主催者の正体
三次試験を終えたゼンタであったが、シロとクロを倒しにも関わらず未だに次の試験へ行く事ができないでいた。
目の前に倒れる仲間の死体。
ルイド、エリック、ジック、ムサシ彼らの亡骸を眺め、かれこれ2時間ほどが過ぎていた。
まだその現実を受け入れられないでいるのか、一言も発する事なく地面に座り込む。
ここでは死んだ仲間を埋めてやる事もできない。
アルはそんなゼンタを見て、励ますでも慰めるでもなく、ゼンタと同じように座り込み4人の死体を眺めていた。
次の試験が始まらない。アルの気持ちは次へと切り替わっていた。それがゼンタを次へと進めてくれたルイドからの使命であり、エリック達へのせめてもの弔いだと意思を固めたからだ。
しかし、ゼンタは違った。仲間の屍の上を踏んでいかなければ勇者になれないのであれば、そんな者になる意味があるのかと意欲や決意、野心のようなものが薄れ、自暴自棄にも似た状態になっていた。
アルは次の試験がいつまで経っても始まらない状況を打破しようと、部屋の中を探索する。
隠し扉や次の場所へ進む為の何かはない。
ここへ来た時の扉を開けるが扉の先にあるはずの待機所としてあった部屋は無くなっており、白い壁で塞がっている。
完全に閉じ込められたと言う状況を不審に感じたがここから移動する手段には心当たりがあった。
それは一次試験の試験管が使っていた転移。
行く事も戻る事もない密閉空間から脱出するにはあれしかないだろう。待っていればその内あのズボンを被った男が現れると思っていたが、それにしてはいくらなんでも待たせすぎではないだろうかと少し焦りがではじめる。
ただこの状況は好都合だとも考えた。今のゼンタの精神状態ですぐ次の試験など行えるわけがない。
気持ちが落ち着くまではこうしているのはある意味願ってもない。まだまだ時間がかかるのであればその時は修行に当てようと、ゼンタの頭の整理がつくまではそっとしていようとその様を見守っていた。
その時であった。目の前の空間がぐにゃりと捻じ曲がり、その奇妙な歪みを眺めていると2人の男が現れた。
1人の男は知っていた。頭のズボンと転移。一次試験官をしていた男だ。
アルは立ち上がり少し警戒したが、知らない方の男はアルなど見向きもせずにカツカツとゼンタの方に歩みを進めた。
「三次試験合格おめでとう」
寝癖のような癖っ毛から角を生やした男がニコリとゼンタに笑いかけた。
その男をまるで正気を感じない眼差しでゼンタが見つめる。
「仲間が死んじゃったのか……それは残念だね。でも君に朗報があるんだ」
勿論、ゼンタは返事をしない。
「実は四次試験管が諸事情でいなくなっちゃってね。君にはこのまま最終試験を受けてもらう」
その男は片膝を着きゼンタに手を差し伸べた。
「あんたは一体誰だ」
やっとゼンタは口を開いたもののその手を取る事なく気の抜けた声で問いかけた。
「ごめんごめん。自己紹介が遅れたね。僕は魔王。第18代目魔王のルシ。この勇者試験の主催者でもある」
「ま、魔王が勇者試験の主催者?!」
思わずアルが声を上げた。
「やっぱり驚いちゃうよね。魔王を倒す存在を魔王自ら作ろうとしてるなんてさ」
「目的はなんなの?!」
「目的は勿論、僕を殺してくれる存在を見つける為さ。元々魔人は長寿な生き物……それが魔王ともなると人間では計り知れない年月を生きる事になる。それがもううんざりしちゃう気持ちわかるよね?」
「生きるのが嫌ならその側近や自らの手で命を断てばいいじゃない」
アルは腑に落ちないよう質問した。
「まるでドラマティックじゃない考えだな。でもそんな事試してるに決まってるだろ? でもそれも僕のスキルによって敵わない。自殺する事もできないんだよね」
両手を上げやれやれと魔王は首を振った。
「そこで始めた勇者試験。文字通り魔王を殺す存在を探し始めたと言うわけさ」
「そんな自分のわがままでどれだけの人間が死んだと思ってんの?」
「いやいや、これでも結構気を使った方だよ? 死刑以上の罪を犯した牢人生を集めたり、試験会場まで力のない者は辿り着けなくしたり、徐々に強くなるシステムにしていったりね。それに命を賭けて闘うのは冒険者や騎士や兵士も同じだろ? それで挑んで死んだからって僕のせいにされる方がわがままってもんだよ」
そう言われ、アルは何も言い返せず奥歯を噛んだ。それを見てふふっと爽やかな笑顔を見せると魔王はゼンタの肩に手を置いた。
「僕は君をずっと待ってたんだ。ボディの次に勇者になるのは君だ」
魔王がニコニコと笑いゼンタを眺めるもゼンタはその言葉に喜びを見せる様子もない。
「死なない体……最高じゃないか。僕のスキルに似てるけど君の物は完成品だ。君なら僕を殺してくれる」
「こんな事言っちゃなんだけど、正直ゼンタは弱いよ。あなた達は勿論、ここにいたシロやクロ、うちよりもね」
「そんな事、問題じゃない。不老不死と言う事は無限の鍛錬が積める。達人になるには年月を有するけど、肉体は老いる。全盛期の肉体があっても練度が足りない。ゼンタはそれを度外視できる」
魔王は唇が触れてしまうのではないかと言うほどの距離まで顔をグッと近づけた。
「僕が修行をつけてあげる」
それを聞きゼンタがギロリと魔王を睨んだ。
「死なない体ならどんな修行をしても死なない。僕のコレクションからゼンタに合うアイテムも渡そう。そうだ! ゼンタにピッタリの禁忌呪文があるんだ!」
ゼンタの返事を聞く前に魔王は盛り上がり始め、早口でこれからの予定を話だす。
「すまないけど……俺はもう戦わない」
ゼンタはボソリと呟いた。
「へ?」
「戦いがこんなにも苦しい物だなんて思わなかった。仲間が死んだ事もそうだが……その時本当に何もできなかった自分がこれから戦っていける自信がない」
すると魔王は瞳をガタガタと震わせたかと思うとそれが広がったように体をぶるぶると震わせた。
「そんなのダメダメダメダメダメ!!! 許さない許さない!! ゼンタ! 君は僕を殺すんだ! そんな事僕が許さない!」
先程まで爽やかに会話していた魔王が取り乱し、威厳も何もない子供のようにゼンタに詰め寄った。しかし、その様を見てもゼンタはまるで態度を変える素振りを見せない。
「仲間の死がきっかけで戦えない? 甘い事言うなよ! バカかゼンタは?! 戦わなきゃ仲間が死ぬんだよ!」
「戦いの場に行かなきゃいいだろ……じゃあ仲間の死を感じる事はない」
ほっといてくれと言わんばかりのゼンタの物言いに魔王は頭を掻きむしり雄叫びを上げた。
「ああああああああああああ!!! もうこんな手段本当は取りたくないけど! ゼンタの為だからね! ゼンタが強くなる為に仕方なくだからね! ゼロアシ!」
そう言って魔王がズボンを被った男に命令すると、ゼロアシと呼ばれたその男は魔王に深々とお辞儀をしてアルの肩に手を置いた。
「アル!!」
それを見てゼンタはすぐさま立ち上がりゼロアシへ殴りかかろうとするも2人はスッと姿を消し、ゼンタは空を殴った。
ただ広いだけの真っ白の空間に魔王と2人きりとなったゼンタはアルがいた場所に駆け寄るも当然そこには何もない。そのままゆっくりと顔だけを魔王の方に向けた。
「何をした?」
「ゼンタの為だよ。その怒り……僕にぶつけてごらん?」
「黙ってアルを返せ……」
「じゃあ場所を変えよう。動かない街。そこで続きを」
怒りの表情を見せるゼンタと対照的に魔王はニコリと笑いかけた。
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