幹部対幹部
魔王の玉座。床も壁も辺り一面赤一色で作られた空間に敷かれたレッドカーペットはまるで意味がないように見える。
それ以外に違和感があるとすれば、玉座は空席となっている事。その付近にも魔王の気配は一切感じられない。
間抜けの空となった魔王の間にカツカツと足音が近づく。
「おいおい……こんなとこまで来たってのに魔王はいねえのか?」
その部屋に唯一ある大きな扉から中年の男が入ってきた。
だらしのない身なりに不潔な無精髭、ボサボサの髪を無理矢理まとめてオールバックにした男がため息まじりに呟いた。
その後ろに続いて2人の男女も魔王の間に入室する。
「止まります」
スラリとした冷たい目の女は発言通りその場に立ち止まる。透明の髪やまつ毛はガラスでできているかのようで人の毛である事をまるで思わせない。
「おいおい話が違うぜ? 妹の誕生日会キャンセルして来たってのによお」
一緒に入室したもう1人の男は、ボディースーツを身に纏い、覆面をかぶっている為、素顔が一切見えない。だが、溢した愚痴がヘラヘラとした口調である事からひょうきんな性格である事がわかる。
「バドルガンジャンゴ。てめえに家族はいねえだろ。幹部3人で来たってのに無駄足か、めんどくせえ」
中年の男はシャツの中に手を突っ込みボリボリと腹をかく。
「ったくダリィな……引き返すぞ」
そう言って3人が玉座に背を向けた時だった。
「あなた達ここに何しに来たのかな? いつの受験生? ここまで辿り着く実力者なのにノーマークだったんだけど」
パジャマの上半身を無理矢理ワンピースにして着用した女が玉座の右側から現れた。
「どこにいやがった? どこから現れた? お前が魔王か?」
中年の男は背中に背負った刀の柄を握り聞いた。
「びっくりさせちゃったかな?」
突如として現れた女は質問には答えず、無邪気な表情で挑発した。
「ああ、飲み込んだ唾が詰まって死ぬところだったぜ」
むせかける素振りすら見せない覆面の男が軽口を叩く。
「ちなみにあたちは魔王様じゃないよん。魔王様の右腕にして勇者試験4次試験の試験官ライトニング。勇者になる為に来たようじゃないし魔王様の敵って事でいいかなー?」
「ああ、その通り。俺たちは社長の命令でこの勇者試験を乗っ取りに来た」
「勇者試験を? 何が目的か知らないけどそんな事しちゃダメだよん」
「俺達が勇者試験の権利を手にしたら、こんな過酷な試験にするんじゃなく、誰でも受けれる様に敷居を下げる。受験者の窓口を広げ高額な参加費を取って金儲けするのが目的だ」
「そんな事しちゃ身分不相応に参加した力のない人間達が無駄に死んで行くだけじゃん。ダメダメ」
「んな事俺たちに言われても知るかよ。半端な覚悟と実力で自分の身の丈をわかってねえ奴らが悪い。死なねえように強くなりゃいいだろう」
中年の男とライトニングのやり取りは続く。
「あんた達は一体誰なのかそろそろ自己紹介してもらえる?」
「俺達はバットゲットカンパニーって組織の者だ。俺はT局局長ティーティーピーチ。そこにいる女はE局局長エージェントデンジャラス」
「そして俺様がB局局長バドルガンジャンゴ。お喋りを楽しみに来た訳じゃないんだ。しのごの言ってねえでさっさとかかって来いよ! ザコ…………ってこのおっさんが言ってました!」
覆面の男が中年の男を指差し叫ぶと中年の男は随分刀身の長い刀を抜いた。
「言ってはねえが思ってはいたよ。見参!」
続けて男が叫ぶと、見参の掛け声と共に目の前にボワンと3匹のモンスターが出現した。
「おっ! すごい! 強いモンスターを使役してるんだね! その猿みたいなのはハヌマーンじゃん! フェニックスも! うわ! まさかそれケルベロスじゃん! 初めて見た!」
「ハヌマーンはハヌマーンでも毛色が違うだろ。こいつは言うなればハヌマーンのボス猿……シルバーハヌマーン。ただのハヌマーンとは訳が違うぜ」
そう言ってティーティーピーチは3匹のモンスターと共にライトニング目掛けて走り出す。
「魔物使いなのにあんた自身も戦うんだ」
ティーティーピーチが走り出したと同時にエージェントデンジャラスは地面を踏みしめ構えた。
「向かいます」
それと同時にエージェントデンジャラスがビュンと走り出すと、ライトニングは向かい来るモンスターを指差した。
「獄炎魔法!」
指から特大の火炎が放たれる。それが指差す方向目掛け飛んでいく。
フェニックスはその炎の中を突っ切るも残りの2匹は左右に回避する。ティーティーピーチに直撃するかと思いきやその炎を刀で防ぎいなした。
「ふぅん。さすがここまで来るだけの事はあるじゃん」
自分の魔法を難なく回避されたにもか変わらずライトニングはまだ余裕の表情を見せている。
「殴ります」
真後ろから人の気配を感じライトニングはすぐさま背後に振り返る。そこにはいつの間にか背後をとっていたエージェントデンジャラスが拳を大きく引いていた。
「うわ」と言うライトニングの声と同時に床がボコリと盛り上がり壁の盾を作ったかと思うとその壁から数十本にも及ぶ鋭い槍がエージェントデンジャラス向かって伸びる。
「避けます」
それを全力で走って避けるも、壁から出てくる槍はどこまでも伸び次々とエージェントデンジャラスに襲いかかる。走る歩幅と同じ感覚で槍が地面に次々と突き刺さっていく。
何とか壁から出た槍が全て地面にささるとエージェントデンジャラスは距離を取り目を閉じた。
「今だやれ! おめえら!」
ティーティーピーチの掛け声と同時に3匹のモンスターがライトニングを襲う。
しかし、先頭にいたフェニックスはくるりと体を回転させ赤い翼を振るう。
翼を広げかまいたちのように残り2匹のモンスターに突撃する。それをハヌマーンが両手で止めるとケルベロスがフェニックスに噛み付く。
フェニックスの悲痛の雄叫びが聞こえる。
「仲間のモンスターをこんなに躊躇なく攻撃できなんて信じらんなーい」
「お前のスキルか何かだろ? あれほどの魔法がつかえるのにスキル持ちなんて考えたくもないが、この局面で敵に寝返った仲間を庇って戦えはしねえよ」
「ふぅん。随分戦い慣れてるんだね。じゃあもっと周りも警戒した方がいいよ」
ティーティーピーチが頭上を見上げると先ほどライトニングが放った獄炎はまだ消える事をせずいつの間にか上空へと移動していた。
それがまるで落雷のようにティーティーピーチに落ちていく。
「何だよ! これ! さっきの炎がいつの間に上空に!」
「あたちのスキル、アネモネの色。あたちはカラーが赤い色の物を無機物、有機物問わず自由自在に、自分の意のままに操る事ができるんだよね」
「なるほど……炎魔法は勿論、この部屋そのものがお前の手足のようなものって訳か」
「バドルガンジャンゴ! てめえもちょっとは戦え!」
ティーティーピーチが後ろを振り返りバドルガンジャンゴに加勢を頼もうとした時、バドルガンジャンゴは体の右側にマーカーペンで丸を書いていた。
「こんな時に何してんだてめえ!」
「いや、違う位置にターゲットマーク書いときゃ心臓外してくれないかなと思って……」
「ったく! いいから手伝え! ぶっ飛ばすぞ!」
バドルガンジャンゴはやれやれと言ったように腰にかけてあるホルスターから歪な拳銃を取り出すとバンバンバンと3発弾丸を放った。
その弾丸が列を作るように進んでいくと、ちょうど両者の真ん中辺りを通過したところで次々と大きなロケット弾に形を変え、それがティーティーピーチと獄炎の間に割り込む
大きな爆音と爆風を上げ、その隙に両者は一旦距離を取る。
その間にライトニングは手のひらから先ほどよりも大きな炎の玉をメラメラと作り出す。
「魔王の部下相手に3人がかりでこのざまだ。魔王本人なら間違いなく歯が立たなかったかもな。スキル持ちなのになんだよあのでけー炎は」
「おいしいポークチョップが作れそうだぜ」
「警戒します」
「お前ら全力でらやらねえと死ぬぞ。気合い入れろ!」
ティーティーピーチが柄にもなく怒鳴り声を上げると3人は一定の距離を取り横に並んだ。
フェニックスをハヌマーンが床に押さえつけるとケルベロスがティーティーピーチの元に駆け寄ってくる。到着と同時に長い刀身を噛み切るとケルベロスの姿はその刀の刃に変形した。
「神切る犬」
エージェントデンジャラスは目を閉じ、息を大きく吐きキッと目つきを変える。その瞬間先ほどまでとは違う闘気が溢れ出し、立ち姿すらも何やら別人のような構えに変貌する。
「憑依……メテオ……ケイティ・サンチェス」
バドルガンジャンゴはどこから出したかもわからない小型のジェット機のようなブレードを背中から出現させると拳銃を2丁構えライトニングに銃口を向けた。
「ダイナマイトジョーの奴は何してんだよ……ったく。ささっと終わらせて帰るぞ」
「了承します」
「あいあいさー」
3人とライトニングは睨み合いお互いの出方を伺う。その時、フェニックスとハヌマーン2匹のモンスターが大きく断末魔を上げると同時に床に倒れ込んだ。
2匹が生き絶えたのをきっかけに4人はいっせいに攻撃を放った。
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