↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

74/104

心の傷



 クロが3人の死体を踏み躙りながらこちらに歩いてくる。


 ゼンタはその光景を見て放心状態となった。

 エリックの死体を眺め体が小刻みに震える。


 それはあれほどの実力を持ったエリックが殺されたという恐怖から来るものではない。


 言うなれば自分の師であり、昔も今も自分の事を認めてくれていたエリックが死んでいるという現実を目の当たりにしたショックによるものであった。


「ゼンタ! ここを離れて! ルイドにも被害が出る!」


 アルの叫びも聞こえずゼンタは膝を地につけ動かない。ルイドをなるべく安全な場所にと端の壁まで連れて来たゼンタであったが何故ここに来たのかすら忘れている。


「嘘だ……エリック……騎士長が……そんな」



 頭の整理が追いつかない。エリックを殺したクロを仇として見るほどの時間もない。


 戦闘経験や仲間との死別をこれまで体験してこなかったゼンタにとって、その仲間の死をバネに、力へ変換する事は今のゼンタにとって短時間で行えるものではなかった。


 声をかけ続けてもエリックの死体を眺め続けるゼンタをアルは無理矢理抱え込むとルイドから離れる為、走り出した。


「くすくすくす……形勢逆転だね。さっきの反動でもう戦えない足手まといと、完全に戦意を損失してる雑魚。そんな2人をかばいながら君1人で戦えるのかな?」


 まるで機能していないゼンタを見てアルは苦い表情を浮かべる。


 戦闘に参加できない上にいつでも殺せるルイドは後回しにするはず。ルイドを殺してる隙に、作戦を建てたり、ゼンタの心が回復する間《ま》を与える方が相手にとって不都合……あそこに追いてきたルイドの心配より今はゼンタをどうにかしないと。


 そんな事を考えながらアルは鞄からナイフと取り出すとそれを上に投げた。あわててナイフを取り出した勢いからかクマの人形も鞄からこぼれ落ちる。


 頭上高くでピタリと止まるナイフをクロは警戒する。


「ゼンタ! エリックさん達が死んだ悲しい気持ちはわかるよ! でもゼンタが戦わないと死ぬよ! ルイドも! うちも!」


 アルはゼンタの肩を掴み顔を近くに寄せた。

 ゼンタはその言葉を聞きやっとアルの方に顔をあげた。


「いいの?! うち達が死んだら心の傷がもっと大きくなるだけだよ! それにゼンタもただじゃ済まない! レイちゃんに死んだら許さないって言われたでしょ?!」


 アルはそう言ってゼンタの肩から手を離すと、その場から少し離れマント広げた。頭上に投げたナイフは例の如くアル自身の周りをグルグルと周回する。


ルイドはゼンタのその姿を見て大きくため息を吐くと、ボロボロの体を無理矢理起き上がらせ、大きく叫んだ。


「アル! その牢人生の動きを一瞬でいいから止めてくれ! 俺がとどめをさす!」


 するとルイドは俯き瞑想でもするように考え込んだ。


「もう! 無茶言わないでよ!」


 アルは体の周りを回っていたナイフをクロ目掛けて飛ばし、そのナイフについて行くように走り出した。


「くすくすくす……そのナイフが危ないのは見ればわかるよ」


 そういうとクロはパッと地面に触れ大きく空へと飛び上がった。


 空中へ逃げナイフを回避する。奇妙な動きをするそのナイフの行方を目で追っていると目の前に拳を引いたアルが現れた。


「肉弾戦は苦手なんだけ……ど!!」


 と言ってクロの顔面目掛けて拳を突き出すとそれが額にクリーンヒットする。


「くすくすくす……この威力じゃ苦手なのは間違いないね」


 そう言ってお返しと言わんばかりにクロがアルに踵落としをおみまいし地面に叩きつける。


 大きな衝撃音と同時に地面から土煙が立ち昇る。

 それを見てゼンタはやっと走り出した。


 仲間がやられた大きなショックより、また目の前で仲間がやられる恐怖から考えるよりも先に体が動いていたのだ。


「大丈夫か! アル!」


 アルの元に辿り着くと倒れるアルを抱え無事を確認する。


「大丈夫だよ……スキルのおかげでね」


 このアルのスキルについてはゼンタも聞いていた。

 アルの7つのスキルのうちの1つ。ゴールデンウィーク。

 肉体のどこか一点に弱点を絞り、そこに攻撃が当たれば大ダメージとなる代わりにそれ以外の箇所の攻撃のダメージを大幅にカットするという一か八かの防御バフにも似たスキル。

 ただし全身にダメージを与えるような技や、そもそも魔法のような物を浴びれば作った弱点にも痛みが生じ、大ダメージをくらってしまう為あまり軽率に使う事はしないらしい。


「すまなかった。正直まだ気持ちの整理はつかないがもう戦える」


「アタナシアは打てそう?」


「今の集中力で打てるかどうか……」


「じゃあルイドに考えがあるみたいだから攻撃に専念して! 大丈夫! ゼンタなら!」


 ゼンタを鼓舞するようにいい放つとクロの方を向き鞄からもう一本ナイフを取り出し構えた。


 クロはアルが先程投げたナイフとまだ格闘しており、当たる気配こそないが何をしても自分を追尾してくるナイフの処理に困っているようだった。


 するとクロは踏みつけるように地面を思いっきり足で叩くと地面がボコボコとえぐれ、その岩のようにえぐれた床に触れる。


 次々と岩に触れ、それがフワフワと浮きクロの周りを盾のように囲む。

 しかし、ナイフは岩をすり抜けまだクロを追い続ける。それを見てクロは驚いた表情を見せ何度も岩で盾を作る。


「あのまま岩をすり抜け続けたらナイフが壊れちゃう」


 ぼそりとゼンタに呟くと次の一手を考える為、ゼンタもアルも思考を巡らせる。ルイドから自分達に与えられた役割はクロの動きを止める事。アルは一応その為に動いてはいた。


「くすくすくす……わかった。このナイフ物質には当たらないんだね。時間制限のようなものがあるか、もしくは生物に当たるまでターゲットを追い続けるようなスキルかな? それにしても少しずつスピードや威力が上がってるような気もする……不気味だなー」


 そう言ってクロは自身の体に触れると先程触れた岩との間に反発する力が働き、凄まじい勢いでゼンタ達目掛けて突進してきた。


「くすくすくす……この体当たりで1人殺して、もう1人をナイフの盾にしようっと!」


 こちらに来るクロを見つめゼンタは口を大きく開く。


「アタナシア!」


 しかし、開いた口からはゼンタの声が出ただけで禁忌魔法の類は一才でてこなかった。


 クロの体当たりに当たればただでは済まない。

 かと言ってあのスピードで迫り来る攻撃を回避する事はできない。


 エリックが死んだショックで集中力がないのか、クロの攻撃が迫る状況で死にたくないと思っている事が邪念になっているのか、ゼンタはアタナシアを繰り出せないでいた。


 するとアルが走り出した。


「無戦ラン」


 そう言ってクロとは違う方向に凄まじいスピードで走ったかと思うと、近くまでトボトボと歩いてきていたアルの人形の方に向かっていった。


 先程こぼれ落ちたように見えた人形はいつの間にかどこへ行っていたようで、その人形は何かを抱えてこちらに歩いてきていたのだ。


 人形から何かを受け取るとアルはそれを地面につける。

 その瞬間こちらに飛んできていたクロの動きは止まり、ビタンと地面に張り付けとなった。


 アルが地面につけた物は先程ルイドが倒したシロの腕だった。

 体を真っ二つにされてもまだピクピクと痙攣するシロの体を見てアルが微笑を浮かべる。


「牢人生の中でもナンバー4の実力を持つシロの生命力がかえって役に立つなんてね」


 そこでゼンタは理解した。今このフロアの床にはシロのN極の力が働いている。それが証拠に先程まで浮いていた岩も全て地に落ちている。


 クロはタップするように何度もパンパンと地面を叩くが自身の体が反発の力で浮く様子はない。


「似たようなスキルだけど自分より実力のある者のスキルを相殺する事はできないよね」


 シロの手を地面につけたまま、アルがクロに言い放つ。


「ゼンタ! アタナシアを! この磁力のスキルは時間経過で効果消えるスキルだから急いで!」


 ゼンタは慌ててアタナシアを撃つ覚悟を決めようとするも、まるで撃てる気配がない。


 それほどまでにエリック達が死んだ事が心の傷になっているのだろう。この状況で心を乱さない方が無理な話である。


「早く! 時間経過でなくてもシロが死んだらスキルが解除されちゃう!」


 シロの腕を必死に地面に押さえつけアルが叫ぶ。


 早くしないといけないのはわかっている。シロを殺せる可能性があるとしたらアタナシアしかない。しかし体が震え、心が乱れ、身近な者が死んだ事がよりゼンタへ死ぬ覚悟を与えさせない。身も心もまさにぐちゃぐちゃな状態でどうしたらいいのかと言う焦りと緊張だけが全身を駆け巡る。


 するとルイドがトボトボと歩き始めた。


「言ったろ。俺がとどめをさすってよ。最近まで戦いの場にいなかったゼンタが、この状況で使いもんにならねえ事くらいわかってたよ」


 ゼンタとアルはルイドの方に勢いよく顔をあげた。


 ルイドはタバコを咥え両手を前に出した。両の手のひらは床に張り付くクロの方に向けている。


「こんなチャンスはもうこない。ここで倒さなきゃ俺達は全滅するだろう」


 するとルイドの手のひらがバチバチと光り始める。ゼンタもアルもこの光には見覚えがあった。


「実はな、この禁忌魔法の研究もしていたんだ。ただ後一歩のところでいまいち理屈を理解するのにつまづいてな。まあ撃てば死んじまう魔法だし習得は諦めていたんだが……百聞は一見にしかずとはよく言ったもんだぜ。ゼンタのおかげ仕組みや理論、技を出すイメージを完全に理解した」


 バチバチと手のひらから飛び散る火花のような光がルイドのタバコに火をつける。

 それを見てゼンタとアルは叫んだ。


「お前まさか! アタナシアを!」


「ダメ! やめて!」


 アルはシロの手を地面から離そうとした。


「離すな! お前がクロの動きを解いたら全員死ぬだけだぞ!」


 それを聞き、アルの手にまた力が入る。

 アルは怒りにも似た表情で下を向き、ボタボタと涙を流しながら歯を食いしばると「自動最適化《オプティマイズモード》」と呟いた。


「お前のそのクールなところは一目置いていたぜ。その頭の良さと冷静さは必ずゼンタの役に立つ」


 ルイドはうつむくアルを見てはにかんだ。


「頼む! 俺がアタナシアを撃つから! 俺が! 俺が! やるから! ルイド! 頼む!」


「もうそんな時間はねえよ……言ったろ。お前達の為に命をかけるって……短い間だったがお前達と旅ができて本当に楽しかった」


「頼む! ルイド! ルイド! ルイドォ!」


 ルイドはまるでゼンタの言葉に聞く耳を持たない。


「ゼンタ達と共に旅をして仲間ってのは初めてできたが………いや……こんな事を言うとまたロリィの奴に怒鳴られるな……まあ悪いもんじゃなかった……兄貴にはよろしく言っておいてくれ」



 ルイドの咥えるタバコが凄まじい勢いで灰になっていく。


「ゼンタ……絶対勇者になれよ」



 クロが「クソォ!」叫びながらジタバタと暴れる。

 アルはまるで目を背けるように地面に顔を落とし続ける。

 ゼンタはルイドの方に走り出すがボロボロと流れる涙でルイドの姿がよく見えない。

 すると一瞬にして当たりが真っ白に光り、本当にルイドの姿が見えなくなった。


「アタナシア」


 凄まじい轟が当たりに響いたと同時にとんでもなく大きな閃光がクロ目掛けて飛んでいく。

 それがクロに直撃するとその姿は跡形もなく消え去り、その場に立っていたのはゼンタとアルだけとなった。


 ルイドがいた方に顔を向けると、肩から先を真っ黒に染めたルイドの死体が横たわっていた。



ここまで読んでいただきありがとうございます!

もし気に入っていただけたのであれば星5評価、ブックマークの方よろしくお願いいたします!

更新するモチベーションに繋がっております!本当にありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。