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マント女の正体は実は……


 動かない街で1番高い商会の屋根の上でゼンタは体をほぐすように屈伸をした。


「こんな地獄のような毎日を味わうのは2度とごめんだが、ここまで強くなれた事には感謝してるよ」


「それはこっちの台詞だよ。こうも成長してくれるなんて。よく逃げ出さずにいてくれたね」


 魔王もまた、この街で一際高い鐘塔しょうとうの上に立ちゼンタが立つ方を向き微笑む。

 2人の距離は本来なら肉眼で捉えるのがやっとといったほどに離れてはいるが、お互いを認識し、会話するのに何ら不便は感じていない様だった。


 ゼンタ達が動かない街に来てから1年の時が過ぎていた。時間が止まっているのだから1年がすぎたと言うのは間違っているかもしれない。この街を出ても1秒の時も経過していないのだからこの月日を的確に表せる言葉はこの世には存在しないと言うのが正しいだろう。


「じゃあ約束通り、僕を殺してね。ゼンタ」


「実力差はまだまだ果てしなくあるが、お前が手を抜いてくれるって言うならもしかすると可能性はあるかもな」


「僕の人生の終わりを手抜きで終わらせるなんてそんなつまらない事はしたくないよ。何日……いや何年かかってもいい……今日からは君が僕を殺す為だけの時間だよ」


 ドラマチックな出来事を期待している少女のように魔王は恍惚こうこつとしている。


 ゼンタが拳を握り屋根から飛び出すと、魔王もゼンタ目掛けて飛び出した。

 2人の距離が空中でみるみる縮まると、ゼンタは拳を引き、魔王は足を伸ばし弓のような飛び蹴りで空を滑る。


 いよいよお互いの攻撃が交わろうとした。その時だった。


「転移」


2人の真下からそう言った呟きが聞こえた後すぐ、動かない街から2人の姿は消えた。

 




 ゼンタと魔王は放った攻撃が対象に当たるどころか不発に終わった事には驚かなかった。それよりも動かない街にいたはずの自分達がまるで違う場所に飛ばされた事に驚いている様子だった。

 ゼンタはここには見覚えがあった。無数の蝶が飛び回る洞窟。ここは勇者試験の二次試験会場であった蝶の


 瞬時には状況の整理が出来ずゼンタは到着と同時に魔王の方に顔を向けた。

 魔王はプルプルと体を震わせ顔の血管を浮き出す。


「ゼロアシィィィィィ!!! 貴様ァ! こんな事してどうなるかわかっているのかぁぁ!」


 一瞬にして蝶のに瞬間移動した事と最後に動かない街で聞こえたあの台詞を辿ればこれがゼロアシのスキル転移によるものだと言う事は容易に想像がつく。

 死にたがりの魔王がゼンタを丁寧に育て、ようやく自分の悲願であった勝負を開幕する矢先にこう言った風に水をさされれば激昂するのも無理はない。


「ここへの転移はゼロアシのせいじゃないよ」


 聞き慣れない声が背後からする。後ろに振り返るとそこには勇者試験で何度か見かけたマント姿の女が立っていた。


「お前……ここに俺達を連れて来たのはお前なのか?」


「うん」


「一体誰なんだ……お前は敵なのか?」


 ゼンタは少なからずこの女が敵でないという確信じみたものを持ってはいたが、一向に正体を明かさない彼女の謎めいた部分や今回のような不可解な行動に疑念を抱く。


「まだ誰かわからない? まあ無理もないか……この声じゃあね」


 するとマントの女はコホンと咳払いをし、フードを取った。

 その姿にゼンタは愕然とした。見慣れた顔、自分が最も信頼を置く仲間の顔がフードの中から出てきたのだ。髪は伸び、どことなく大人びた顔付きに変わってはいるがそこには紛れもなく長旅を共にした自分のパーティーの一員がいた。


「アル………」


「久しぶりゼンタ。本当に久しぶり」


 アルはそう言いながら少しずつ違いづいて来たかと思うとゼンタに近づくに連れ早歩きになり涙を流しながらゼンタに抱きついた。


「ごめんね! ごめんねゼンタ! 助けてあげられなくて! 一緒にいてあげれなくて!」


 ゼンタの胸で泣き叫ぶアルにゼンタは戸惑った物の何も言わずにアルに自分の胸を貸した。

 助けてあげれなくて、一緒にいてあげれなくてと言うのは三次試験の後、魔王に連れて行かれたことを言っているのだろうか。しかし動かない街にいた自分達は1年の月日をあそこで過ごしたがアルにしてみたらついさっきの出来事だろう。それにしては随分と見た目も成長したように見える。


「アル。本当にアルなのか……お前……一体何があったんだよ」


 とうとう口を開いたゼンタはアルに率直な疑問をぶつける。


「急に訳がわからないよね。ごめんね。うちはゼンタが知ってるアルセーヌ・ヘルメスじゃないんだ」


 彼女の口ぶりからアル自身である事に間違いはないようだが自分の知らないアルと言うのは理解できない。分別の沼(スワンプリズン)から勇者試験を去るまで共にいただけと言われればそれ以上の関係でないのは確かだ。知らない事も沢山あるだろうがそれでも他人以上の存在である事には変わりない。


「おい、そんな寂しい事言うなよ。ここまで共に旅をした仲間じゃないか」


「そう言う事じゃないの。うちは今から8年後の未来から来たんだよ」


「8年後の未来?」


 目まぐるしいほど次々と起こる怪事に何から手をつけていいのかわからない。とにかく、8年後から来たというアルの目的を聞けば何故彼女がここにいるのか、そして自分達をここに移動させたのかの答えが見えるような気がした。


「どうやって来たかとか、何故正体を隠していたのかとか色々聞きたい事はあるが……アル……はどうして現代ここに来たんだ? 一体何が目的で」


「それも含めて後で話すよ。とりあえずついて来て。合わせたい人達がいるんだ」


 自分の知ってるアルより大人びた雰囲気をした彼女はゼンタと魔王に背中を見せ蝶の間の奥へと歩いていった。


ここまで読んでいただき誠にありがとうございます!第一部勇者試験編終了目前ですがまだまだ描き続けていきます!もしよろしければ星5評価、ブックマークよろしくお願い致します!

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