我がパーティー最強の女
「ハッ! ちょっと何よ! 下ろしなさいよね!」
ゼンタに運ばれながら目を覚ました女は、状況判断より先にゼンタの背中で暴れた。
「おい、落ち着けお前」
暴れてゼンタの背中から転げ落ちるように階段に尻持ちをついた女は、階段の隅に着地した。
底が見えない程高い場所にいる事を階段の淵から覗き、冷や汗をかくとすぐさま立ち上がりゼンタの腕に捕まる。
「あ、あんたが助けてくれたみたいね! 別にありがとうなんて思ってないんだからね!」
命の恩人に偉そうな態度を取ってはいるが、目が覚めるや否やサンゾウに攻撃を仕掛けた勝ち気な性格を考えると別段腹も立たなかった。
「操り人形であったお主を助けた恩人に自己紹介もせず、その態度はあんまりなのではごじゃらんか?」
チヨメが子供に躾でもするように注意すると、女はそれもそうだと言ったように咳払いをし、ゼンタ達の方に姿勢を正した。
「あたしの名前はロリィ。魔物使いよ! 一応サンゾウから助けてくれた事はお礼を言っとくわ」
何故か納得がいかないように感謝の言葉を言うと、ゼンタも自己紹介と謝罪をした。
「俺はゼンタだ。引き返すの事もできたんだが、横着しちまって気を失っていたお前をここまで連れて来ちまった。すまん」
「別に構わないわよ。あたしも上に用があるし」
「あなたもヴァレンティーナ王女のロザリオを求めているのですか?」
おずおずとカースがロリィに質問するも、ロリィはそんな事は初耳と言ったようにとぼける。
「なにそれ。そんな物があるなんて全く知らないけど」
「は? じゃあ何しに塔にいるんだよ。サンゾウに操られて無理矢理連れてこられたのか?」
「違うわよ! ここであいつと戦ってああなっちゃったの!」
「じゃあなんでこの塔の上に用があるんだよ」
「あたしの唯一の仲間がいるの! そいつを迎えに行かないと!」
「仲間が上に? お前サンゾウと戦ってる時、半年も時間を無駄にしたって言ってたろ?」
「そんな長い間、ここにいるってそいつもう死んでるだろ」
レイが冷たい言葉をかける。しかし、ゼンタも口には出さなかったが心の中ではそう思っていた。
「ふふ 生きてるわよ。あたしの仲間がこんなとこで死ぬわけないもん」
ロリィは自慢気に仲間の無事を宣言した。
◇
塔の中でもかなりの上層階。その1つの階層では激闘が繰り広げられていた。砕けた壁の穴、えぐれた地面。
顔にひび割れのような痣を持った男と1人の牢人生が戦っていた。
「おい、もういい加減終わりにしようぜ。315牢」
「そんな寂しい事言うなよルイド。俺とお前が戦ってどれだけ経つと思ってるんだよ」
痣の男はタバコを咥えるとブツブツと何かを詠唱し、指先に小さな火を灯した。
「かれこれ、200日ってところか?」
「200日も同じ空間に一緒にいたんだ。もう恋人と言っても過言じゃないだろ?」
「悪いがそんな趣味はねえよ」
痣の男はタバコに指先の火をつけると大きく煙を吸った。
「もういい加減、そろそろ飽きた。けりをつけるぞ」
2人の男は大きく地面を蹴り、惹かれ合うように距離を詰めた。
◇
ゼンタ達は果てしなく続く螺旋階段を未だに登っていた。
「あのなーいくらこの塔が高いって言っても半年もこんなところにいるわけないだろ。死んでるか、もうとっくに塔から出てどっかにいるよ」
レイはスイスイと宙を浮きながら、ロリィに辛辣な言葉をぶつける。
「は? 何言ってんのあんた! あたしを置いてどこか行くわけないし! あいつが負けるわけないんだからね!」
「そんな強いならなんでお前を助けなかったんだよ!」
「し、知らないわよ! 言っとくけどあたしの仲間はあんたなんかよりも全然強いんだからね!」
前方で喧々と言い合う2人を他所にゼンタ達も塔の攻略について話し合う。
「うち思ったんだけど、ヴァレンティーナ王女のロザリオは受験者が置いていった物なんでしょ? じゃあ主催者側は何の為にこんな塔を建てたんだろ?」
「たしかに……そのアイテムを獲得する為に建てられた物じゃないとすると、それとは別にここを制覇した時、何かしらの報酬がなくちゃな」
「侵入も力無さ者にはできぬ仕組み。更にはサンゾウのような少数の牢人生もいるような塔でごじゃる。単純に最上階まで行って終わりと言うのは些か疑問が残るでごじゃる」
「一次試験クリアに大きく近づく何かがあるのではないでしょうか?」
カースがそう吐露するとゼンタがカースの方に顔を向けた。
「なるほど! たしかに! その可能性はあるぞ!」
途方もない旅になると思っていた、一次試験クリアの先駆けを既に掴んだようにゼンタの鼻息が荒くなる。
足取りも軽くなり更に上に進んでいるとようやく、次の階層の天井が見えて来た。
「やっと次のフロアだ……また牢人生が待ち構えている可能性が高い。気を引き締めていくぞ」
「せいぜい足引っ張らないでよね!」
ロリィはゼンタ達、特にレイに向けて生意気に忠告する。
次の階層に辿り着くとそこには、傷にまみれ体中に包帯を巻いた男が1人立っていた。
「ゲゲゲゲゲゲ……サンゾウやった? おまえらつよいな?」
目つきの悪い男はにったりと笑い、ゼンタ達を1人ずつ舐め回すように見て回った。
「ゲゲゲゲゲ……女食う……ゲゲ…男食わない」
「なにあいつ……なんか気持ち悪いこと言ってる」
アルが少し引きつった顔をしながらゼンタにコソコソと耳打ちをする。
「俺……3018牢……スクラッチ……よわい受験者……かなわない」
そう言って右手の包帯を解くとスクラッチと名乗る男は大きく振りかぶった体制でこちらに突撃して来た。
「来るぞ!」
ゼンタの号令で全員が構えた時、レイが1人、前に躍り出る。
「ゼンタの修行も兼ねているとはいえ、サポートや雑魚の足止めばかりやらされて私も溜まってるんだ」
レイの両手が赤く燃える。
その熱気により一瞬にして汗が吹き出し、目を開いているのもままならない。
「こんなのチマチマ1匹ずつ倒してても埒があかねえだろ」
「ゲゲゲゲゲゲ!!! お前うまそう!! かわいい女はうまい!!!」
迫り来るスクラッチに火で覆われた両手を向ける。
「極炎魔法」
そう唱えたと同時に両手から放出された炎が牢人生にふりかかり、燃え上がる。
「ゲエエエエエエ!!!」
そう雄叫びを上げた牢人生は苦しむ間もなく消し炭となった。
あまりにも呆気ない勝敗に誰もが驚いていたがこいつは元々世界でも最高位の精霊でありながら、かなりのパワーアップをした自分を幾度となく即死させた魔法を容易く使う魔術の大精霊。驚く方が失礼に値するのかもしれない。
その光景を目の当たりにしてロリィは生唾をゴクンと飲んだ。
「で? 誰の仲間が誰より強いって?」
レイは勝ち誇った顔でロリィの顔に詰め寄った。




