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チヨメの覚悟



 仇である組織の一員を逃し、何もせずに地面を這いつくばる事しかできないチヨメは仲間を見渡した。


 抜けていく床と、諦めと苦悶の表情を浮かべる仲間達を見て、覚悟を決めた。



 あいつの技は見た。幸い奥義の発動条件は満たしている。

 しかし、今の自分の経験値で使えるか。使えたところで無事では済まないだろう。


 だが、やるしかない。

 全く同じようには無理かもしれない。だが上から下への移動なら万が一にも可能性はある。自分が死ぬ事になったとしても。必ずや自分の無念はゼンタ達が晴らしてくれる。


「いざ!」


 チヨメは指を2本立て、顔の前に持ってきた。


転移てんい


 チヨメは信じらない量の鼻血を噴水のように吹き出し、目から血を垂れ流す。

 体中の毛穴が開きそこから激痛が走る。


 ボロボロと崩壊していく塔を後に、ゼンタ達は最上階から消えた。

 チヨメの覚悟が身を結び、案内人のスキル「転移」の発動が実現したのだ。






 神のつま先近くの森。

 そこにゼンタ達一同は勢揃いで横たわっていた。レイやアルすらも気を失い、微動だにしない。

 がただ1人、目を閉じるチヨメの横に座り込みその顔に手を当てる人物がいた。


「出血多量による、循環血液量減少ショック……内臓も複数損傷……」


 その声がかすかに聞こえ、ゼンタは目を覚ます。転移中に1度死んだゼンタはガバッと起き上がるとチヨメに寄り添うマントを着た女に声を上げた。


「何やったんだお前!」


 そのマントの女は勇者試験が始まった直後に話したあの女だった。

 どこかで会った事がある気はしていたが、瀕死ひんしの仲間の元にいるその女を警戒せざるを得なかった。


「目が覚めた? 治療だよ」


 マントの女が立ち上がり、ゼンタはチヨメの方に目を向けると意外にもチヨメはスヤスヤと安らかに眠っていた。

 続いてマントの女はレイの側に座り込むと、チヨメ同様、顔に触れ、頭の先からつま先までじっくりと目でなぞった。


脳震盪のうしんとう、自律神経障害、全身打撲、もろもろの疼痛とうつう、魔力がない状態での攻撃は受ける事なんてないだろうからね。並以下の肉体じゃ大ダメージにもなっちゃうよね」


 マントの女は優しく頬をなぞるとしばらくじっとレイを見つめた。

 すると、さっきまでまるで正気のこもっていない表情を浮かべていたレイもチヨメ同様スヤスヤと眠りについた。


「死んじゃダメだよ……」


 マントの女は立ち上がるとゼンタの方を向いた。


「お前……一体誰だよ」


 2人を治療をした事に疑いを持ってはいなかったが謎に包まれた女に対しゼンタは疑念を抱いていた。


「今はまだ言えない。でも正体を明かす日は必ず来るから待っててよ」


 マントの女は背中を向け、その場から立ち去ろうとした。

 ゼンタはそれ以上その女に声をかける事はできず、その後ろ姿を見守る事しかできなかった。

 しかし、ああは言ったもののゼンタの中であの女の正体には薄々気付いていた。しかしそれはあり得ない。何もかもの辻褄が合わなくなる。


 ここに彼女がいると言う説明を証明する事は不可能だ。

 それを聞く事もできず森に消えていくマントの女を眺めていると、突然その女は立ち止まり、くるりとこちらを向くと、スタスタと走り寄ってきた。何かまだようでもあるのかと声をかけようとしたした時、女は有無も言わずゼンタに抱きついた。


 一方的に抱きしめられた事に驚き呆然としていると、女はサッとゼンタから離れ何も言わずにまたスタスタと森に消えていった。



 その時、アルが目を覚ます。


「誰……今の人………それにここは?」


 頭に手を当て大酒を飲んだ日の朝とも取れる雰囲気でムクリと起き上がる。


「わからない……だが……敵じゃない……間違いなくな」


 アルは何も分からないと言った様子であったがそれ以上何かを詮索する事はなかった。


 とにかく、この場にいる仲間の命に別状があるわけではないのだろうと確信すると全員が目を覚ますまで、ここでしばらく休息を取る事にした。


 レイが目を覚ますまで、やや時間がかかったがしばらく休んだ事により、全員の肉体的なダメージなどは回復した。しかし、次々と現れる圧倒的な強者達に対する絶望感は拭えないままでいた。



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