感動の再会とはいかないようです
レイとの感動の再会を果たし、その時間に浸るよりも早くレイの後ろにいた白い甲冑を来た男を見て魔王が「あ、勇者じゃん」と口を開いた。その瞬間、魔王の言葉が終わるよりも早く蝶の間に爆音がこだまする。一瞬の出来事に何が起きたのかよくわからなかった。
レイの後ろに目を向けるとヴィンセント、次郎、チェオの3人が一斉にその白い甲冑を来た男に攻撃を仕掛けていたのだ。
「あなたが勇者ですか。よくも自分の部下を亡き者にしてくれましたね」
チェオの黒い手を勇者と呼ばれた男は右手の剣で止める。チェオの手の平は刃に触れているが血が出る様子はなくカタカタと剣を震わせていた。
「戦おう! 戦おう!」
次郎の下からの蹴りを左手でがしりと掴み止める。次郎は逆立ちした体勢で下から子供のように勇者を眺める。
「会いたかったぜ勇者。勇者試験、戦闘島、これまでの長旅はどれもこれもお前とやれる可能性を求めてたんだ」
ヴィンセントの頭突きを勇者も頭突きで止める。ヴィンセントの鼻息は荒く、2人は額を合わせゼロ距離で睨み合う。
何よりもこの3人の一瞬の攻撃を同時に止めた事にゼンタは驚いた。魔王が言う通り、この男が正真正銘世界唯一の勇者である事に間違いはないだろう。
「バットゲットカンパニーのボスにテディーポップか。お前達は俺の討伐対象だ。この事態が片付けはすぐにでも成敗する」
するとアルがパンパンと手を叩き4人を嗜めるように引っ剥がした。
「はいはい、言ったよね。どんな事が起きても仲間同士で喧嘩するのは絶対禁止って」
「勇者とあれば話は別だろ。勇者と戦えるなら別にデドゥリシンセブンナンバーとか言う奴らと戦えなくてもいいや」
ヴィンセントは嬉しそうにそう言って勇者に額を強く押し付ける。
「同意見ですね。憎き仇と仲間になるなんて自分には我慢なりません」
そんな調子の3人を見て、やれやれと言ったようにアルは首をふると地面を小刻みに踏み締めた。
「大富豪ゆすり」
その瞬間蝶の間は崩れるのではなかろうかというほど大きく揺れ、周りの蝶達もバサバサと飛び回った。バランスを崩したように3人は勇者から離れる。
勿論ゼンタもその技には驚いたが1番その技に反応したのはチェオだった。
「アルセーヌ、あなたが複数のスキルを使用している事に疑問を持ってはいましたが、今の技は自分の部下の物ですよね? それをどうやって習得したのか……返答次第では殺します」
チェオは大きな瞳で睨み殺すようにアルに目線を向ける。完全に勇者からアルにターゲットが変わったようだ。
「うちのスキル、イリーガルスワップは他者からスキルを盗むスキル。うちが過去へ行くって決まった時にあなたの仇を取れる唯一の存在としてダイナマイトジョーがうちに思いを託してくれたんだ。ダイナマイトジョーだけじゃない。転移のスキルは未来のゼロアシから、声を変えてたのはロイドから、回復はゼンタの幼馴染みのナケイアから、チヨメもカースもルイドのスキルも全部うちに託してくれた」
「みんなのスキルを?……」
「うちは純粋な戦闘力だったらこの中で1番弱いかもしれない。でも世界全体がうちの味方となりスキルを託してくれた。スキル持ちのS級冒険者や生き残ってる牢人生、聖騎士や各国の生き残りのスキル持ちほぼほぼの物をもらったうちのスキル。その数77つ。ムカつくかもしれないけど多分うちがこの中で1番強いと思うよ」
「77つのスキルか……アルセーヌと言ったっけ? ここに来るまでに大体の話は魔術の大精霊達に聞いた……俺たちはこれからどうしたらいいんだい?」
「まず1番最初にして欲しい事、それはみんなでゼンタを強くする事。あいつらを殺すならゼンタの強化は絶対条件」
アルはゼンタの方に顔向ける。
「確かにこの中でゼンタは1番弱い。ただここにいる人間が全員でゼンタを鍛えれば必ず1番活躍してくれるはず」
「それなら動かない街に行こう。さっきまで僕達もそこで修行してたんだよ。あそこなら時間を気にせず万全の状態でゼンタを見てあげれる」
「それもずっとは無理なんだ。こちらの時間であと少しもすればチューズペイズリーの亡骸が蘇りあの街の禁忌魔法を解く。時が立たない場所だから理屈の説明は難しいけど兎に角、あそこでずっと修行を積む事はできない」
「じゃあ尚更なんでそんな貴重な使用期間を減らしてまであそこから僕達を連れ出したんだよ」
魔王はまだゼンタとの戦いをお預けにされた事を怒っている様子で頬を膨らませて怒った素振りを見せた。
「ここへ来た事に動かない街は関係ないよ。あなた達を連れ出した理由はゼンタが魔王を倒しちゃいけないから。それだけ。勿論魔王を殺しちゃって戦力が減るのもだけど殺さなかったとしても職業を持ってないゼンタが魔王を倒した事で勇者の職業を手に入れちゃうとレイちゃんを神殿に連れていく事ができなくなる」
アルの説明の意味がよくわからなかった。別にこれでもレイとは旅をしてきたし、それを魔王を倒したからと言ってできなくなる訳などないだろう。
「勇者になってしまうと精霊やモンスターを使役する事ができなくなるの。最高職の勇者から別の職業への転職は不可能。勇者になる前に精霊使いや魔物使いになっていたら話は別だけど……兎に角今勇者になると無職のゼンタは精霊使いは勿論、剣士にも騎士にもなれないって訳。そこで今すぐここでレイちゃんを使役して欲しいの」
「使役? 俺がレイを?」
ゼンタはアルを見たあと、レイの方をチラリと見た。 レイは何も言わず涼しい顔を浮かべていた。
「いいのかよ……レイは」
「お前と会う前に話は聞いている。私はかまわないぞ」
あのプライドが高く、本当の意味で人の下になどつくはずのないレイが自分に使役される事に全く抵抗がない事に驚いた。今の実力でもレイと戦えば勝てるかどうかわからない。そんな自分でも快く使い魔のように扱われる事を受け入れたレイに感謝の気持ちが込み上げる。
ただの精霊ではない。レイはディビンヌスリーなのだから。
「じゃあレイ……いいんだな」
「何度も言わせるな。未来の勇者の従者になれるんだ。悪い話とは思ってねえよ」
久しぶりの再会を果たしたすぐにこんな事をするとは思ってもみなかったがゼンタは勿論レイにすら不満な感情はまるでないようだ。
2人は体を近づかせ見つめ合った。
「それじゃゼンタ、レイちゃん。契約の儀式を」
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