エリックパーティー
あれからほんの数日が経ったがまだ扉を開けてはいない。お互いの戦闘力を把握する為、引き続き修行がてら1対1の実践的な戦闘訓練を順番に行っているのだ。
ゼンタとエリックが互いに休憩時間となり横並びに壁にもたれ雑談していた。
「ところで、聞きそびれたけどエリック騎士長はなんで勇者試験を?」
ゼンタはエリックに出会って1番最初に抱いた疑問をぶつけた。
「ああ……本意ではないのだがな……国王命令なんだ」
どこか不満と寂しさを含んだ表情でエリックが答える。
「俺達の国王は権力に取り憑かれた。この何百とある国を統一しようとしているんだ」
「国を統一? 世界中の国を自国に引き入れ、一国にしようとしてると言う事ですか? そんなの不可能ですよ」
「いや、数千年前まで世界は一国だった。勿論その前も何百という国々があったが1人の小さな国の王が己の武力だけで国々を統一したと言う伝説がある。ストライブサン国王……彼は少ない兵力で戦争を繰り返し、その前戦に立ち勝ち続けそれを実現した。俺達の国の国王もそれに続こうと無謀な企てをしている」
「かつてそんな国王が……でも俺達の国の王がそんな強さを持っているなんて聞いた事が」
「ああ、国王個人に武力はない。だから俺をこうやって勇者試験に送り込んだんだ。国の中では1、2を争う実力があるからな。俺が勇者になれば世界の国々は恐れ、無理な交渉にも応じる……聞かない国は武力行使で潰す……そんなめちゃくちゃな方法で国を統一しようとしているんだ」
「そんな……そんなの勇者のする事じゃないですよ!」
「ああ、わかっている。一度は統一された世界もストライブサン国王が死ねばまた争いを産み世界は散り散り《ちりぢり》となった。あんな惨劇は2度と繰り返してはならない。国の為、国王の為にある騎士団だが、俺が勇者になればその過ちを正す為にこの剣を振るうつもりだ」
何よりも国王の命に忠実なエリック騎士長であったが、その言葉を聞きゼンタは安心した。
「それにしてもあの2人も強いですね。エリック騎士長は2人に勝てるんですか?」
ゼンタはルイドと戦うムサシ、アルと戦うジックを見ながらエリックに問いかける。
「自慢じゃないが2対1でも負けた事はないぞ」
エリック騎士長の他を寄せつけない剣術も相当なものだがそれに加え、エリック騎士長のスキル、ダンガンバンク。これにより王国内でも無類の強さを誇っている。
このスキルは同じ箇所に攻撃を当てれば当てるほどその威力が増していくという物理技。
それは剣によるものでも打撃によるものでも構わない。相手の腕なら腕、腹なら腹のように同じところに攻撃を当てれば2回目なら倍の威力、3回目なら更にその倍と攻撃力が倍々になっていく。4回以上同じところに攻撃を当てれば5回目の攻撃は触れただけでも威力が65536倍もされる為相手が弾け飛ぶほどの威力になる恐ろしい技である。
勿論ここでの戦闘訓練でそこまでの攻撃はしないがこれが敵に振るわれると思うと心強い事この上ない。
2人は雑談をしながら残りの4人の戦闘を観察する。
ルイド戦うムサシが指を合わせたところでルイドの動きがピタリと止まる。
「それにムサシのスキルも使い勝手がかなりいいですし」
「たしかに、攻撃、サポート全てにおいて一級品だ」
ムサシのスキル、指図
これはチヨメのスキル同様、ムサシの生まれ故郷で使われる漢字にまつわるスキル。
右手の親指以外の指に「息」「頭」「手」「脚」左手の親指以外に「止」「上」「動」「切」と書いてあり、両手の選んだ指を同時に親指と合わせる事で慣用句が完成し発動する。
指に書いてあるアクションを選んだ対象に強制的に行わせる事ができる。
息と切なら息切れさせ、手と上なら対象者がお手上げになり、頭と止なら思考を停止させるなどその他にも息を上げたり、手切れさせたり、足止めしたり、頭を切れさせたりなど敵、味方、自身誰にでも16通りの指示を出す事ができると言う便利なスキルだ。
「お前の仲間も中々じゃないか」
エリックは戦う2人を見てからゼンタの顔を見るとどこか誇らしそうに言った。
自分の教え子の成長を喜んでいるようにも見える。
エリックは前に出ると戦闘をしている4人に近づき手を叩く。
「よし! お前達の実力はよくわかった! お前達自身もわかったはず! そろそろ作戦を考えるぞ!」
自分もパーティーのリーダーである以上エリック騎士長のリーダーシップは見習わなければいけない。
現にその言葉をきっかけに全員が戦闘の手を止めエリック騎士長の元に集まってくる。
「相手がどう言った技や能力を持っているかわからない以上あまり具体的な作戦は立てれないが、相手は1人。前衛と後衛に分かれて戦闘するのが最もベターだ」
「どの扉を開けるかはかなり重要になってくるよね」
アルが並ぶ扉を眺め口を挟むとそれにつられて全員が扉をの方に顔を向ける。
「これから勇者を目指す人間がこんな弱腰ではダメだが、なるべく弱い牢人生に当たる事を祈ろう」
エリックが冗談混じりに言う。
「アル、まずお前はゼンタと共に前戦で戦ってほしい。お前のスキルや技を含めた戦闘の実力は俺に匹敵する上、ゼンタとの付き合いも長い分チームワークもできてるだろう。ルイドは俺と2人で戦う。後衛はジックの魔法とムサシのサポート。このフォーメーションで戦う」
「おいおい、ちょっと待てよ。アルが強いからゼンタと戦ってくれって事はよ、その言い方だとあんたが俺のお守りをするみたいじゃねえか」
ルイドはその作戦が鼻についたのか不服なようだ。
「そう言うわけじゃない。確かに実力を加味した分配だが、俺のスキルとルイドのスキルはかなり相性がいい。俺がお前の力を借りる状況も多いだろう」
エリックの実力はルイドを凌ぐものである事は明々白々であったがそれを言う事はなく、ルイドを説得した。
「それにここまで使ってはいないが、過去の話やその痣を見たところ、いよいよとなれば禁忌魔法も使うつもりなんだろ? 頼りにしている」
信頼の眼差しを向けエリックが笑うと頭をポリポリとかきルイドはそれ以上何も言う事はなかった。
「ルイドさん禁忌魔法も使えるんスね! さすがっス! ゼンタさんも禁忌魔法を使うそうですがお二人はどこでそれを身につけたんスか?」
「情けない話だが、俺はガキの頃から魔法に対する憧れが強くてな……自分にも使える魔法を独学で色々と研究してたんだよ」
「なるほどなるほど……独学とはまた凄いッス。勿論、教えてくれる機関なんてありませんが」
「俺は両親が魔術に精通してた人でな。2人が俺に授けてくれたんだよ。2人とも禁忌魔法を研究してた罪で死刑を言い渡されるんだが、2人とも俺の中でアタナシアとして生きている」
それを聞きジックが腕を組み何かを考えると、恐る恐るゼンタに質問した。
「禁忌魔法を研究して死刑?……魔術に精通した夫婦………あのゼンタさんのお母さんって……メゾナマジックバイト……と言う名では」
「ああ……そうだけど……やっぱそれなりに有名な魔法使いだったんだな……」
「有名も何も自分はメゾナマジックバイト先生に憧れてマケイア大魔術大学に入学したんスよ! 非常勤でたまに講師をしてくれるって聞いて!」
「母さんと合った事があるのか!」
「ええ! 学生の頃に! メゾナマジックバイト先生は多忙な魔法使いだった為、授業自体は6回程しか受けれませんでしたが! もう大尊敬しています! はーー! お子さんがいらしたとは!」
それを聞きジックに親近感を覚える。
自分もあまり知らない母親がどんな人だったか根掘り葉掘りまた聞いてみたい。
「とにかく、今から十分に休息を取りが準備整い次第、三次試験に挑むぞ」
エリックがそういうと各々《おのおの》睡眠や武器の手入れに入る。ゼンタは並ぶ扉の前に立ち、扉の表面を指でなぞる。
明日にはこの扉の向こうに立っているのだろう。
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