砂漠を超えて
仲間が1人増え、4人旅となったゼンタパーティー。一行はここに来て歩く以外の行動をほとんど言っていいほど行っていない。
「ところで、チヨメはどうして俺たちが強いと思ってるんだ?」
「それはレイ殿とアル殿が自ら言っていたではごじゃらんか! あの広間でのやりとりを拙者も聞いていたのでごじゃる!」
ジャスティンに話しかけられた時のことだろう。ジャスティンがあまりにも舐めた態度を取ってきたもんだから2人ともムキになっていたのを覚えている。
「ちょっと…やめてよ。恥ずかしいからさ」
アルが顔を少し赤らめる。あの時は無我夢中であったが、できる事なら思い出したくないのだろう。
「魔術の大精霊に、S級冒険者! こんな称号を持つ者達が弱い訳はないと注目してたでごじゃる! 更にその2人を従えるゼンタ殿! そして先程の牢人生との勝負を見て確信に変わったと言う訳でごじゃる!」
ジャスティン達にあこまで馬鹿にされた分、仲間の強さをここまで絶賛された事は素直に嬉しかった。
ゼンタの強さにも期待していると、チヨメに言われたが2人に比べると遥かに弱い事を打ち明ける事はできなかった。
雑談に花を咲かせているとアルが立ち止まり遠くを眺めた。
「風が強くなった……」
そう言われゼンタもそれを確かめようとするが、別段さっきより風が強いようには思えなかった。
「やっと砂漠を抜けれるかも! さあ! 急ごう!」
アルは走り出し、それに続くように3人の足取りも早くなる。しばらく走るとアルが言う通り、砂漠の向こうに沢山の岩山が目に入った。ここ数日、目の前に広がるのは砂漠のみだったので、違う景色が見えた事にゼンタ達は喜んだ。
草木が一才生えていない枯れた岩山が目前にそびえ立つ。足場になりそうな場所はまるでない。これを超えるのは、また一苦労しそうだなと岩山の前で気持ちを整え、壁のようにそり立つ岩に手を引っ掛けた時にアルが口を開いた。
「うちに任せておいて」
アルはそういながら腰にかけてあった、自分の鞄を開けると中から何とも可愛いらしい熊の人形を取り出した。
「何だそれ……おままごとなんてやってる暇ないぞ」
「もうー、意外にかわいいところもあるんだなとか言ってくれてもいいじゃん」
そう不貞腐れながら人形の背中に縄をくくりつけると、それを大きく上に投げた。
人形は高く飛んだが、到底山の上に辿り着くほどの位置には達していない。しかし、その宙に投げられた人形は崖にしがみつくと、ひとりでによじ登り始めた。
「おお! 人形が勝手に動いてるぞ!」
「あれはうちのお気に入りの人形、グリちゃん。動いてる理由は当然うちのスキルだよ」
片目を瞑りウィンクをすると、ペロリと舌を出しピースサインをした。
「あれはうちのママのスキル『操作傀』。自分が愛用している物に限り、それを自分の手足のように自由自在に操れるスキルなんだ」
「あのさ、やっぱりスキルを何個も持ってるってズルすぎないか?」
その言葉を聞き、チヨメが大きな声を出し驚く。
「ア! アル殿! ま、まさかアル殿は奥義をいくつも持っておられると言うのでごじゃるか?!」
「まあね。こまごましたスキルが多いけど一応7つ持ってるよ」
「ひ、ひい! 1人で7つも奥義を持っておられるのでごじゃるか?! やはり拙者はとんでもない方々の旅路に同行しているのでごじゃるな!」
しばらくそんな話をしていると上から縄が垂らされる。アルはそれをグッグッと下に引っ張り強度を確かめた。
「よし、上にしっかりくくりつけたから、これで登りやすくなったと思うよ」
アルが縄を両手で握り、崖に足の裏をつけ登り始めようとした時だった。
「待たれよ! 拙者も何かしなければ、申し訳なくて同行するのが忍びないでごじゃる!」
そういうとチヨメは両手の指を2本ずつ立てると右手を自分の顔の前に、左手の指の先を崖につける。
「瓦解」
チヨメがそう呟いた瞬間、崖の至る所がボコボコと砕け、表面に小さい穴が空いていく。
「足場に使われよ」
アルのロープに、チヨメの足場。これならこの大きな壁も楽に登り切れるだろう。
「いつまでやってんだよバカタレ共。今の間に私なら2往復はしてるぞ」
空中で、あぐらをかいたレイが退屈そうにあくびをした。
「俺達はお前みたいに魔法は使えないんだからよ。勘弁しろよな」
ロープを握り、ゼンタはアルの後に続き岩山を登る。一歩一歩と崖を登る3人の横をスイーっと浮き上がるレイが目障りで仕方なかったが、何とか上まで登りきる事ができた。
久しぶりに平な地面に足をつけ、目の前に広がる砂漠を見下ろしていると後ろから絶叫にも似た女の叫び声が聞こえ振り向く。
「あなた達は! 会場にいた!」
服はボロボロで、ところどころに血飛沫がかかった女僧侶がゼンタ達を見つけ走り寄って来る。
この女には見覚えがあった。この黒いウィンプル。ジャスティンのパーティーにいた女僧侶だ。
「お願いします! 助けて下さい! このままじゃジャスティン様が!」
女はボロボロと涙を流し叫んだ。裸足の足は血まみれで、その足跡は女が走ってきた方向にずっと伸びていた。




