ジャスティン救出劇
「早く! 急いで!」
ゼンタは女僧侶を背負い、彼女の案内通りに走っていた。
「まさか、こんなところにA級モンスターがいるなんて誤算でした!」
女は涙を流し、ゼンタの肩を濡らす。
「あのさー別にいいんだけどさー都合良すぎるんじゃないー?」
アルはゼンタの背中にいる女にブツブツと小言を言う。
「あんだけ、馬鹿にして見下していたくせに、ピンチになると泣きついてくるなんて。そりゃ助けるけどさー先に謝罪の一つでもするもんじゃないかなー?」
「ええ、あの時は本当に申し訳ございませんでした。我々も勇者試験をやっと受けれる所まで来て浮かれていました」
女僧侶は返す言葉もないとゼンタの背中に顔を埋め、素直に謝った。
「今はそんな事言ってたってしょうがないだろ! それにあいつもピンチの時は助けてくれって皮肉言ってたしな!」
ゼンタを先頭に全速力で走り続けると、けたたましい雄叫びが聞こえた。
「何だこの声!」
地鳴りがするほどの音量。肌がビリビリと刺激を受ける。
盛り上がった岩場の前に差し掛かると女僧侶の「この先です」と言う案内を聞き、足を止める。
岩場の影から顔だけを覗かせるとそこには、ネイチャーバグにも引けを取らないほど大きな龍が翼を広げ暴れていた。
「なんだありゃ」
よく見るとその龍の足元には倒れ込む魔法使いと戦士がいた。
そこから少し離れたところに龍と相対するようにジャスティンが立っているのだが、その姿は立っていると言えるような状況ではなく、剣を杖のように地面に突き刺し、何とか意識を保っていると言う風に血を流していた。
「はあはあ……おのれ……よくも」
ジャスティンはフラフラした体の姿勢を何とか正すと右手に大きな炎を作った。
「光炎のジャスティンを舐めるなあ!!!」
大きく叫び、龍、目掛けてその炎を飛ばす。その火力は凄まじく、ゼンタ達の所まで熱気が伝わる。
それを見て龍は大きく息を吸うと、ジャスティンの炎魔法より更に大きな炎を吐いた。
龍の火はジャスティンの炎魔法を焼きつくし、更に進行を続け、両膝をつくジャスティン目掛けて飛んでいく。
「ジャスティン様!!」
岩場の影からその様子を見ていた女僧侶が思わず叫ぶ。
その時ジャスティンの目の前に人影が現れ、炎を全身で受けた。その人影が盾となり、ジャスティンは龍の炎に焼かれる事はなかった。
ジャスティンの前に立ち塞がった者は炭となり人の形をした、ただの黒い塊となった。
「お、おい! 君! 大丈夫か?!」
ジャスティンは自分を庇って丸焼きにされた人間に声をかけるが、その実、心の中では大丈夫なわけがない事は分かっていた。しかしその確信も炭となった黒い塊から「ああ」と言う声がかえって来た事で裏切られる。
そんな訳がない、あんな炎をモロに食らって生きていられる訳がない。
その炭の塊がゴシゴシと手で顔を拭いた時、やっとそこにゼンタの顔が現れた。
「レイ! アル! チヨメ! 頼むぞ!」
ゼンタがそう叫んだ時、既に3人は動いていた。アルは龍の足元の2人を既に救出し、チヨメはジャスティンの元に行き「蘇生」と呟いた後だった。
レイはと言うとゼンタが声をあげた頃には大きな炎魔法を天にかかげていた。
「でかいトカゲの丸焼きになりやがれえ!」
その炎はジャスティンが放った物はおろか、龍が吐いた物より大きかった。
その炎に抗うすべなかったのか、また火を吐き対抗するでもなく、龍はそれを全身に受けた。
「格の差をしれ!ボケェ!」
レイが叫ぶと、炎は尚も、燃え上がり龍の影を映し出す。
しかし、炎が消えると、あれほどの魔法をぶつけられたにも関わらず、龍の体には傷一つついてなかった。
「ちっ、炎耐性の鱗か。鬱陶しい。だったら水……いや雷魔法で!……」
と次なる魔法で追撃しようとした時にゼンタに「待て」と言われ、攻撃の手を止める。
「俺にやらせてくれ。あれを試したい」
「あれというと……アタナシアだな?」
「流石にホゲールに使うのは気が引けたが……ずっと試してみたいと思っていたんだ」
「フン、いいだろう。私も些か興味がある。見学させてもらうぞ」
レイはそう言うと女僧侶がいる岩場まで浮き上がりそこに腰掛けた。
「ただこの技、死ぬ覚悟を決めねえと撃てないって言う弱点があるからな……ながらで、できるような魔法じゃねえ」
いくら身につけた魔法とは言え、発動条件を全て満たしているにもかかわらず習得するのに随分時間がかかった魔法だ。すぐに打てと言われて打てる代物でもないのは仕方のない事である。
そう言って少し考えレイの方に目を向けるも、レイは完全に傍観者モードとなっており、またこちらに降りて来てくれる様子は感じられない。
「アル! チヨメ! 一瞬でいいから隙を作ってくれ!」
「オッケー! 無戦ラン!」
「御意! 疾風!」
上の岩場に負傷した2人を運び終わったアルと、ジャスティンの治療を終えたチヨメがそう返事をした、その瞬間、2人はとてつもない速さで龍の方向、目掛けて走り出した。
迫り来る2人を目にし、龍は慌てたように巨大な尻尾を振り、岩を砕くと瓦礫の雨が2人を襲う。
アルは例の如く軽やかな身のこなしでそれを全て避ける。チヨメは「駆逐」と呟くと目前に迫っていた破片が、当たる直前で全て払いのけられた。
龍はまるで人のように焦った様子を見せると、翼を羽ばたかせ始め、この場から逃げ出そうとする。
しかし、足が地面を離れるより早く、チヨメは龍の足に触れ「不動」と呟くと、龍は羽をバタバタさせるだけで一向に上空へは上がらなくなった。
その間に大きく飛び上がっていた、アルは飛び散る大きな岩の破片を一つ抱えると「圧投擲」とその岩を下に投げた。龍に向かって投げられた、その岩は、空中に飛び散る岩をいくつかすり抜け、そのまま龍の背中に直撃した。
龍は体を地面に叩きつけるも、すぐさま立ちあがろうと再度、翼を羽ばたかせる。
チヨメのスキルの効果も消え、足が地面から離れ、ブワッと浮いた時だった。
「死ぬ覚悟ができたぜ」
ゼンタは既に龍の正面を陣取っていた。
「あの龍! 逃げるつもりか?! おい! 僕も何かできないか?!」
チヨメに治療され、体が少しだけ楽になったジャスティンがハアハアと息を上げ、ゼンタの肩に手を置く。
「ちょっ! 頼むから邪魔すんな!」
広間で嘲笑った少年に、こんなことを言われるとは予想だにもしていなかったジャスティンは腹を立て、たった今、命を助けてもらった事も忘れゼンタを怒鳴ろうとした時だった。
「アタナシア!!!」
とんでもなく巨大な光線が、ゼンタの口から放出される。耳がしばらく聞こえなくなるほどの爆音を上げ、目を開けていられる事もできないほど辺り一面が真っ白になる。勿論、これほどの威力の技を目にしたのは長年冒険者をしてきたジャスティンでさえ初めてだった。
やっと目が開けられるようになり、目の前を見ると、龍は骨の一つも残さず跡形もなく消えていた。その代わりに龍がいた後ろの岩山には大きな穴が空き、随分、風通しが良くなっていた。
「な……なんだ……今のは……」
口からモクモクと煙を出すゼンタを見て、ジャスティンは腰を抜かした。
「あれが禁忌魔法……」
「ゼンタ殿……貴殿は……一体」
アルとチヨメも今まで見た事もない、その衝撃的な攻撃の威力に絶句する。
龍を倒した後だというのに、誰も喜びの声をあげる事はなく、驚きのあまり誰もが言葉を失う。
静寂に包まれた中、最初に声を出したのはゼンタだった。
「岩山貫通したって事は、この岩山地帯はここまでって事かな?」
ゼンタ達を笑ったあの時の自分の愚かさを悔い、自分が勇者になるのは、まだまだ先になるだろうとジャスティンは落胆した。




