表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
TS化したお兄ちゃんと妹  作者: 白花
私を愛してくれるなら
24/28

3. 魅惑

 


「……近くない?」


 気づけば、彼女は身体を預けるみたいに距離を詰めてくるようになっていた。

 嫌ではないし、むしろ頼られていることは嬉しい。


 ――でも。


 この子は『誰かに身体を預ける』ことの意味を、知っているのだろうか。


「嫌、ですか……?」


 不安げに揺れる瞳。その視線を向けられてしまうと、どうしても言葉が詰まる。


「嫌じゃないけど……」

「じゃあ、いいですよね……」


 小さく確認するように言って、彼女は私に抱きついた。その腕はどこかぎこちなくて、指先もかすかに震えていた。


「……無理しなくていいよ」


 怖いのに、それでも離れようとしない。彼女はトラウマを克服しようと頑張っている。


「ずっとあなたの傍にいるから」

「うんっ……」


 微かに溢れる涙に声を詰まらせながら、彼女は頷く。そんな彼女が心底愛おしくて、ずっと彼女を抱いていたい。


「大丈夫?」

「いやっ……離れたくない……」


 私が彼女から離れようとしても、彼女は腕の力を解かなかった。その行いが私の情緒をおかしくさせ、愚行へと走らせてしまうことを、彼女はきっと知らない。


「……ごめんなさい、もう大丈夫です」


 数十秒後に彼女の束縛から解放され、彼女と私の目が合う。


 とても透き通るような綺麗な瞳。見惚れてしまう程に美しく可愛い顔立ち。華奢で小さな身体。


 ――柔らかそうな唇。


「あ、あの……?」


 彼女の頬に手を添えれば、彼女は困惑を浮かべた様子で私を見つめる。

 もちっとしたすべすべの白い肌。その感触と美貌に心を奪われ、意識が彼女から離れられない。


 私の本能が、彼女を求めてしまう。


「あっ……」


 ゆっくりと顔を近づければ、彼女の口からは甘い吐息が漏れる。

 その美しさと可愛らしさ故に伴う色欲。私は今、自分よりも年下の子に手を出そうとしている。


「っ……」


 でも彼女は抵抗しない。目をキュッと瞑って、口先を私の方へ差し出すばかりで。その行為が私を狂わせて、彼女のその端麗な顔に近づいていき、やがてその唇に――。


 コンコン。


「っ!?」


 心臓がドクンと跳ねた。

 反射的に彼女を引き離し、距離を取る。「あ……」と、彼女が小さく残念そうに声を漏らしていたことを知らずに。


『入ってもいい?』

「は、はい! どうかしましたか……?」


 先輩の声になんとか理性を取り戻し、ドクドクと高鳴る心臓を押さえ込み、冷静を取り繕う。


 ――危なかった。もう少しで私、この子と……。


 先輩が来てくれなかったら、危うく道を踏み外していた。私たちはまだ中学生で、決して超えてはならない一線がある。


 尚更、身体の関係を持つことも。



 ―――



 私は誰かに頼らないと生きていけない。以前も今も、相手が変わっただけでその事実は変わっていない。


「大丈夫? 寒くない?」

「は、はい。大丈夫です……」


 人から気にかけられ、優しくされることへの快感。同じ部屋で、同じベッドで、同じ布団の中で、彼女の腕に包まれているこの瞬間が、どうしようもなく心地いい。


「キミのお姉さんの提案とはいえ、私と一緒に寝ることになってごめんね……」

「い、いえ……あなたと一緒に寝たかったんです……」

「そ、そう……ありがとう」


 照れているのか、彼女は顔を逸らす。その仕草、表情、性格、その全てに魅了される。


 私は彼女が好き。

 妹と同じくらい。身体を委ねられるぐらい。人生を差し出せるぐらい。この人なら私を受け入れてくれる。この人になら、私の全てを捧げてもいい。


「あ、あの……」

「どうしたの?」


 だから自然と過去の秘密も明かせられる。

 秘密を明かせば、もっと親密な関係になれる。そしてなにより、私のことを見て欲しい。


「私、人が怖いんです――」


 人が怖いこと。裏切られたこと。拒絶されたこと。いじめられたこと。性別転換のことは話せなかったけど、それでも充分過ぎるほどに重い話。


「そっか……」


 それでも彼女は真剣に耳を傾けてくれた。


「こんな小さな身体で、よく頑張ったね」


 話し終わる頃には、彼女は優しく抱擁してくれた。抱きしめて、頭や背中を撫でて、優しい言葉をかけて、私を溶かしてくれる。


「えらいえらい」

「っ……」


 今までの苦労が報われた気がして、感情がぐちゃぐちゃになる。


「もう独りは嫌だよ、怖いよっ……」


 こうして涙ながらに弱音を吐けば、彼女は私を心配してくれる。気にかけてくれる。慰めてくれる。


 私はすでに、彼女に心酔していた。


「大丈夫。私がキミを守るから」


 その麻薬のような言葉が、私を更にダメにしていく。

 彼女がいてくれるなら、私はどんな対価も支払うつもりだ。


「――お願い、一人にしないで」


 それが例え、自分の身体であっても。



 ―――



「――もう、戻れないかもよ?」


 この子に劣情をぶつけてはいけない。

 頭の中では何度も自分を抑え込んでいた。それに彼女が止めてくれれば、私はまだ戻れる。


「それでもいいから……」


 それなのに、彼女は否定することをしなかった。その悲哀に満ちた瞳で私を求めていた。


「……分かった」


 もう遅い。

 もう戻れない。戻りたくない。

 忘れたい。


 先輩に対する想いを、この子で書き換えてしまいたい。もう先輩のことで頭を悩ますのも、苦しくなるのも辛くなるのも嫌なんだ。


「ん……」


 手を彼女の頬に添えれば、彼女は目を瞑り口先を私へ差し出す。


 あとは、彼女と繋がるだけ。それで私は楽になれて、最低に成り下がる。

 それでもいい。先輩のことを忘れられるなら。


 誰かを想う気持ちが実るのなら、私は――。


「…………」


 そこで私の動きは止まってしまう。


 これ以上、彼女に近づけられない。

 私の中に存在する微かな理性が、どうしても最後に邪魔をする。


「……あの?」


 忘れたいと願いつつも、どうしても先輩のことが頭の片隅から消えることはなかった。

 それが彼女を、傷つけてしまうことになるのに。


「――やっぱり私じゃ、ダメなんですか……?」

「ち、ちがっ……!」


 咄嗟に否定するも、完全に否定できない。


「なら証明してください! 私は……あなたになら、何をされてもいいですから」


 ずいっと身体を押し付けられる。彼女の柔らかい肌が私の身体に触れる度、頭がどうにかなりそうだった。


 本当なら、ただ欲に身を任せて彼女と一つになりたい。その綺麗な髪も、麗しくも可愛らしい顔も、白くて綺麗な肌も、膨らみかけた小さな胸も、華奢な彼女の身体全てを私のモノにしてしまいたい。


「……ごめん」


 でも、ダメなんだ。


「えっ……」


 ずいっ、と両手で彼女を前方へ押し退ければ、彼女は呆気にとられた表情でこちらを見つめていた。


「やっぱり、キミとそういう関係にはなれない」

「な、なんで……」

「キミのことは大切にしたいから」


 そっと彼女を抱きしめる。


「ごめんね。でも、ちゃんとキミのことは好きだよ」


 彼女の耳元で囁けば、ビクッと身体が反応を示す。その姿がどうしようもなく愛おしくて、でも我慢しなきゃいけなくて。


 もし私と彼女が出会ったのがもう少し後だったら。


「本当に、ごめんね……」


 きっとこの結末も、違っていたのかな。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ