井戸の底の精霊
井戸の底に叩きつけられる直前、落下の速度が急激に落ちた事を体感し無事着地する。
ゼンタ達の中にはそれによりダメージを負う者もいただろう。
おそらくルイドのスキルによりその速度が最小化された物だと思われる。
地面から井戸の内部に目線を変えるとそこはまるで洞窟のような景色が広がっていた。
上を見上げると、自分達が入った井戸の穴が、針の穴のように小さく見えるものの井戸の中まで光を灯すほどの輝きはない。
前を向くと、ここまで追っていた蝶が洞窟の先にヒラヒラと進んで行くのでゼンタ達もその後に続いた。
しばらく進むと追っていた蝶以外にも同じ蝶が数匹、続々とそこら中を飛び回っている。
ゼンタ達がその蝶達を横切るとアルやルイドの肩や頭に1匹2匹と止まっていく。
害は無さそうなので特に気にする事もなく進んでいくと、少し広い空間がある場所に抜けた。
そこでとうとう追っていた蝶は飛び進むのをやめたかと思うと、その中心の岩場に腰掛ける女の指に止まった。
「ご案内ご苦労でしたわ」
煌びやかとは呼ぶにはあまりにも派手なドレスを身に纏ったその女は、意外にも美しむように蝶に労いの言葉をかけ、ゼンタ達の方に顔を上げた。
長くくるりと曲がったまつ毛に大きな青い瞳、長い髪はくるくると宙を舞う蝶のよう巻かれており前髪の上から
「おめでとうございます。あなた達7名は無事一次試験を合格致しましたわ」
当然の合格発表に面を食らった。
まさか、クリアまで何年もかかると言われる一次試験を蝶についていくだけでクリアするとは思いもしなかったからだ。
ゼンタは振り返り仲間の顔を確認すると、レイがその女に睨みつけていた。
「やっぱりてめえの差金か……蝶の大精霊」
レイがそういうとその女は一瞬少し驚いた表情を浮かべたが、すぐに片方の口角を上げ、子生意気な表情に変わる。
「あらあら、これはこれは魔術の大精霊さんじゃありませんこと? まさかあなたが勇者試験を受けているなんて思いもしませんでしたわ」
「なんだレイ。知り合いか?」
2人のやりとりから、そうである事は確信していたが勇者試験の関係者らしいこの女の詳細を聞く為、ゼンタはレイに問いかけた。
「ああ…こいつは蝶の大精霊。私と同じディビンヌスリーの1人だ」
「こいつもディビンヌスリーなのか?!」
ルイドが驚いた様子でレイとその女を見比べた。
「ああ。この世に精霊のそのほとんどが妖精なのは知ってるよな? こいつはその全ての妖精を束ねる妖精の王」
「その通りですわ。妖精の王……つまるところあたくしこそが精霊の王と言っても過言じゃありませんの」
蝶の大精霊は手のひらを口元に持っていくとオホホホと高らかに笑った。
「ほざいてろ。お前は下位種族しかいねえ、ただの妖精の大精霊だろうが。精霊全てを統一したのはうん万年前に死んだ精霊の大精霊フェアアイルウェンズ様だけだ。調子に乗った発言はほどほどにしておけ」
「あらあら、魔法を使う事しか脳のない1匹狼の精霊様が妬んでいらっしゃるわ。また子供の頃のように泣かされたいみたいですわね」
「てめえ! 何百年前の話を性懲りも無く!…」
ここまでのやりとりで2人は随分仲が悪いように見える。
「んな事より、お前がなんでこんな所にいるんだよ」
「それはあたくしがあなたに聞きたいところですわ。まさかそこの人間達と共に行動をしてらっしゃる訳ではありませんよね?」
「そのまさかだよ。私はここにいるゼンタと言う男の下につく事にしたんだ」
「まあ!! あたくしと同じくディビンヌスリーともあろう精霊が人間ごときに付き従えるとは……恥を知った方がいいんじゃなくて?」
「言ってろボケ。別に恥も後悔もねえよ。必ずこいつはお前も一目置く男になる事は間違いねえからな」
当たり前のようにそう言ったレイの表情から冗談を言ってるような素振りは見えない。
「まあ、誰の下にもつかなかったあなたがそこまで言うなら大した方なのでしょうね」
「で、次はこっちの質問に答えろよ。お前がなんでこんな所にいやがるんだ?」
「あたくしもあなたと同じですの。付き従える方と出会う事ができたのですわ。この勇者試験の主催者様こそあたくしが生涯を捧げるに相応しいお方」
「私よりもプライドの高い蝶の大精霊が誰かの下に着くとはな……」
「あたくしの事は蝶の大精霊ではなく、アゲハとお呼び下さる? あの方よりいただいた名誉あるお名前ですの……よろしくて? レイさん」
「はん、むず痒い事を強要してきやがって。まあいい。そんな事より一次試験は終わりなんだろ? とっとと二時試験会場に連れていけよ」
「ええ、先程申し上げた通り一次試験はここに辿り着く事ですの。皆さん合格ですわ。そして次なる試験会場はまさにここ。この蝶の洞穴の先にある場こそが第二の関門ですわ」
「二時試験会場がこことな? こんな所で一体何すると言うのでごじゃるか?」
黙りこくっていたチヨメがその試験内容を問いただす。
「このあたくしが従える蝶。名は力の蝶と言いますの。この子達は疲れると生物が持つ生命力、魔力、筋力、闘気や活気などを感じそれを宿り木に羽を休めますわ。大きな力を持つ者には多くの蝶が止まりますわ」
ここまで来る途中、ゼンタ達には1匹もとまらず、アルやルイドに止まっていた合点がいった。
「そして、この先には大量の力の蝶がいます。そこに行き、あなた達にとまる蝶の数で二時試験の合否を決めさせていただきます」
「それだけ? 蝶の数……一体何匹とまれば合格なんだ?」
ゼンタが聞くとアゲハは説明を続けた。
「お待ちになって。口上は言い切らないといけませんの……コホン……スキルを含めた戦闘力には反応しませんわ。戦闘力とは違う、その者が持つ力に反応しますので、優れたスキルを持っていても意味がありませんの。むしろ魔力が少ない分、不利になるのですわ」
アゲハの指先に止まっていた蝶がゼンタの方に飛んでくるとゼンタの肩に止まった。
「子供でも生命力などは持っているので1匹くらいは止まりますわ。大人になれば多少の筋力や闘気や活気も身につく為2匹程は止まるでしょう。更に魔力があったり、町で1番の腕自慢ともなれば3匹や4匹程の蝶の宿り木にはなるでしょう」
「御託はいいから何匹集めればいいかだけ答えろ」
レイは痺れを切らし単刀直入に聞いた。
するとアゲハは不敵に笑い、指を上から下に1回なぞると、続けてその指でクルクルと空中に円を2つ作る動きをした。
「二時試験を突破するには……100匹以上の蝶の宿り木になる事が最低条件になりますわ」
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