チェオの修行
ゼンタとレイはとある屋敷の前に立っていた。すると屋敷の大きな扉が開き中からスーツ姿の女が登場した。
「やはり、いますね。ですが自分の力ではどうする事もできません」
チェオはそう言いながら2人の前に立つと親指で屋敷を指差した。
「と言う事で自分の特訓の課題はこの屋敷の住人の立ち退きをさせる事とします」
チェオからの特訓の内容は特訓と言うことを体よく使った地上げの手伝いだった。
「おい、これのどこが特訓なんだよ。それにお前の悪行に手を貸すつもりはないぞ」
「はて、悪行とは何の事でしょう。ここら一体の土地はバットゲットカンパニーが大金を積んで買い取った我が社の土地。ここの家主だけが出ていってくれない状況に迷惑しているのは自分たちなんですよ」
わざとらしく人差し指を頬に当て首を傾けるとゼンタに顔を近づける。
「それにいいんですか? 特訓内容は我々が自由に決めていい上に合格しなければあなたは神殿へ連れて行かないと言う取り決めだったはず。放棄するのは自由ですがそれで世界が滅亡したらあなたの責任は大きいですよ?」
大きな瞳に見つめられ、吸い込まれるような感覚になったゼンタはチェオから目を逸らす。
「わ、わかったよ。本当に合法なんだな」
「それはあなた次第ですよ。武力行使に出るなら非合法にもなるでしょう。まあ上手くやってください」
「話し合いで解決するならそれに越した事はないけどそれのどこが特訓なんだよ」
「どうでしょう? 自分の考えではこの特訓をクリアすればあなたの五感以外の感覚がより研ぎ澄まされると思っているのですが」
チェオは屋敷の扉に目を向けた。
「何せ相手は100年も前に死んだ人間なのですから」
「は? 死んだ人間? 何言ってるんだよ……」
ひきつった顔のゼンタによからぬ予感がよぎる。
「立ち退かない人物とは、かつてこの近辺一体の領主をしていたルブニールと言う女の幽霊。生前はドラゴンの群れを1人で倒すほどの力の持ち主だったとか……とはいえ、いわくつきの物件は価値が下がりますからね。あなたの力でしっかり立ち退きをしていただきたいと思います」
ゼンタの予想は的中した。死なない体と言っても幽霊や怪奇現象と言ったオカルト的な話を小さい頃から苦手としていた。
「何人かは自分の優秀な部下達にもこの仕事を任せたのですが誰1人成功はさせていたませんので、成し遂げたあかつきには我が社への入社も視野に入れてあげましょう」
「べ、別にお前の会社に勤めたくなんかねえよ!」
「まあそれはご自分で決めていただいて構いませんが、どちらにしても特訓内容は変わりませんので、後はよろしくお願いしますね」
そう言ってチェオはゼンタとレイの肩をポンと叩くと屋敷とは反対の方向にスタスタと歩いていった。
いい年をしてお化けが怖いなんて言えばレイがどれだけ自分を馬鹿にしてくるかわからない。ゼンタは怖がってるのを悟られないようレイに問いかけた。
「ま、まあ幽霊と言っても、元はただの人間。普通なら肉眼で見えないだけの者だし……そう考えりゃお前ら精霊と似たようなもんだよな……ははは……お前が仲良く話し合ってくれれば案外簡単に解決するかも……」
レイの方に顔を向けるとそこには今にも泣き出しそうなくらい瞳に涙を溜めたレイが、体をガチガチに膠着させ立っていた。
微動だにしなかった体がやっと動いたかと思うとゆっくりと顔をゼンタの方に向け、何とも情けない声をこぼした。
「ゼ、ゼンタァァ……ど、どうしよう……」
まるで小さい子供が迷子にでもなったかのような困った泣き顔で細い声を出す。
「私……入りたくないかも……し、しれない」
尋常ではないレイの怖がり方にゼンタの恐怖心はより一層強くなった。だが勝気で横柄、わがままで乱暴なレイがこうも怖がってる姿を見るのは初めてだったのでどこか良いものを見れたような気もした。
「お、おい……お前まさか精霊のくせに幽霊が怖いとか言うんじゃねえだろうな?」
「こ、怖い……」
嘘や言い訳を言われるとばかり思っていただけに素直に怖がるレイのギャップにゼンタは何故かドキリとさせられた。
「この屋敷……丸ごと焼いていいか?」
レイは指先に火の玉を作りゼンタに提案した。
「ば! 馬鹿! ダメに決まってんだろ?! チェオの奴に何言われるかわかんねえぞ!」
「だっ、だってえぇ……」
「あーーー!!! もういい! わかった! 俺1人で行ってやるよ! お前はここで待ってろ!」
あまりにも怖がるレイの姿に痺れを切らし、覚悟を決めるとゼンタは扉の前に立ちドアノブを握った。
「まてまてまて! 私を1人にしないでくれええ!」
「いや、別に屋敷の外で待つ分には何も怖くないだろ?!」
「ここで待つくらいならゼンタといる方がマシだぁ!」
レイはゼンタの腕にしがみつき屋敷に入る覚悟を決める……いや覚悟を決めたと言うよりは消去法で同行する事を決めた様子だ。
大きな扉を開くと中は大きなエントランスだった。薄暗くカビ臭い空間にも関わらず豪華な内装の作りに惚れ惚れする。しかし、それほど煌びやかにもかかわらず物音ひとつしない静寂さがより幽霊屋敷の不気味さを際立たせた。
人の気配は一切感じられない。声を出しても返事もないチェオが言っていたルブニールと言う幽霊は本当にいるのか段々不安になる。
もしいなければそれに越した事はないと言うのが今のゼンタの本音ではあるが。
とは言っても姿を表してくれなければ何も始まらない。幽霊が出てきませんでしたでチェオが合格というわけがない。
緊張した面持ちでゼンタは屋敷の扉を次々と開けていき、中を探索した。その間、レイはずっと震えながらゼンタにしがみつく。
「おい、本当に幽霊なんているのか? どこにもいないぞ」
全ての部屋を見て回ったが、それらしきものは現れなかった。嬉しいような悲しいような何とも言えない気持ちになりつつ、エントランスの螺旋階段の1番下に腰掛ける。
「ゼンタ……一回死んでみたらどうだ? 相手は死んだ人間なんだから、も、もしかしたら死ぬ直前とかなら見えるかもしれないぞ?」
レイが震える声でそう言った時だった上から異様な気配を2人は感じた。顔を上げると自分達が座る螺旋階段のちょうど真上に何かがいるのを感じる。
2人は引き吊った表情で顔を見合わせると後ろに顔を向けた。
背後には何もいないが何かが降りてきているのがひしひしと伝わる。
ゴクリと生唾を飲み階段の方に目をじっと向け続ける。
すると螺旋階段の柱の死角から人間の姿をした幽霊がゆっくりと姿を表した。
「で、で、でたーーーーーーーー!」
ゼンタは絶叫し逃げようとするも、腰が抜けたようで立ち上がる事ができない。レイはと言うと泡を吹いて気を失っていた。
降りてきた幽霊は両サイドの髪を二つくくりにそれをお団子にした可愛らしい容姿だった。年齢は20代と言ったところだろうか。目の前の幽霊がルブニールならこの若さで領主をしていたと言うのは信じ難いが、そんな事より信じられない出来事が起きたゼンタはそんな事をつっこむ余裕すらなかった。
ゼンタは彼女を指差し、パクパクと口を動かすも言葉は何も出てこない。
「そう怖がるな。我な名はルブニール。この辺一体の領主をしていた。盗み聞きをしてしまった事は申し訳ないが、もしかして君は死んで生き返る事ができるのかな?」
ルブニールと名乗った女は恐れるゼンタの事などお構いなしに近づくとそのまま階段を降りゼンタの方に体を向き直した。取り憑かれるのか、はたまた呪われるのかと恐怖と不安で頭をいっぱいしていると驚く事に、その幽霊は地面に拳をつけ頭を下げた。
「初対面で申し訳ないが……後生の頼みだ。吾輩の願いを聞いてくれないだろうか」
ここまで読んでいただき誠にありがとうございます。こんなに長い話をここまで読んでくれた事に感謝の気持ちでいっぱいです。ほんの少しでも面白いと思っていただけたら星5評価、ブックマークのほど何卒よろしくお願い致します。




