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極悪と正義



 裸の人間に首輪をつけ、そのハーネスを握るガスマンスクをつけた男がいる部屋に大声が響いた。


「ガムシロップスタンガン局長! カントリンダの騎士団がまたこちらに攻めてきました!」



 ガムシロップスタンガンと呼ばれた男は四つ這いになり、これまた裸にされた人間の背中から腰を上げた。


「懲りねえ野郎共だな」


 そう言って椅子にされていた人間の腹を蹴り上げる。


「座り心地が悪すぎるぜお前。帰ってきたら俺の尻にしっかり馴染むよう背中を削ってやるよ」


 椅子にされていた男は何かを訴えようとするが声を上げず、まるで媚びへつらうようにブンブンと首を左右に振った。


「やっと声を出す事をやめたのは偉いじゃねえか。もっと俺専用の椅子らしくしてやるからな」


 ボロボロと流れる男の涙にまるで同情の色を見せず部屋から出ると廊下を歩きながら部下らしき男と話をする。


「何人くらいだ?」


「報告では50人ほどの軍勢かと」


「50人? そんなしけた数で攻めて来やがるとは随分学習能力のねえ馬鹿共らしいな」


「一応我々だけでも対処は可能だと判断していたのですが、以前のご命令通り局長に報告をと思いまして……ご迷惑だったでしょうか」


「戦の時は俺が最前線で戦う。その為に報告しろと命令していたはずだぜ?」


「はい。申し訳ございません。それにしても何故局長ほどのお方が毎度わざわざ最前線に立ち戦われるのですか?」


「んなもん決まってんだろ……負け犬の顔を見るのにあそこほどの特等席がどこにあんだよ」


 ガムシロップスタンガンと部下の男が大きな扉の前に立つとその扉はゆっくりと上に上がっていき開門した。



◇



 勇者ボディが戦地に辿り着いた時その光景に怒りが込み上げた。


 先に向い戦っているはずのカントリンダの騎士達がアジトから50メートルほど離れた所で立ち往生している。アジトの方角から打たれる弓や魔法を防ぎきれず倒れる騎士までいる始末。

 こちらの弓隊や魔法使い達は反撃することもできず武器を地面に置いていた。


 しかし、自分が来るまでに開戦してなかった事や攻めずに攻撃を受けている事に腹を立てたわけではない。


 アジトの方を見ると木でできた荒い塀の間から敵は矢や魔法を打っている。本来ならこちらも同じような方法で迎撃したり、攻撃を回避しつつ前進できそうなものだが、その塀の役割を成す木に子供や女が何人もくくりつけられているのだ。


「あれは我々の国の民達です。中には騎士達の家族や恋人もおり、なす術《すべ》がないという状況です」


 女騎士に説明されると勇者は拳を握り肩を振るわせた。


「俺が合図したら一斉に武器を持ち前進してください」


「しかし勇者様! それじゃ塀にされてる国民達が! 遠距離攻撃をしたとしても万一彼女達に当たっては!」


 その言葉が聞こえているのかどうかもわからないが勇者は手の指全ての先に魔力を込めるとそれはやがて光線のような雷に代わりピュンとアジトの方目掛けて飛んで行った。


 真っ直ぐに飛んでいく無数の雷は全て塀の間を潜り抜けその隙間から弓や杖を構える敵の兵に全弾命中した。


「今です!」


 勇者はとんでもないで速度で前進すると瞬きする間に塀の向こう側に辿り着き、残っていた残りの敵兵を切っていた。


「続け!!!」


 一瞬呆気にとられた女の騎士がすぐさま叫ぶと騎士達は武器を手に取り前に走り出した。


 しかし、騎士達が塀を越えた頃には全て終わっており、そこにはバットゲットカンパニーの社員達があちらこちらで横たわっているだけであった。


「アジトから第二陣や局長がすぐ来るでしょう。早く木にくくりつけられてる人達の救助を」


 勇者が女騎士に指示を出した時だった。



「おいおい、我ながら肉の防壁は良い作戦だと思ったんだけどよー。どうやって突破しやがった?」


 大きな扉が開くとポケットに手を突っ込んだガスマスク姿の男が立っていた。


「お前がガムシロップスタンガンか?!」


 勇者が叫ぶと男はニヤリと笑ったように見えた。


「ここであったが百年目! 我が同胞! カントリンダの騎士達はどうした?!」


 女騎士が叫ぶとガムシロップスタンガンはポケットから手を出し親指を立てると下に向けた。


「負け犬共ならほぼほぼぶっ殺したぜ?」


「なんだと…………ワイル騎士団長とトンド副騎士団長も殺したというのか?」


「いや、そいつらは生かしてるよ。今は俺様のペットと椅子として飼ってあげてるぜ?」


「この外道が……」


 女騎士は激情し、剣を前に構えガムシロップスタンガン目掛けて突進した。


 ガムシロップスタンガンがその剣を足で蹴り上げると女騎士の手からその剣は離れ地面に刺さった。

 その状況を女騎士が把握するよりも早くガムシロップスタンガンの拳が女騎士の顔面にめり込んでいた。


 あまりにもグロテスクな音をあげ空中に飛ばされた女騎士は白目を剥き気を失っている。地面に落ちる直前勇者は女を抱きかかえ口から溢れる血をマントで拭った。


「貴様……女になんて事をしやがんだ……」


 勇者が女騎士の顔を眺めながら怒りで声を震わせる。


「負け犬が女か男かなんて俺様が知るかよ。てめえは野犬の群れに襲われたらオスメス確認しながら攻撃すんのか?」


「貴様のような巨悪をこれまで野放しにしていた自分が許せない。何が何でも貴様だけはここで断ち切らせてもらう!」


 勇者が腰に刺した剣《つるぎ》を抜いた。


「その剣……お前まさか……勇者か?」


「だとしたらどうした! 例え俺が勇者じゃなかろうと貴様を殺す事は変わらない!」


「マジかよ! こりゃ驚きだぜ! 俺の同僚もお前にやられたみてえだしお前の死体を持ってけば社長もお喜びになるぜ」


「アリエルリリアンの事か……あいつにはまだ冗長酌量の余地があった……しかし貴様はあいつと違いあまりに極悪非道……切る事に一才の躊躇いはないぞ!」


「全力でこいよ……運が良ければ俺様のペットにしてやるからよ……」


 そう言いながらガムシロップスタンガンがガスマスクを取ると不気味な色をした息がモクモクと口の中から溢れ出る。


「俺様のスキル、くどいどく。俺様の体で生成される数千種類の猛毒はどれも防御不能だ。抗体を作れたとしても無限に繰り返さ………」


 ガムシロップスタンガンは話をしている最中に自分が声を出せない事に気づいた。


 眼球を体に向けると自分の体に真っ直ぐ線が走っているのがわかった。

 それに気づいたと同時に自分の体が頭から一刀両断されている事を把握した。


「言ったはずだぞ。切る事に躊躇いはないって」


「勇者の異名は……伊達じゃなかったみたいだな……馬鹿つえーじゃねえか」


 まるで林檎のように真っ二つに切られたガムシロップスタンガンの体は左右バラバラに地面に崩れ落ちた。


 勢いよく剣を振ると刃についた血を地面に振り払い剣《つるぎ》を鞘に戻した。



「やった………勇者様がガムシロップスタンガンを殺したぞー!!!」


 1人の騎士が叫ぶと他の騎士達も続いて勝利の雄叫びを上げた。


 それに跳ねて喜ぶ者、涙を流し喜ぶ者、仲間と肩を組む者。騎士達は様々な方法でその勝利に喜んだ。



「まだ油断するのは早いです! アジトの中には残党も沢山いるはず! 早く制圧して人質達の解放を!」


 勇者が水を刺すように他の兵達に指示を出し、続いて女騎士の治療を誰かに頼もうとした時だった、少し離れた位置に人ではない数人の気配に気づき再び剣を構えた。


 気配の方に目を向けると、そこにはズボンを頭に被りゆっくりとこちらに近づいてくる魔人と2人の精霊の姿があった。


「魔術の大精霊………蝶の大精霊………そしてお前は確か……」


「やっと見つけましたわ。勇者ボディ……」


「バットゲットカンパニーの幹部をこうもあっさり。流石は勇者様でゲス。流石でござりまするです」


 2人の大精霊の内1人はひきつった顔でまるで勇者に怯えているように見える。


「闘った後すぐで悪いが、我々について来てもらう」


 ズボンを被った男と2人の精霊が片膝を着き勇者の前にひれ伏した。


ここまで読んで下さり大変ありがとうございます。もしよろしければ星5評価、ブックマークよろしくお願い致します。これからも頑張って書いていきたいと思います。

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