幽霊屋敷の主
目を覚ます度、ルブニールを見て気絶するを3度も繰り返し、その後阿鼻叫喚で大暴れするレイを何とか落ち着かせたゼンタはルブニールに案内され彼女の寝室にお邪魔していた。
「へっ、幽霊たって慣れてしまえば怖くも何ともねえぜ」
この屋敷に来てからのレイの振る舞いを見ているだけにこの負け惜しみが滑稽に見えて仕方ない。
「どれだけ感覚の鋭い者でも、吾輩の姿を視認できる者はいなかったが、まさか見えるだけでなく会話すらできる者は君達が初めてだ。恐らく死を疑似体験しているゼンタ君と、幽霊のように物理的に存在している訳ではない精霊のレイ君だから見えているのだろう」
幽霊なんてものを見たのは初めてであったがそれらしい理由を言われ2人は特に疑問に思う事はなかった。
「それで願いって言うのはなんだよ。条件によっては聞いてやらない事もないけど」
ゼンタが早速と言ったように本題に入った。
「ああ、君達が吾輩に望む事はこの屋敷からの立ち退きだったな。吾輩の願いを聞いてくれるなら速やかに出ていこう」
そう言いながらルブニールはベッドの引き出しを一つ開けると中からボロボロの懐中時計を出した。
「これは吾輩が取り憑いている代物……これを吾輩にプレゼントしてくれた者に吾輩に代わって謝ってもらいたいんだ」
幽霊からの頼みと言う事もあり、何を言われる事かと内心戸惑っていたがそんな事でいいなら悩むまでもない。
「別にそれは構わないが、それの元の持ち主はどこにいるんだ? 俺の仲間に転移が使える奴がいるからある程度遠くても今日中に叶えられると思うが」
「アーロン……彼はこの世にはいない……あの世にいるんだ」
簡単なお願いだと思っていたものが一瞬にして無理難題に変わった事にゼンタは怒りとまでは言わないものの声をあげずにはいられなくなった。
「いやいや! ちょっと待ってくれ! そんな願いどうやって叶えらって言うんだよ!」
「なに?! 君は死んで生き返る事ができるんだろ? ならば一度死んであの世で彼を探してくれれば! ……」
この女の幽霊は何か大きな勘違いをしているようだった。
「確かにその解釈は大きく間違ってはないがそもそも俺は死なない体なんだ。死んだと言ってもあの世に行く事もないし、俺は死んだら生き返るんじゃなく死んだら死なないんだ」
「さっぱり意味がわからない。死んだら死なない? その言葉大きく矛盾を含んでいるぞ」
「まあ説明が面倒だからわかってくれなくてもいいが、とにかくあの世に言って伝言を伝えるのは俺達の力じゃ無理だ」
それを聞きルブニールは大きく落胆した。
「死ぬだけでなく生き返れるなら、アーロンが何と言っていたかも聞けると思ったのだが……」
どれだけ探しても自分に何一つ非は見つからなかったが、落ち込む彼女の姿を見て申し訳ない気持ちが押し寄せた。
「そのアーロンってのはお前とどう言う関係なんだよ」
「アーロンは吾輩の主人……いや、この家の主人は吾輩だから家内と言うべきか……まあ配偶者だよ」
「結婚相手に謝りたい事でもあるのか?」
「聞いてくれるか? 誰かに言えば少しは気も紛れるかもしれない……」
ルブニールは懐中時計をじっと眺め、話し始めた。
「彼はこの街の時計屋に勤めるただの町人だった」
「へえー町人と領主が結婚なんて大した逆玉じゃねえか。それで謝らないといけないなんて何したんだ? かなり大きな純愛の匂いがする話だが」
「いや、それとは真逆だ……吾輩は彼を利用し、そして殺した……」
ゼンタの言葉を聞きルブニールは大きくため息を吐くと手のひらの懐中時計をグッと握りしめた。
「吾輩は強いスキルを持って産まれた。無条件で計り知れない破壊力を一定時間手に入れる力だ。その威力はドラゴンの群れを単独で滅ぼし、山を叩き切る事もできる程だった。にもかかわらず吾輩はある程度魔法も使えるといった、スキル持ちでも稀有な人間だった」
「随分都合がいいじゃねえか。私の主であるこの男ゼンタは、不老不死と言う代償に魔力量が一滴もないんだぞ。罪悪感を抱かねえのか?」
レイがルブニールの話に割って入った。話の腰を折るだけでなく、いちいち言わなくていい事を話す姿に多少文句を言いたくなったが敢えてルブニールの次の言葉を待った。
「ああ……勿論、そんな都合の良いスキルなんてなかった。強すぎるスキルの代償は勿論あった。吾輩のスキル、デットオアライクは吾輩が力を手に入れる代わりに、友愛、性愛、家族愛、どんな愛情でも良い……とにかく相思相愛の人間の命を削り発動すると言うものだったんだ」
それを聞き、ゼンタの血の気が引いた。他人、ましてやお互い好き同士である相手の命を代償にするなんてそんな酷い話はない。それは下手をすれば自分の命を犠牲にするよりも発動するのを躊躇しかねないスキルだ。
「このスキルは4度使用した事があるが、それに気づいたのは3度目の事だった。1度目の使用で父上が死に、2度目に母上、そして3度目の使用で弟が死んだ時に初めてこのスキルの代償を自覚したのだ。吾輩は絶望したよ。幼いながらにこのスキルで戦争に勝利した事を誇りに思っていたがそれが家族の命と引き換えだったのだからな。両親を亡くした吾輩は若い上に女であったが戦争での活躍や他に跡取りがいない事からこの領地を任される事になった……そしてスキルは2度と使うまいと誓うも、スキルがなければ非力な吾輩はこの領地や町人達を守れるかと言う不安で毎日押し潰されそうになっていた」
あまりにも気の毒なルブニールの過去を聞き、ゼンタは勿論、レイすらも言葉が出てこない。なんと声をかけていいかわからないが、謝ってほしい人間が家族ではなくアーロンという町人だという事が少しひっかかる。聞いたところまだアーロンと言う男はルブニールの話には出てきていない。
それを聞こうか聞くまいか考えているとルブニールがまた口を開いた。
「そんな時にあの忌まわしい奴らが現れたのだ。街のはずれに巣を作り度々、我が領土を荒らし人を食うドラゴン共が」
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