シロとクロ
その場にいる全員が1つの扉の前に集まっていた。
「この扉で異論がある奴はいるか?」
エリックが全員に問いかけるも誰もその言葉に物申す様子はない。
「手がかりもないし、くじ引きみたいなもんだもん。今の状況じゃどこ開けたって運否天賦」
あまりに反応がない為アルが付け加える様に返事をする。
「じゃあ覚悟を決めるぞ」
訓練も休息も準備も万全の状態のゼンタ達は三次試験を受ける覚悟が固まっていた。
エリックが扉のドアノブに手をかけ開くとエリックに続いて全員がその扉の中に入っていった。
扉の先にはだだっ広いだけで何もない一面真っ白の空間が広がっていた。
どこに三次試験の試験官となる牢人生がいるのかと身構えていると、自分達の頭上から声がした。
「しくしくしく……久しぶりの受験者達。しかもこんなに沢山……」
「くすくすくす……嬉しい事じゃないか。沢山可愛がってあげようぜ」
声のする方に顔をあげるとそこには泣き顔を象った真っ白なお面をつけた牢人生と笑い方を象った真っ黒のお面をつけた牢人生が2人宙に浮いていた。
「なに?! 2人だと!」
エリックは思わず声を上げた。事前に建てた作戦はどれも1対大勢と言うものばかりだった為、いきなりその検討が外れてしまった焦りがみえる。
「しくしく……お前達は6人で来ておいてこちらが2人だったからと言って取り乱すなんて……何て自分勝手なんだろう」
「くすくす……まあまあ仕方ないさシロ。俺達クラスの牢人生が2人もいちゃ誰でもテンパるってもんさ」
ここで今から作戦を建て直す事はできない。エリックを含む全員が互いの顔をチラリと見合うと阿吽の呼吸で臨戦態勢に入った。
こうなれば行き当たりばったりでもやるしかない。
「くすくす……こいつらやるつもりだぜ」
「しくしく……そのようだね。まずは自己紹介をしよう。僕は4牢のシロ。この三次試験の試験官を任されている」
「くすくす……同じく三次試験の試験管を任されている9牢のクロ。僕達2人が力を合わせれば死んだ2牢や3牢にだって負けないぜ」
それを聞き一同は冷や汗を流す。
「ハズレを引いたようだな。今から新たな作戦を建てる時間はない。各自最適と思える動きをしてくれるよう頼む」
エリックの言葉に全員が頷くと、ジックが両手を広げ何かを唱えると、両の手に剣と杖が具現化された。
「つえー杖、負けん魔剣」
その二本を大きく振り下ろすと、空中にいるシロとクロを中心に大量の爆破魔法が合わられる。
地上にいるゼンタ達もその爆風で態勢を崩しかねない程であるが爆煙が晴れるより早くその魔法が無意味である事を地上で立つ2人を見て確認する。
するとクロの方が床を滑るように、とんでもないスピードでこちらに突撃してきた。それを見たルイドはスキルでそのスピードを落とすもそれでも凄まじいスピードでクロは迫り来る。
すかさずムサシが脚と止の指を合わせ脚止めしようとするも一瞬勢いが死んだだけで、それも意味がなかったように再度こちらに向かって来る。
いよいよゼンタ達にぶつかる直前エリックがバッと前に走りだすと隕石のようなクロの体当たりを剣で止めた。
衝突と同時にザザザーと地面を足の裏で鳴らし、20メートル程後退したが完全にクロの勢いは死んだようだった。
クロの体を止めるエリックの剣は小刻みにカタカタと震える。それほどまでにクロの力が強いと言う事だろう。
「くすくす……お前の仲間が勢いを落としてなかったら吹き飛んでいたよ。お前」
「だからどうした? 開幕で放った技を止められた負け惜しみか?」
「くすくす……いいや。お前に当たらさせすればそれでいいんだよ」
と言うとクロは腕を伸ばしエリックの肩を手のひらで触る。
それとほぼ同時にこれまたとんでもないスピードで後ろにいるシロの元に戻っていった。
「あいつらの動き奇妙だよ。宙に浮くのは勿論だけど物理的にあり得ない動きをしてる。地面を蹴ってもないのにまるで滑るようにとんでもないスピードで移動してる」
アルが今のやりとりを見てゼンタにこぼす。
「魔法の類じゃねえのに浮いたりできるなんてあいつらのスキルか?」
「くすくす……恥ずかしながらその通りだよ」
こちらの会話が聞こえたのか、クロがしゃがみ込み地面に手のひらをつけながらそう言った。
「しくしく……その通り。これが僕たちのスキル、マグネットワークの力さ」
シロが声を上げると同時にエリックがフワフワと宙に浮いた。
「しくしく……クロが触れたものは形ある物ならどんな物でもS極の力が働く物体に変わる」
「くすくす……シロが触った物は同じようにどんな物でもN極の物体に変わる」
次はシロが地面に手のひらを当てるとエリックはとんでもないスピードで地面に落下していく。その刹那アルは大声を上げた。
「ハシッテ!」
アルが叫ぶとゼンタは地面を思いっきり蹴り、エリックの落下地点に走った。指示を出したアルは白目を剥き一瞬気を失ったように見えた。
ゼンタは初速とほぼ同時にルイドのスキルでそのスピードが増し、エリックが地面に叩きつけられるとほぼ同時にゼンタがその間に滑り込みクッションになった。
「すまない……助かった」
「だ、大丈夫ですか?……」
「ああ……」
お互いの安否を確認し合うと立ち上がりシロとクロの方を向く。
「くすくす……しとめ損なったね」
「しくしく……2人いる事で反発の力だけじゃなくて、引き合う力も使えるのに即死させれないなんて。腕が鈍ったかな」
そう言って2人はハイタッチすると次はシロがとんでもないスピードでこちらに迫り来る。そのスピードはクロよりも早い。
考える間もない猛突進にエリックとゼンタは体を硬直させるとムサシが頭と切の指を合わせた。それと同時にジックの爆破魔法がシロとゼンタ達の間に現れる。
「ゼンタ俺をおもいきり殴れ!」
直立不動だったエリックは鞘に収めた剣を振り上げ叫んだ。
意味はわからなかったが言われるがままゼンタはエリックを殴りつけようと拳を引き前に出した時、ちょうど振り下ろされたエリックの鞘とぶつかり、その衝撃で2人は互いに大きく横に吹き飛んだ。
爆破自体にはもろともしなかったようだが、煙から飛び出てきたシロはそこにいるはずの2人が消えた事に少し驚いたような表情を見せピタリと止まった。
「しくしく……地面を蹴っての回避なら間に合わないと思ったんだけど。そこまで飛べるほどの威力を出せる脚力があるんだね」
ゼンタとエリックはアル達がいる地点までシロとクロを警戒しつつ走った。
「ジック、ムサシ助かった。正直頭が回らなかったがお前達のおかげで咄嗟に回避方法を思いつく事ができた」
「なんのなんの。小生はあくまで頭を切れさせただけでござる。あの脱出方法もエリック殿だからこそ思いついたまで」
ムサシとジックは少し照れた様な表情を見せる。1年以上共に過ごした3人だからこそ即席で成せた連携だったのだろう。
「あいつらに触れられないように気をつけろ。触れられたら体の自由を奪われる」
「エリックさん触られたみたいだけど大丈夫なの?」
アルがシロとクロを注視しながら聞いた。
「恐らく大丈夫だろう。今の攻撃だって俺と地面をくっつけておけば体当たりも確実に命中させれたはずだ……スキル使用から一定時間が経過すれば効果が消えるのだろう」
「いちいち地面に触れるところを見るとそうみたいだな」
ルイドはタバコに火をつけるながら、のそのそと前に躍り出た。
「出し惜しみをして勝てる相手じゃなさそうだ。俺が時間を稼いでやる。その内に奴らをぶっ殺す作戦でも建ててくれ」
ルイドの顔のひび割れた痣が黒く光り、そのひび割れがピキピキと伸びていく。
「何するつもりだルイド」
「使うのは2度目だがこの魔法の強さは本物だ」
「お前まさか禁忌魔法を使うつもりじゃ!」
ゼンタがそれを辞めさせようと声を出した。
「大丈夫心配するな。死にはしねえよ」
ルイドは咥えていたタバコをペッと地面に捨て、誰にも聞こえないくらいの声でボソリと呟いた。
「アラギ」
目元の痣は顔を覆い尽くし、やがてルイドの指先まで浸食していくと、それは全身にまで至った。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
星5評価、ブックマーク是非よろしくお願い致します!励みになっておりす!
これからも頑張って更新していけたらと思います!




