表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
TS化したお兄ちゃんと妹  作者: 白花
私を愛してくれるなら
26/28

5. 初夜



 振られると思った。断られると思った。

 でもこうして先輩は私に身体を許してしまった。


「私も――好きだよ」


 それが私を狂わせていくことを知りながら、先輩への想いと欲求に身を任せてしまう。


 やっと先輩と両想いになれた。

 やっと私を見てくれた。


「じゃ、じゃあ……!」


 もうどうでもいい。世間体も、倫理も、あの子のことも、なにもかも。先輩といられるなら、一つになれるなら、他のなにがどうなろうと構わない。


「……うん、いいよ」


 そうして、先輩はまた身体を差し出す。

 華奢で、白くて、小さくて、魅惑的で。幾度となく私を魅了してきた身体が、そこにある。


「きて……」


 もう戻れない。これ以上進んでしまえば、あの子を裏切ることになる。

 それでも、私は先輩と一緒にいたい。

 もっと先輩が欲しい。先輩に触れたい。先輩の全てを知りたい。もっともっと深い関係になりたい。


「……キス、していいですか?」

「…………」


 その妖艶な瞳に私を映しながら、先輩は小さく首を縦に振る。無言で、ただ私だけを見つめながら。

 まるで私を求めているようで。私を許しているようで。


 このまま私たちは、初夜を添い遂げる。


「……っ?」


 そう思ったのに。

 先輩は私の唇をそっと指で抑える。


「――ごめん……。やっぱりキミとは付き合えない」


 先輩は最後に私を突き放す。初めて私を拒んだ。その瞳に、もう私は映っていない。


「な、なんで……」

「私は、キミとは釣り合わないよ」


 違う。私の方こそ先輩と釣り合っていない。

 あの子を利用して先輩を忘れようとして、結局先輩に受け入れられたら、あの子を忘れてしまう最低な人間で。


「そ、そんなことっ……。先輩はいつも可愛くて真っ直ぐで素敵な人で……、私の憧れで……っ」


 必死に否定する。

 先輩と一緒にいたいから。先輩と恋人になりたいから。なにより、私の大好きな先輩を悪く言われたくないから。


 それでも、先輩は決まって――。


「……ごめん」


 そこで初めて理解する。

 私は好きな人に振られた。私の初恋は、もう終わったんだ。


「……そう、ですか」


 これでいいんだ。

 これでやっと、先輩を諦められる。


「……ごめんなさいっ。少しだけ、こうさせてください……」


 これは最初から望んでいたこと。それでも、割り切れる訳じゃない。


 溢れ出る感情を必死に抑えて、でも抑えられくて、先輩の胸に顔を埋める。これ以上惨めな姿を先輩に見せたくない。


「うん」


 でも先輩は優しく私を受け入れる。

 まるで子供をあやすように、抱きしめてくれる。頭を撫でてくれる。


 その優しさに、私は惚れたんだ。


「……先輩のバカっ! 先輩のことなんて好きにならなきゃ良かった……! 先輩なんて、大嫌いっ……」


 感情が昂ろうと、思わぬことを口走ろうと、先輩の手は止まらない。どれだけ先輩を罵ろうと、どれだけ先輩を卑下しようと。

 ずっとずっと、私を慰めてくれる。


「うぁぁ……っ、ばか、ばかぁ……!」


 私は先輩とは違って、できた人間じゃない。

 だから今だけは、許して欲しい。


 これでもう、終わりにするから。



 ―――



 このまま彼女と付き合えば楽になれた。

 でも、もし私が彼女と恋人になってしまったら、お兄ちゃんはまた独りになる。お兄ちゃんにとって、彼女は唯一心を許せた人間だから。


「ーーごめん……。やっぱりキミとは付き合えない」


 お兄ちゃんが幸せに生きてくれれば、私はそれでいいんだ。


「ーー迷惑かけて、すみません。あの子の部屋に戻りますね」


 たとえ彼女とお兄ちゃんが恋人になったとしても、私は――。


「……うん、おやすみ」

「……おやすみなさい」



 ―――



 隣で眠る彼女は小さくて可愛くて、守ってあげたくなるような存在で、同時に邪な気持ちさえも抱いてしまう。身体の関係になりたいと一瞬でも頭に過ぎってしまって。


「……んぅ?」


 もうこれ以上、彼女と関わる必要はない。それが彼女の為だと思う。私が彼女を好きになったのは、先輩に似ているからであって、本物の好意じゃない。


 私はどうしようもないクズで、最低な人間だから。


「……起こしちゃった? ごめんね」

「ううん、大丈夫……」


 頭を撫でれば、彼女は満足そうに笑みを浮かべる。まるで私に気を許しているようで、身体を許しているようにさえ見えてしまう。


「……やめないで」


 それが凄く申し訳なく感じて、手が止まる。

 これ以上彼女に近づいたら、一緒にいてしまったら、きっといつか彼女を傷つけてしまう。


 だからもう、彼女とは関わらない方がいい。


「……な、泣いてるの?」


 そう考えたら、何故だか視界が歪んでいって。


 その零れ落ちる小さな水滴を、彼女はその小さな手で拭う。白くて、細くて、すぐ折れてしまいそうなその指で。


「別に、泣いてなんかっ……」


 先輩の前で散々泣いたはずなのに。

 彼女の前では、何があっても泣かないって決めたのに。


「我慢しちゃダメです。たくさん泣いても、いいですから」


 耳元で囁かれる彼女の優しい声。

 そっと抱きしめられながら、私の冷たい心も、彼女の暖かい愛に少しずつ溶かされていく。


「ごめんっ、ごめんなさい……っ!」


 震える声で必死に謝罪を繰り返す。

 彼女と離れたくなくて。ずっと一緒にいたくて。彼女を本心から好きになりたくて。


 でもそれは、しちゃいけないことで。


「私のこと嫌いになってよ……。私はキミに、相応しくないから……」


 本当はこの子とずっと一緒にいたい。一つになりたい。これからも、この子の隣を歩いていたい。


 キミが私を否定してくれないと、私はまた――。


「嫌です」


 私の望まない言葉をはっきりと告げる。


「私は、あなたのことが好きですから」


 もうやめて。

 もうこれ以上苦しみたくない。キミを傷つけてしまうのも、キミを利用するようなこともしたくない。


「ずっと、一緒にいたいんです」


 でも彼女の声に鼓膜を震わせる度に、脳が思考することを諦めてしまう。彼女から向けられる好意が快感として残ってしまう。


「――いいの? こんな私でも……」


 身体が、脳が、無意識に彼女を求めてしまう。頭が漂白されていって、何も考えられなくなって。


「あなたじゃないと、嫌なんです」


 ……もう、いいや。

 何も考えたくない。全てを投げ出したい。自分の中にある欲に従いたい。


 彼女と一つになりたい。


「大好きです」


 それはきっと彼女も同じ。

 されるがままベッドに押し倒されて、その宝石のような瞳に心を奪われて、私を逃がさないように指を絡ませて、お互いの吐息を肌で感じて。


「んっ……」

「っ……」


 そうして私たちは、関係を持ってしまった。

 もう言葉はいらない。ただ彼女に身を委ねて、彼女の愛で満たされたい。彼女の愛に溶かされたい。


「大好きです」


 何度も何度も、唇を交わしていく度に愛を囁かれて。あまりの快楽に、意識が飛びそうになって。


「わたし、も……」


 私は彼女が好き。でもそれは、ただ私がこれ以上苦しまないように作り上げた、偽りの想いかもしれない。


「ずっと、一緒です」


 それでもキミは、こんな最低な私を愛してくれるの……?



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ