感謝と謝罪
「今の龍は何牢だと思う?」
「ホゲールより強いのは間違いないけど、他の牢人生と戦ってなさすぎて想像つかないや」
「受験者達と、戦った牢人生の情報交換を行い統計を取る必要があるでごじゃるな」
龍を倒した3人が話しをしながらレイが待つ岩場を登る。
「君達! 待ってくれ!」
下から3人の背中を見上げ、ジャスティンが声を上げた。
「まず、僕の仲間の命を助けてくれた事、そして身を挺して僕を庇ってくれた事、心から礼を言う」
ゼンタ達は首だけを捻り下を向けると、頭を下げるジャスティンを見下ろした。
「別にいいよ。修行も兼ねてここに来たんだ。戦ったのはお前の為だけじゃない。それに試したい技もできたしな」
ゼンタはジャスティンに興味を示すような素振りは見せず、岩壁に顔を向け直すとまた、よじ登った。
ジャスティンも慌ててその後に続くように岩壁をよじ登る。
「やはり凄い威力だったな。さすが禁忌魔法だぜ」
上で待ち構えていた、レイが珍しくゼンタの事を称賛した。ゼンタと言うよりはアタナシアの事を誉めているようにしか聞こえないが。
「もっと早く、そして戦闘中でも撃てるくらいには物にしたいところだけどな」
「私が使える最大魔法ですら、瞬時にと言うわけにはいかないんだ。贅沢を言うな」
アルとチヨメも岩山を登りきり、ゼンタの横に並ぶ。
その、目の前にジャスティンパーティーの女僧侶が立つと深々と頭を下げた。
「本当に感謝致します。あなた方がいなかったら、ジャスティン様や他のみんながどうなっていた事か」
頭を下げた女の顔は見えないが、それでも泣きながら礼を言っているのはわかった。その時ジャスティンが崖の淵から顔を出し、女僧侶の横に並んだ。
「何か礼をさせてくれ! いや、まずはあの時、君たちを笑った詫びをしないと!」
ジャスティンは本当に感謝しているようで、態度や様子でそれがあからさまにわかる。
「おい、何か渡せるものはないか?」
ジャスティンは女僧侶の方に顔を向け、ゼンタ達が必要としそうな物がないか尋ねた。
「渡せる物でしょうか……これと言って………
…お金くらいしか」
女僧侶は小さな布袋を取り出した。それをジャスティンに渡すと、そのままその布袋をゼンタに押し付ける。
「これをもらってくれ! 中の硬貨を全部合わせれば金貨1枚分にはなるはずだ!」
「いや大丈夫だ。金には困ってないからな」
「そんな事言わず! 別にいくらあっても困るものじゃないだろう?!」
それでもその袋を下げようとしないジャスティンを見て、アルはやれやれと言ったように鞄から、手のひらに乗せるにはやや大きいくらいの袋を取り出し、中身の一部を鷲掴むと、それをジャスティンに見せた。
「そ、それは……大金貨……」
「そう、この袋には金貨と大金貨しか入ってないから本当にお金には困らないの。正直荷物になるだけ」
ゼンタに押し付けた銀貨や銅貨だけでパンパンになった袋をジャスティンは少し見つめ、その袋を女僧侶に黙って返した。
アルの盗品を売って作っただけの金だ。ジャスティンが冒険者として汗水流して稼いできた、その袋の中身の方が何百倍もの価値がある。だからと言うわけではないが、それを受けとるのは貧乏だったとしても断っていただろう。
「大金貨?! ゼンタ殿とアル殿はそんなお金持ちだったのでごじゃるか?!」
チヨメもゼンタ達の所持金を聞いて驚いている。
「あんな実力を持ち……S冒険者や大精霊を引き連れ……巨万の富すら持っている……ゼンタ君……君は一体何者なんだ?……君のような子供がどうして」
とジャスティンが言った時、ゼンタはその勘違いをまだ訂正していない事を思い出した。
「いや、待ってくれ。ずっと俺を子供扱いしているが、俺は33だぞ」
ジャスティンと女僧侶がこのような表情をするのは本日2度目だ。アタナシアを目にした時のように口を開け、愕然としている。
「俺のスキルの影響でな。老けないんだよ」
「な、なるほど……ゼンタ君……いやゼンタさん。度重なる無礼をどうか許して欲しい。そして今、この命があるのもあなた方のおかげだ」
「構わない。困った時はお互い様だろ?」
2人が和解した瞬間、レイがニュッと間に入り、じとりとした目でジャスティンを睨む。
「ぼ、僕の顔に何かついているのかな? だ、大精霊様」
「いやー、こいつ感謝してるふりをしてるだけなんじゃねえの? だってよ、こんな場所で金渡されても何の役にも立たねえし。重いゴミ押し付けてるのと一緒じゃねえか」
まだ、広間で馬鹿にされた事を根に持っているのか、グチグチとジャスティンを詰めると、ジャスティンは穴の空いた岩場を指差した。
「それは誤解だ。この先に街があった。金ならそこで使える」
「街? 勇者試験会場に街なんてあるのか?」
冷静に考えればこれほど膨大な地に、街の1つも無い方がおかしな話ではあるが、こんな所で人々が日常生活をおくっているほうが信じられなかった。
「うん、何百年も前からあるらしいよ。勇者試験を受けたが諦めた者達がそこで子孫を残し、更に新たな受験者をむかい入れては段々と大きくしていった街。ドロップアウトがね」
「ドロップアウト……結構近いのか?」
「2日とかからなかったよ」
感謝の言葉も「構わない」で済まされ、金も受け取ってもらえなかったジャスティンは不安そうな表情を浮かべ、ゼンタの顔をチラリと見た。
「本当にせめてもの礼だ。案内させてくれないかい?」
「絶対に頼む!!! やったぜ!!」
ゼンタの心から喜んだ顔を見てジャスティンの頬も緩む。アルやチヨメも無邪気に喜ぶ。
チヨメがジャスティンの仲間の治療を済ませると、ゼンタパーティーとジャスティンパーティーはドロップアウトと言う街を目指した。
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