4. 決別
一目惚れだった。
半年前の中学の入学式。遅刻して錯乱状態だった私は、誰もいない校舎の中を永遠と彷徨い続けていた。
『キミ、どうしたの?』
そんな時、誰かが私に声を掛けてくれた。
優しい声色で、ふんわりとした雰囲気で、私を包むような温かさで、心地よくて。
スカーフの色が違くて、大人っぽく見えて、綺麗で、どこか可愛らしさもあって。
『――もう大丈夫。私が傍にいるから』
少し優しくされただけで、私はその人――先輩に心を奪われてしまった。
生徒会に入ったのも、先輩と一緒にいたかったという下心からだった。
『今日から生徒会に入ります、宜しくお願いしますっ……!』
『うん、よろしくね』
それが愚かな選択だと気づいた時には、もう遅かった。
先輩は私のことを覚えていなかった。
だから頑張ってアピールして、笑顔で挨拶して、毎日話しかけて、頼りにして相談して、デートにだって誘った。でも、結局先輩は振り向いてくれなかった。いつだってその眼は、私を見てくれなかった。
最初からこの想いが叶わないことを分かっていたら、生徒会に入ることも、これ以上先輩を好きになることも。
「…………」
先輩の『代わり』にあの子を好きになることもなかったのに。
「すぅ、すぅ……」
静かに眠る先輩の姿は本当に可憐だった。可愛くて、美しくて、愛らしくて。
「せんぱいっ……」
我慢できなくなって、先輩の上に跨る。
そうして肌で感じる、先輩の身体。小さくて、華奢で、顔立ちがよくて、人形のように綺麗なスタイル。
そんな好きな人が、すぐ目の前で寝息をたてている。頭の中が漂白する感覚で、今すぐにでも先輩に手を出したい。
「――な、なに……!?」
流石に気付かれる。でもその驚いている顔も私は好き。
「な、なんだ君か……どうしたの……?」
表情、仕草、性格、身体、声。
先輩の全てが、私は――。
「――好きです」
これは、最低な自分への決別。
この気持ちが実らなくてもいい。振られてもいい。断られてもいい。
それで先輩のことは、もう諦めるから……。
―――
「――好きです」
朱に染まる彼女の頬。妖艶な瞳が私を捉える度、彼女の甘い吐息を肌で感じる。
「せんぱい……」
甘い声で囁かれながらひんやりとした手のひらが頬に添えられ、不覚にも心が揺さぶられる。
彼女の瞳は私を逃がさない。まるで私という獲物を喰らうかのように、彼女は顔を近づけていく。
「……っ」
薄々気がついていた。
彼女は私のことが好き。
それなのに今まで何もしなかったのは、彼女を傷つけたくなかったんだ。だって、私は彼女のことを振るつもりだったから。
それに対する罪悪感にずっと苛まれていた。
「いいんですか……?」
すぐ近くで彼女の吐息を感じる。生暖かくて、どこかいい匂いがして。そして見惚れてしまうほどの綺麗な顔立ちで。
「……うん」
妖艶な瞳で見つめられて、迫られて、心を奪われる。
ダメなのに、断らなきゃいけないのに。
「んっ……」
そして、彼女と唇を重ねてしまう。
柔らかくて、温かくて、気持ちよくて。彼女と唇を交わす度、私の理性は崩壊していき、脳が快感を覚えてしまう。
たとえ唾液が溢れようと、舌を入れられようと、私が彼女を止めることはなかった。
「先輩、せんぱいっ……!」
もうこのまま、彼女の告白を受け入れようかとさえ考えてしまう。
もう嫌なんだ。
これ以上お兄ちゃんを想いたくない。私だけの一方通行になるのがどうしても怖い。お兄ちゃんの邪魔になりたくない。
「好き、好きですっ……大好き……!」
その真っ直ぐな好意がとても心地いい。頭がふわふわしてきて、漂白されていく感覚で……。
人はこれを、快楽と呼ぶのだろう。
「私も――」
もう何も考えたくない。
このまま彼女と繋がっていたい。お兄ちゃんを忘れたい。楽になりたい。
もう、疲れちゃった。
「好きだよ」




