一方その頃、強者達は
ヴィンセントとマントを身に纏った女は大きな錠がついた扉の前にいた。
ヴィンセントは地面にあぐらをかき退屈そうにあくびをした。その間、マントを着た女はその大きな錠を道具を使ってガチャガチャと触ったり鍵穴を覗き込んで観察したりを繰り返していた。
「もう待ちくたびれたぜ。さっさとその神殿とやらに連れて行ってくれよ」
「あなたの強さは認めてるよ。でもあなた1人じゃ必ず殺される。それは間違いない確定事項」
「ケッ……とは言え、神殿のそいつらがどんだけ悪い奴らでも、世界一の大犯罪者を仲間にするのっては本末転倒じゃねえか?」
「選り好みなんてしていられないよ。今この世に生きている最強のベストメンバーを揃えるとなると次郎……テディーポップは必要不可欠」
2人は軽い言い合いを繰り返していたが、やるだけ無駄だと悟ったのかヴィンセントは反論する事をやめ話題を変えた。
「そもそも、この世に俺様くらいの実力を持つ奴が後6人もいるとは思えねえけど」
「彼らを探すのにただでさえ時間使うんだから。そもそもあなたを説得するのにあんなに時間がかかっちゃたんだから責任感じてよね。本当はもっとゼンタ達のフォローをしたかったんだよ」
「そりゃ訳もわからない奴にいきなり協力してくれなんて言われて黙って着いていく方がどうかしてるだろ」
「それなのに良く着いて来てくれたね」
「嘘でも何でもドットフライと戦えるなんて言われちゃあとりあえずは誰でも乗ってみるだろう。勇者試験も退屈そのものだったしな」
「そんな物好きあなたくらいだよ」
「ドットフライ以外の名前も言ってたけどよ、俺は昔話はあまり詳しくねえんだよ。他の奴らはどんな奴らなんだ?」
それを聞き何故かマントの女はクスリとはにかんだ。
「何がおかしいんだよ」
「いや、昔の仲間に似てるなと思ってさ」
「ケッ、思い出話を聞く気はねえからよ。さっさと質問にだけ答えやがれバカ」
「例えば18代続く魔王の中でも歴代最強の魔界の王、サタヘリンボーンは知ってる?」
「魔王くらいは知ってるけど、その中でも最強の魔王か……やべえよ。ワクワクが止まらねえ」
ヴィンセントの口角は上がり、ワクワクという感情をリズムよく肩を揺らす事で表現した。
「戦闘だけでいえばチェックマンとかも有名だよ。何か肩書きがある訳じゃないけど、その出鱈目な強さは類を見ない逸話ばかりだし」
「出鱈目な強さ? 例えばどんな逸話があるんだよ」
「そうだねえ……なんだろうなあ………有名な話だと、頭突きで隕石を止めたとか、手刀で大地を割り海を作ったとか色々あるけど………」
「やべえーよ! やべーやべー! 早くそいつらに合わせてくれ」
「とは言えまだ目覚めてないからね。奴らが目覚める前にこっちの準備も全て整えないと」
以前扉の錠を開けるのに悪戦苦闘していると、背後から高下駄の音がカランコロンと鳴り、来訪者が近いて来たのを把握する。
「またせたのう。言質はとってきたぞ。其方が言う通りのようじゃ」
赤錆色の振袖を着た女はあんにゅいな面持ちで扉の前まで歩いて来る。人のような姿をしてはいるが、額の2本の角が人ならざる異形の者だと言う証のように生えていた。堂々と扉近くに割って入る彼女であったが、マントの女から彼女を歓迎する様子は感じらず、仲間なのかどうかも傍から見れば判断が難しい。
「だから最初からそう言ってるじゃん。こっちは命懸けでここに来たんだから」
「となれば妾も協力は惜しまぬ。“そこまで行く”事はできぬがそれも妾が取り締まるべき域じゃからのう。お主が言う最悪が起きうる前に妾達の力で止めるのじゃ」
両腕を広げ優雅にそう言った彼女に敵意はないようだ。広げた腕から垂れる、あまりにも長く大きな袖はまるで怪鳥のようで、ただでさえ稀有な和装を、より独特なものに仕上げている。
「どうだろう……あなたが相当な強さを持つ事くらい誰だって知ってるけど正直言って……力不足かもしれない」
「な、な、なんじゃとお! この妾が手を貸してやると言っておるのに! このディビンヌスリーの1人である妾が!」
「じゃあ聞くけど、そこのヴィンセントに勝てる気する?」
その言葉を聞きヴィンセントをジロリと睨むも、苦い表情を浮かべ反論する事はなかった。ヴィンセント自身はその眼差しに気づく様子もなく、自分には認識できない何かが来たのだろうと気だるそうに黙っていた。
「そ、そもそもお主の存在自体が妾の管轄! 平和すぎる空以外の任も預かってあるのじゃ! つまり共にいる事は義務なのじゃ! 戦い以外で役に立つ事もあろう!」
「まあ好きにしてくれていいけどさ……ディビンヌスリーの方達ってそう言う性格の人しかなれないの?」
「何じゃと?! 妾を魔術や蝶の精霊と似た性格と言っておるのか?! 無礼者!」
マントの女はその話を聞き流すと解錠する作業をやめ立ち上がる。こちらに顔を向けながら鍵穴に刺した棒をグルリと右に回した。
「空いたよ。噂通りなら話の通じる相手じゃないだろうけど、最初は説得してみようと思うから」
「戦闘になったら俺様に任しておけ。勢い余って殺しても文句はなしだからな」
やっと口を開いたヴィンセントは退屈そうにしていた態度から一変し、息を弾ませ立ち上がった。
「それだけはダメだよ。死なない程度に加減して。申し訳ないけど、どちらが死にそうになっても加勢させてもらうから」
「そこまでして次郎の奴を仲間にしたいのか?」
「1人もかけちゃいけない……ヴィンセントや次郎クラスと同格の人物は恐らくこの世界にはちょうど7人しかいない」
「目覚めるそやつらはそれ程までに強いと言うのじゃな」
「…………デドゥリシンセブンナンバー……奴らはこの世で最も強く最も罪な存在」
◇
「このような片田舎にわざわざ申し訳ございません。奴らが現れてからというもの我が国は兵士不足に悩まされていたものですから、勇者様にご協力していただけるなんて感謝の極みにございます」
「いや、謝らなければいけないのは俺の方です。こんな事態になるまで気づけず到着が遅くなってしまって」
「何をおっしゃいますか。世界中の治安を守っておられる勇者様に来ていただけてだけでも我々からすればどうお礼をしていいものやら」
神々しいほど真っ白の甲冑を見に纏った男と、この国の者であろう女騎士が駐屯所の一室で会話をしている。
「あなたのような女性が騎士団長を務めるほど兵力がない事態にになっているとは梅雨知らず」
「兵力のみではありません。Dエリアの際西端に位置する我が国カントリンダはCエリアに突如として現れたバットゲットカンパニーの侵略を受け治安も財政も大きく傾いてしまっているのです」
「やはり、バットゲットカンパニーの仕業なんですね」
勇者と呼ばれた男は甲冑の兜の上から顎を触った。
「ええ、ABCエリアに位置する奴らのアジトは以前まではヒイズルノ里と呼ばれ少数民族が住んでいるのみで実害はなかったのですが、そこの者達が皆殺しにあいG局局長ガムシロップスタンガンが支配するようになったのです。隣国であった我々の国もその被害にあい、国民の拉致や強襲にあい今の現状へ追い込まれたのです」
「騎士や国民がこんな状況になるまで好き放題されて……ここには実力のある騎士はいなかったんですか?」
「我が国の元々の騎士団長ワイルと副騎士団長のトンドはA級冒険者以上。下手をすればS級冒険者に匹敵するほどの実力を持っていると言われていました。しかし、数年前侵略を受けた際、ガムシロップスタンガンに敗北し、そこから帰って来ていないのです」
「それじゃあ冒険者を雇う事は……」
「元々、ABCエリアに密接する場所にあるので関所を常駐で守ってくれているS級賢者、厄災のメロッサを雇うのが我が国の財力ではやっとでして……」
「関所を留守にしては万が一ABCエリアのモンスターがこちらのエリアに侵入してくる可能性がありますもんね。確かにメロッサを駆り出すのは危険か」
置いていた剣を白い甲冑の腰に刺すと男は部屋の出口に歩き出した。
「早速ですけど連れてって下さい。一刻も早く奴らのアジトを叩かないと」
女騎士もその後ろに続いて歩きだし、2人はバットゲットカンパニーG局を目指した。
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