if 2. これはありえた世界線の物語
「――失恋、したの……」
チャンスだと思った。
今なら先輩の心の隙間に入り込める。今だけは私のことを見てくれている。
でもそれをしてしまえば、きっと引き返せなくなる。
「――好き、大好きっ……」
そう分かっていながら、先輩を家に連れ込んで、ベッドの上で唇を重ねている。
「せんぱいっ、かわいい……」
私の好きな人が、私の手によって乱れている。これほど高揚することが他にあるだろうか。
「先輩のかわいい顔、もっとみせて……」
「……っ」
独占欲に支配されて、カプッと先輩の首筋に甘く噛み付く。
その白くて柔らかい肌に私を刻み込みながら、先輩の肌を味わうように舌と歯を這わす。
何度も何度も、まるで自分の所有物に名前を書き込むかのように、私の痕を残していく。首元から胸、胸からお腹、そしてお腹から――。
「っ……あ、ぅ……」
こんなこと、しちゃいけないのに。
私たちは同性で、まだ中学生なんだ。
でもその背徳感が更なる興奮と劣情を掻き立てる。
もう遅い。
私たちは堕ちてしまった。
もう戻れない。戻りたくない。
私は先輩とずっと愛し合うんだ。
常識も倫理も、なにもかも捨てて。
「かわいい……すきっ」
先輩の口に舌を入れて、口腔内を蹂躙する。何度も執拗に、お互いの息が切れるまで深く。
「はぁ、はぁ………」
唇を離してできる、私たちを繋ぐ糸。
逃げ場を失った吐息が、潤んだ瞳で見上げてくるその表情が、どうしようもなく甘くて。
「すき、すきっ……大好き……!」
もっと、もっと先輩を私色に染めたい。私しか見えなくしたい。私なしじゃいられなくしたい。
「み、耳はだめっ……」
先輩の耳に直接舌を捩じ込んで、ぐちゅぐちゅといやらしい水音を響かせる。
「好きです先輩……かわいい、大好き。愛してる……」
「やっ……ひゃぁ……」
我を忘れて狂ったように愛を囁く。
私の声と微かに漏れる吐息に、先輩の身体は熱く火照っていく。
「こんなに濡らして、興奮してるんですか……?」
まるで先輩の欲情を煽るように、胸から下腹部にかけて指を這わせ、秘部を覆う布をゆっくり愛撫する。
「だ、だって……んっ!」
「そんな先輩も、かわいいですよ」
「~~っ!」
耳元で甘い言葉を落とす度、先輩はわずかに崩れていく。
「気持ちいいですか……?」
「うっ、ぁぁ……っ!」
快楽に溺れた声。甘く途切れたその声に、更なる興奮と高揚、背徳を覚えてしまう。
「だめっ……、それ以上はっ……!」
「いいですよ、先輩の好きな時にイってください」
「ひゃぁ……はぁ、うぁっ……!」
止まらずに流れ込む快楽に声を殺しきれず、喘いでしまう先輩の姿がこうも官能的で、目を奪われる。
「もう、だめっ……!」
「そのかわいい顔、もっと見せて……」
「いく、イクっ……!」
先輩の身体が大きく痙攣する。ビクビクと小刻みに、息を荒らげながら、目を潤ませながら。
とても気持ちよさそうで、先輩としての威厳もなくなって。
「好き、好き、すき、だいすき。あいしてる。かわいい、かわいいです。先輩、せんぱい……」
「~~っ!」
私の手、指、声、口、舌によって快楽に呑まれているその表情。
背筋に甘い震えが走る。
こんな乱れた姿は私しか見れない。私だけに許された、特権。
ずっと望んでいた。先輩と付き合いたい。先輩と繋がりたい。先輩とひとつになりたい。
先輩の弱みにつけ込んでまで、叶えたかった。
もうなんでもいい。
私を愛してくれるなら、どんな手を使ってでも――。
―――
何も考えられない。考えたくもない。
ただ彼女だけを感じていたい。彼女になら、自分を壊されてもいい。
「だめっ、また……い、イクっ……!」
また彼女の前で絶頂してしまう。
もう何回目かも分からない。
理性を奪われる程の恍惚に身を委ねて、底なしの沼に沈められていくだけ。
「はぁ、はぁ……んぅっ……」
息を整える暇すら与えてくれず、彼女は唇を重ねてくる。まるで逃げ道を塞ぐように深く。甘く混ざる吐息のなかで、ただ彼女に呑まれていく。
「んっ、んんーっ……!」
そしてまた下腹部に走る快感。下着越しではなく、直接的に彼女の指の形を感じる。
それでいて口を塞がれて、決して休ませてはくれない。彼女はただ自分の欲を私にぶつけていた。
「んっ……はぁ、はぁ……!」
必死に息継ぎする私にお構いなく、彼女は私の弱い箇所を執拗に攻める。
「好きですよ、先輩。愛しています。この世の誰よりも」
彼女の甘い好意が私をひたすら溶かしていく。
その告白だって、もう何度目かも分からない。
「私、先輩の彼女になりたいです」
それでも、彼女の好意は嫌じゃない。
「先輩にとっての、一番じゃなくてもいいから……」
口ではそう言っていても、彼女は本気だった。自分を一番に見て欲しいと、独占欲すら滲ませるような――逃がす気のない束縛の視線。
「いま言うの、ずるいっ……」
「……ダメですか?」
「ううん。わたしも、すきっ……」
これはきっと、本物の愛じゃない。
失恋して、この心の寂しさを誰かで埋めたかった。それが偶然、彼女だっただけ。
彼女に迫られて、受け入れてくれて、流れに身を任せて、身体の関係を持って。
それでも、私には彼女しかいない。彼女がいなくなると、きっと私は壊れてしまう。
私にとって、彼女が全てなんだ。
「あいしてます、せんぱい……」
彼女さえ居てくれれば、私は何も望まない。
―――
「せんぱいっ……イク、イキそうですっ……」
「わたしもっ……。一緒にイこ……?」
どれくらい時間が経っただろう。
私たちは止まることを知らず、ただひたすらにお互いを深く求め、愛し合った。
お互いにとっての初体験を、恋人に捧げた。
「どんな時も、一緒ですっ」
「うんっ……」
お互いがお互いの弱い箇所を攻める。
彼女の指先、吐息、視線、肌。身体の奥が熱くなる感覚。
「せんぱいっ……すき、すき、だいすきっ……!」
「私もすきっ、だいすき……!」
もう引き返せない。
引き返すつもりもない。
「もうむりっ……せんぱいっ……!」
「いっしょに、いこ……?」
甘い熱の中で、私たちは一緒に沈んでいくんだ。
「だめっ……いく、イクっ……!」
「あっ……い、イクっ……!」
まるで、本当に奈落の底へ堕ちていくように。




