神のつま先
塔の中に入るとそこは、真っ白の壁と床、先が見えない程長い螺旋階段があるだけだった。
大きく空いた穴のせいで、勢いよく風が中に流れ込む。
「さすがにみんなして大技使う事はなかったな」
ゼンタは後ろを振り向くと、穴と言うより、もはや空間と呼ぶにふさわしい壁であった場所を眺める。
「入れたんだし、なんでもいいじゃん! それよりさっさと上に行ってお目当ての物ゲットしちゃお!」
アルは軽い足取りで螺旋階段に足を乗せる。
塔に入る直前に目を覚ましたチヨメは、カースに蘇生のスキルを使い、破れた鼓膜を修復した。
「悪かったな、まさか、ああまで威力が出るとは思わなくて」
ダメージを負ったカースに謝りながらゼンタはアルに続いて螺旋階段を登る。しかしカースは怯えた表情で、前に進もうとはしない。
「す、すみません。皆さんの力に圧倒されてしまって……まさかここまでの力をお持ちとは想像もしてなかったものですから」
たしかにあんな攻撃を見た後だと誰でも萎縮してしまうだろう。攻撃を放ったゼンタ自身も、同じものを目にしていたら体が硬直していただろう。
「皆さんに同行してわたくしが役に立てるかどうか……」
「まあ、あんなのが毎回って訳でもないし、呪いのアイテムの事はカースが1番詳しい。さっさと先に進んで、早いとこ帰ろう」
ゼンタの言葉で少し緊張がほぐれたのか、カースは階段を登るゼンタ達の後を追った。
一階からは天井が見えない程長く続く階段だったがひたすら登っているとようやく天井が見えた。
「よし、次のフロアだ」
それが見えた途端駆け足となった一同は、2階に到着した。
二階層に足を踏み入れた瞬間にすぐさま全員が戦闘の準備を始める。
そのフロアには頭に輪っかをつけた人形にも見える人や獣のような生物がウジャウジャといたのだ。
「ち、一掃しちまいたいが、アタナシアやレイの範囲が広い魔法は室内では乱発できないな」
この数を一体ずつ相手にしなければいけない事を思うと嫌気がさしたが、外で打っても周りの物を跡形もなく葬りさる禁忌魔法。こんな所で撃てば塔が崩壊しかねない。それに仲間へのダメージを考慮すると気軽に撃つ事はできなかった。
仕方ないと全員が構えた時、その人形の群れがザワつきだし、人形の間から坊主頭の女が現れた。
「先程の大きな衝撃はあなた方でしたか」
坊主の女は目を閉じ、両手を合わせて人形の先頭に立った。
「牢人生か? お前」
「いかにも。私は3304牢のサンゾウという者です」
3304牢。今まで出会った牢人生の中でもズバ抜けた順位がつけられた牢人生の登場にゼンタ達に緊張感が走る。
「この人形、あなたが操っているの?」
アルはナイフを構え、その女に質問する。
「いかにも。私はここに来るまでは魔物使いとして、ある場所を求め旅をしていました。この子達は私の使い魔です」
「魔物使い? 使い魔? どう見ても魔物じゃなさそうなのも沢山混じってるけど」
「私のスキルにより、魔物以外の生物も支配する事ができるのです」
つまり、この人型に見える生物は元は人だった物。尚更アタナシアなどを撃って殺す事はできない。
「折角塔に侵入できたとこ申し訳ありませんが早速死んでもらうとしましょう」
サンゾウがゼンタ達を指差すと、無数の使い魔達がゼンタ達に襲いかかった。
ゼンタが襲いくる敵を殴りながら、跳ね返していく。アルも肉弾戦で応戦する。レイは退屈そうにチマチマ細かい魔法を撃って人形達を瀕死にしていく。カースは腕を黒く染め、大きくしたと思ったらまたあの人格になっていた。ああなって加減できるのかが気がかりであったが、ゼンタも目の前の敵を相手するので手一杯だ。
「いかにも勇者を志す者の思考。やはり牢人生でもない人間を殺すのは気が引けますか?」
人形の群れの奥から、それを傍観するサンゾウは高みの見物でもしてるように、戦うゼンタ達を静かに見守っている。
「怒涛」
チヨメの呟きが聞こえた時、すでにチヨメはサンゾウの背後をとっていた。
「油断大敵でごじゃる」
腰にさした刀を抜き、その刃でサンゾウの首に斬りかかる。その刀身がサンゾウを一刀両断したと思った時、それは何者かによって防がれた。するとまた別の何者かが横から現れチヨメに飛び蹴りを決めると勢いよくチヨメは吹き飛ばされた。
吹き飛ばされたチヨメは地面を滑るように体制を立て直すと、すぐさま前を向き、何がおきたのかを確認する。
目の前には、刀を塞いだ猿のような魔獣、そして頭に皿が乗ったクチバシを持つ魔獣、大きく太った魔獣の3匹がサンゾウを守るように構えていた。
「あれは! ハヌマーン!」
人形と戦いながらその様子を見ていたアルが叫んだ。
「ハヌマーン? 強いのか?」
「強いも何もA級モンスターだよ!」
それを聞き、目の前にいる敵を後回しにしてチヨメの側に行こうとする。しかし、倒しても倒してもキリがないほど湧き出る人形のせいで前に進めない。
「くそ! A級モンスターが相手じゃ流石のチヨメも1人で相手にできねえだろ!」
「いかにも。ハヌマーンは私が所有する中で最も強い魔獣。さらにこの残りの2体もそれに続く強さを持つB級モンスター。到底あなた達じゃかないません」
「くっ! 離脱」
チヨメがそう呟くと、転移とも駆け足とも違う、瞬間移動にも似たバックステップでその魔獣から距離を取る。だが、チヨメが取った距離を一瞬にして埋め、ハヌマーンの手がチヨメの頭の上に乗せられていた。
「チヨメ!」
助けに向かおうとするもやはり、人形が邪魔で先に進めない。その時大きな雷が地面に落とされた。それが床をつたい全ての人形に感電した。
「有象無象は私が蹴散しておいてやろう。お前達はあのハゲと獣をやれ」
腕の周りにバチバチとした電気を纏ったレイがそう告げるとゼンタ、アル、カースはすぐさまサンゾウ達がいる方向に走り出した。
「殺すなよ!」
「さあな、勢い余っちまうかもな」
レイはとぼけたようにそう言ったが、ゼンタはその言葉を真にうけず、まるで安心した様子でチヨメの側に向かった。
「アル、チヨメ、カース! 3匹の魔獣はお前達に任せた! 俺はこの女をやる!」
アルはチヨメの頭に乗せられたハヌマーンの腕に斬りかかると「大丈夫?!」とチヨメに声をかける。
「辱い」
アルがハヌマーンの前に立つと、ゼンタの前に立ちはだかった皿が乗った魔獣の前にチヨメが瞬く間に移動し、ゼンタの進行を補助する。カースはというと既に太った魔獣と殴り合っていた。
感電した、人形は次々と立ち上がる。
しかし、立ち上がった人形の中には、我に帰ったように辺りを見渡す人間や魔獣もいた。
そう言った人間や魔獣に共通してる事は頭の輪が破壊されているという点。
「弱点見つけたぜ」
レイが不敵に笑い次の攻撃を繰り出そうとした時だった。
「もうーー!!! いったいじゃないのー!!」
という聞いた事のない女の叫び声がそのフロアにこだました。
一同はその声の方に目をやる。そこには綺麗な茶髪の髪を三つ編みにしたワンピース姿の少女が不機嫌に立っていた。
「よくもあたしの半年間を棒に振ってくれたわね! サンゾウ! 絶対に許さないんだから!」
その女は明らかに怒った表情でサンゾウをキッと睨んだ。
ここまで読んでいただきありがとうございます。面白い、続きが読みたいと思っていただけたら何卒、ブックマーク、星5評価よろしくお願い致します。




