合格者と脱落者
アゲハの案内で洞穴の奥に行くと、先程いた空間より更に広い所に出た。その壁一面に力の蝶がびっしりと張り付いており、鮮やかともグロテスクとも取れる空間となっていた。
「ここは蝶の間。この中心に立っていただくだけで合否が決まりますのよ。もし数が足りなければ一次試験会場に引き返し修行を積み再度挑戦する事も可能ですが、その気力が湧かないようであれば勇者試験から離脱する事も可能ですわ」
「修行を積めばとまる蝶の数は増えるの?」
アルが聞くとアゲハは微笑を浮かべ答えた。
「ええ、勿論ですわ。魔力は産まれ持ったものですから後天的に上がる事はありませんが、それ以外の力は己の頑張り次第で上下致しますわ。ただ、蝶を1匹増やすのに何年もかかる者もいれば、それが叶わぬ者もいるんですの」
これまでのアゲハの説明を聞きゼンタは柄にもなく自信を持っていた。
魔力は皆無。闘気やそれ以外の力も勇者志望者の中では並以下だろう。しかしゼンタは生命力の塊。レイがどれほど食い続けても尽きる事のない無尽蔵の生命力を保有している。
他の力がなくてもその生命力のみで蝶が大量に集まる事を確信していた。
「それでは早速ですが、順番にどうぞですわ」
回りを見ると誰もが自信無さそうな表情を見せる。どれ程蝶が集まるのか、誰か1人でもわかればどれくらい自分が蝶を集められるかの基準がわかる。今はそれが皆目検討がつかない。一体どれ程集まるのか、この未知数な試験に不安があるようだ。
「そ、それではわたくしからよろしいでしょうか?」
おずおずとカースが小さく手を上げるながら前に出る。
「わたくしは目標を達成致しましたので皆さんよりも気が楽だと思うので……合格すればこの力、ゼンタ様達の為に使う事もやぶさかではありませんが、もし不合格であっても悔いなく勇者試験から身が引けるので、まずはわたくしから行かせていただきます」
カースの提案に誰も反対する事はない。結果的には全員がこの蝶の間の中心に立ち合否を言い渡されるのだから結局のところ誰から行っても同じ事である。
「それでは。ごきげんよう」
アゲハはカースを見つめ蝶の間の中心の方に手を向けた。
ゴクリと唾を飲み込むとカースは一歩一歩ゆっくりと中心の方に歩みを進める。
カースがその真ん中に立った時、壁に張り付いていた蝶が1匹、また1匹と宙を舞い、そのままカースの肩や背中にとまりはじめる。
背中や肩にとまる蝶の数が増えるほどにどんどんと大きくなりまるで大きな翼でも生えたかのようなカースの出立ちに何とも言えない神々しさを感じる。
壁に張り付いた蝶達からもう飛ぶ様子や飛ぶ気配を感じなくなるとアゲハが口を開いた。
「74匹と言う事で、残念ながらお嬢さんは不合格ですわね」
カースは勿論、ゼンタ達全員が黙りこくる。
「まあここまで来た人間の中では珍しくない数ですわね。残り26匹……修行を積むには膨大な数ですがリタイアするようであれば、あたくしにお声がけ下さい。ご案内致しますわ」
あまりにも冷静に淡々と説明するアゲハとは裏腹に、残りの面々は声を出す事もできない。
「さあ次の方……」
カースにかける言葉が見つからなかった。
しかし、この試験会場から抜け出す事を望んでいたカースはまだマシな方である。
それ以外の面々がここで脱落するとなると通過した人間はその者に何と声をかけるのが正解なのか全くわからない。
それはゼンタも同じで、自分に着いてきてくれた皆が通過し、自分だけが二次試験を突破できなかった場合、通過した仲間達以上に気まずい思いをするだろう。
より、蝶の間の中心に立つ事に億劫になっているとルイドが一歩踏み出した。
「落ちても受かっても恨みっこなしだ。ここを通過できねえ実力ならこの先死ぬだけ、足手まといになるだけだ。それが嫌ならすぐ戻って一刻も早く強くなりゃいいだけの事……追いつきゃまた一緒に先に進めるんだからよ」
ルイドがその空間の中心に立つとカースの時とは比べられない量の蝶がバサバサと壁や地面から飛び次々と体にとまり、カースより大きな翼を作った。
「おほほほ、これは中々……399匹。一流以上の実力がありますわね」
その後もゼンタ達は次々とその蝶の間に挑む。
アル626匹。
チヨメ98匹。
ロリィ19匹。
ここまでで三次試験に進めるのはルイドとアルだけになってしまった。
ここまでシビアな試験に当初は自信のあったゼンタにも不安の色が見える。
「レイさんの実力はあたくしも承知してますわ。ここで推し量るまでもないでしょう」
魔封じの腕輪を知ってか知らずかわからないが、レイとは古くからの知り合いであるアゲハはわざわざ蝶の数を見なくともレイが合格ラインに達しているのを確信し、手を中心に差し伸べゼンタを中心に立たせるように促した。
S級冒険者とは言え、魔力もなく、戦闘を得意とする職業でもないアルが626匹という悍ましい量の蝶を集めたのだから大丈夫なはずだ……
ゼンタは自分に言い聞かせた。
しかし、スキルによる戦闘能力には反映されないというアゲハの言葉が脳裏をよぎる。
はたして不老不死であるゼンタのスキルにより得ている生命力に蝶は反応してくれるのだろうか……
もし、その不安が的中する事となれば、下手をすればロリィをも下回るかもしれない。
だが、スキルで得たとは言え、この生命力は紛い物ではなくゼンタの中に溢れる力。戦闘力ではなく、その者が持つ力として判断されるのであれば必ず反応するに違いない。
ゼンタは蝶の間の中心へと立った。
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