに存在していることが嫌になって、億劫になって、虚無になって。

 惰性に生きる毎日に、辟易していって。


「……はぁ」


 誰もいない生徒会室で、時間を浪費する日々。


 どうして私じゃないのか。

 私の方が、お兄ちゃんと長く過ごしてきた。

 私の方が、お兄ちゃんをよく理解している。

 私の方が、お兄ちゃんを愛している。


 でも私じゃない。

 分かってる。私が妹だから。

 一度だって、お兄ちゃんは私を異性として見てくれたことはない。


 それが現実なんだ。


「……先輩? どうしたんですか、こんな時間に」


 黄昏れる私の耳に、一人の生徒の声が届く。

 私の後輩で、よく私に懐いてくれる女の子で、私のことが好きな子。


「……別に」

「……なにかあったんですか?」


 ただ、今は一人にしてほしかった。

 こんな弱りきった私を見られたくない。彼女には特に。


「……別に、なにもないから」


 それ故に素っ気ない態度をとって。でも彼女は心配そうに声をかけるばかり。

 そんな察しの悪い彼女に、次第に怒りが募る。


「でも、ひどい顔色して――」


 それでもぐっと堪えた。

 彼女だけは傷つけたくないから。彼女にだけは、嫌われたくないから。


「なにもないって言ってるじゃんっ!」


 でも情緒が不安定だった私は、つい行き場のない感情をぶつけてしまった。声を荒らげて、彼女に当たってしまった。


「せん、ぱい……?」

「あっ、いや……今のは、違くてっ……」


 我に返った時にはもう遅かった。


「ごめん、違うの……あなたのこと……ごめん、ごめんねっ……!」


 彼女から困惑と吃驚の瞳を向けられて。

 頭がパニックになって、目眩と動悸に襲われて、呼吸もまともにできなくて。


「落ち着いてください。ゆっくりでいいですから……大丈夫ですから」


 でも彼女は、そんな情けない私を抱擁してくれた。何回も何回も、私が落ち着くまで背中を擦ってくれた。


「何があったか話してください。私、先輩に力になりたいんです」


 優しく包み込むその声に優しくされて、甘やかさて、宥められて。限界を迎えた心が彼女に溶かされている感じがして。


「――失恋、したの……」


 そうして吐き出してしまった。

 失恋したこと、生きるのが疲れたこと、こんな醜態を晒して貴方に嫌われたくないこと。


「大丈夫ですよ」「辛かったですね」「私がいますから」「無理しちゃダメですよ」「よく頑張りましたね」


 その弱りきった心につけ込むかの様な言葉に、身も心も絆されていく。


「ねぇ、先輩」


 彼女の瞳が私を捉える。

 その淀みのない綺麗な視線がとても心地いい。もっと私を見て欲しい、そう思ってしまうほど。


「私、先輩のこと好きですよ」


 突然の告白に動揺する間もなく、私の唇は生暖かい感触に支配される。


「……っ!?」


 身体が大きく反応する。でも抵抗はしない。


 芳香な匂い、脈打つ鼓動、柔らかい唇の感触、甘い唾液の味。その全てを感じられる喜びに溺れてしまって、彼女を受け入れてしまう。


「私じゃ、ダメですか……?」


 その蠱惑的な瞳に、堕ちてしまう。


 もう彼女のことしか考えられない。彼女のことしか考えたくない。彼女の肌、声、視線、仕草すべてが私の心を満たす要素となって。


「沈黙は肯定として、受け取りますね……」


 そしてまた彼女と唇を交わす。先程よりも長く、激しく、深く。


 私にはもう、彼女しかいない。


 もうどうなってもいい。この心の穴を塞いでくれるのは、彼女だけ。彼女になら、なにをされてもいい。


 それで私が、楽になれるのなら。

 私を愛してくれるなら……。



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