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魔物使いの女


 人形から人の姿に変わったその女はどこから出したのかカードを3枚地面に並べると、カード目掛けて何かを叩きつけるように勢いよく地面に投げた。


 投げられた物体はカードの中に飲み込まれていく。

 すると次の瞬間、そのカードに描かれていた3匹の魔物がメキメキと音をたて立体となっていく。


 二足歩行の鉄の塊。タバコを咥えた獅子《しし》。タキシードを着た案山子《かかし》。

 3匹は彼女の前に立ち並ぶとチラリとそれぞれサンゾウの使い魔に襲いかかった。


 彼女は応援に徹しており、戦う様子はない。


「なんだあの女……いきなり現れて」


 陣形も整い、やっとサンゾウと勝負ができるといった場面で水をさされ、どちらかと言えば味方であろう女を邪魔だと思った。


 鉄の塊は太った魔獣に、案山子は皿の乗った魔獣に、獅子はハヌマーンに突進する。


 鉄の塊は取っ組み合い、獅子は殴り合い、案山子は技を避けては放ち、それを避けては放ちを繰り返している。


「いい加減よしなさい。次はあなたの使い魔もろとも人形にしますよ」


 サンゾウはその女にイラついたように注意する。


「フン! やれるもんならやってみなさいよ! あんたなんか怖くないんだからね!」


「いかにも人間らしい浅はかな物言い。言って聞かないのなら仕方ない…… 緊箍児《きんこじ》」


 その言葉のあとサンゾウの3匹の魔獣は頭を押さえ苦しみ出すと暴れ、女が召喚した魔物3匹を圧倒した。獅子はぶっ飛ばされ、鉄の塊は絞め落とされ、案山子は攻撃が当たり崩れ落ちる。


「えっ! ちょっとみんな! どうしようどうしよう! ま、まだ勝負は終わってないんだからね!」


「お前ちょっと大人しくしてろ」


 ゼンタは女にそう声をかけると、アルやチヨメ達も再度、サンゾウの魔獣達と相対する。


「なによあんた! あたしがサンゾウを倒すんだから邪魔しないでくれる?!」


 ゼンタはラチがあかないと、その女の首に手刀を入れる。


「ウヴェッ」


 女は呆気なく気を失い、地面に倒れ込んだ。


「さて、邪魔が入ったが気を取り直して始めよう」


 ゼンタは全速力でサンゾウの元に詰め寄ると腹目掛けて思いっきり拳を突き出した。

 その前に人形を召喚し、盾にするとサンゾウはまた違う人形を召喚し、それがゼンタの体を掴む、それを殴り飛ばすも、サンゾウはまだまだ人形の召喚をやめない。


 4体の人形に手足を掴まれ、ゼンタがそれを振り払おうとするより早く、もう一体の魔獣型の人形がゼンタの体目掛けて突進した。


「ゔぅっぷ!」


 その衝撃でゼンタは血を吐く。肋骨《ろっこつ》が砕け心臓に刺さったのがわかった。ゼンタの体は一瞬気を失うように脱力したが、すぐさま覚醒した。その時に自分を掴んでる人形達の力が弱まった隙をつき、右手を掴む人形を力任せに振り解《ほど》くと、サンゾウから距離を取るように後ろに飛ぶ。

 そうしてる間にも続々と召喚される人形達。


「一体何体、使役してんだ。こいつ」


 手で血を拭うと、また距離が出てしまったサンゾウの方に目を向ける。自分もサンゾウの間には進行を妨げる無数の人形。これを肉弾戦で突破するのは日が暮れてしまうだろう。

 こいつらといちいちやり合ってサンゾウの元に行くのは正攻法なのだうろが最善とはいえない。ゼンタは何かこの場を打開する方法を考える。

 人形で周りを固め、自分達全員の相手を使い魔にやらせている。こんなスキルを持つ者が大きな魔力を持っているとも考えられない。つまり奴自身の戦闘能力はそれほど高くない。そこまで推理する事は容易にできた。


「一瞬でも人形に隙ができればサンゾウの元へ行き、一撃喰らわせることができるのに」


 その時、ゼンタの中に1つ考えが浮かぶ。


「レイ! 俺もろとも風魔法を撃ってくれ! サンゾウの方に俺をぶっ飛ばす感じで頼む!」


 手間取ってはいないものの、無限に沸く人形の処理をこなすレイにゼンタが叫んだ。


「別にかまわねえけど、お前をぶっ飛ばす程の風魔法だとお前自身を殺しかねないぞ。それに前列の人形は風魔法でぶっ飛ばせても回りの人形に掴まれでもしたらサンゾウの元へは辿りつけねえし……」


「ああ! それでかまわない! 殺す気で来い!」


 それを聞き、レイは悩む素振りも見せず風魔法を身に纏《まと》うとそれをゼンタ目掛けて飛ばした。


 直撃した魔法によりゼンタの背中はズタズタに引き裂かれるが、その風圧により、狙い通りサンゾウ目掛け飛んでいく。


 何故か人形達は迫り来るゼンタを止めようともせず、傍観《ぼうかん》していた。

 風魔法が消えると同時にゼンタはサンゾウの元まで辿り着いたが風魔法の膨大な威力に巻き込まれた事により、ボトンとサンゾウの足元で力尽きるように落下した。


「一体何がしたかったのでしょう。私の元まで来たところで絶命してしまってはいかにも意味がありませんよ」


 サンゾウはゼンタの頭に足を乗せるとグリグリとその亡骸を踏み躙《にじ》った。


「死なねえけどな」


 地面にうつ伏せのゼンタがその足を握る。


「やっぱりな……さっき死んだ時、俺を掴んでた人形の力が抜け、誰も俺を攻撃しようとしないのがひっかかったぜ。誰だって死んだ人間をいつまでも攻撃するような無駄な命令は出さねえもんな」


「死んだ時?! あなた今たしかに死んだはずじゃ!」


「死んだ状態で突撃すれば、人形も俺を静止しようとはしない。お前を捕まえちまえばこっちのもんだぜ」


 ゼンタが足を掴んだまま勢いよく立ち上がるとサンゾウも勢いよく地面に背中を打ちつけた。

 その瞬間に高く空中にジャンプすると前宙《ぜんちゅう》をするように、仰向けで倒れるサンゾウの腹、目掛《めが》けて踵落《かかとお》としをお見舞いした。


「がっはぁ!!」


 無防備な腹にゼンタ渾身《こんしん》の蹴りをくらったサンゾウは白目をむき、気を失った。


「やっと終わったか……」


 人形だったサンゾウの使い魔達が次々と人間や魔獣の姿に戻るのを見てレイも魔法の手を止める。


「あーーあと少しで倒せそうだったのにー」


 何かから解放されたようにキャッキャと喜ぶハヌマーンを見て、アルは空中に浮いたナイフをそのままスッと鞘に収める。


「あんた達が助けてくれたのか……礼を言うよ」


 サンゾウに操られていた人間達は大いに喜び涙を流す物までいる。魔獣すらもゼンタ達に感謝しているような仕草を見せた。

 しかしそれに水をさすようにレイが声を出す。


「ここから出たいならさっさと下の階に行け。再生速度を考えるとまだまだ大丈夫だろうが私達が空けた穴も時間が経てば塞がるぞ」


 ここから出る術《すべ》は定かではない。中から攻撃すればまた穴が空くとも限らないので侵入にする際に作った大きな穴が塞がれば、ここにいる者達が外に出れる保証はできない。

 それを忠告すると雪崩《なだ》れ込むように下へ続く階段に皆《みな》が走って行く。


 たった今まで人や魔獣で埋め尽くされていたフロアが一気に物静かとなった。


「さて、こいつをどうするかだな」


 魔獣を召喚しゼンタ達の邪魔をしていた女はまだ気を失っていた。

 この女をこんな状態にしたのはゼンタ自身であった為、置き去りにするのも忍びなく、しぶしぶ背負って次の階層を目指した。




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