バットゲットカンパニー
「そうまでして俺達の仲間になりたい理由でもあるのか?」
「ある! さっきも言ったでごじゃるが、強き者の力が必要なのでごじゃる!」
顔を上げ、ゼンタをじっと見つめる眼差しはとてもまっすぐで、その勢いにゼンタも押されそうになる。
「じゃあその理由を聞かせてくれよ」
「少し長くなるでごじゃるがよろしいか?」
3人はチヨメの話を聞くため砂の地面に腰を下ろした。
「拙者の故郷、ヒイズルの里はABCエリアにあるのでごじゃるが……」
冒頭からとんでもない事を明かされゼンタは驚き、話を一度止めざるを得なかった。
「おい、ちょっと待ってくれ。お前ABCエリアで産まれ育ったというのか?!」
「まさにその通り、拙者はABCエリアに産まれ、3年ほど前までそこで暮らしていたでごじゃるよ」
「いや、あんなところ人間が住めるような環境じゃないだろ?!」
「うむ、確かに劣悪極まりない環境ではあったし、居座る魔獣も並みの物ではなかったでごじゃるが、おかげで拙者の里の者共は、それは恐ろしく強い実力を持っていたでごじゃる。勇者試験をここまで進めた拙者と同じか、それ以上の実力を持つ人間しか里にはいなかったでごじゃるよ」
確かに、あんな場所で生活していれば嫌でも強くなる。試験会場に到達した事や、試しの扉を突破する事にも頷ける。
「そんな強い人間が周りに沢山いるなら、別に強い仲間なんていらなくなーい?」
アルも本題に入る前に、ふとした疑問をぶつける。
「もういないのでごじゃる…………拙者の里の人間は皆殺しにあったのでごじゃる」
「なに?! ABCエリアを根城にしているような奴らが全員殺されたって? 災害か? それともA級やB級のモンスターの群れにでも遭遇したかのか?」
「いや………」
チヨメは何かを思い出したように口をつぐむ。
「ゼンタ殿はバットゲットカンパニーという組織を知っておられるか?」
「この世間知らずは何も知らねえからやめとけ。聞くだけ無駄だぜ」
レイのその言葉に不服を感じるが、確かにバットゲットカンパニーなんて組織の事は何一つ知らないので反論のしようがない。
「わかりやすく言えば、悪徳企業だよ。闇ギルドの運営や非合法なアイテムや魔法の研究、物販。暗殺や人身売買なんかを生業にしている世界1の財を持つ大企業。ムカつくけど、そう言った事を武力のみで可能にする組織だから、国の騎士団や冒険者達も手を出せないでいるんだ」
アルはゼンタだけが話についてこれない状況にならぬよう、簡単にバットゲットカンパニーの詳細を語る。
「勇者は? そんな奴ら勇者が放っておかないだろう?」
「最近、勇者が幹部を1人倒したとか、そんな噂は聞いたけど、一部の人間の間ではバットゲットカンパニーのボスは勇者と肩を並べるくらい強いんじゃないかって話らしいよ」
「そうなのでごじゃる。拙者の里はバットゲットカンパニーの手によって滅ぼされたのでごじゃる」
勇者と肩を並べると言うのはどうにも信じがたいが、ABCエリアで生活してきた驚くべき強さを持つ戦闘集団を、皆殺しにできる武力を持つ組織を、何故自分はこれまで知らなかったのかと胸を痛めた。
「まあ、勇者と互角と噂されるボスやそれほど大きな組織に襲撃されちゃ……太刀打ちできないかもな」
「違うでごじゃる。拙者の里はバットゲットカンパニー幹部。G局局長ガムシロップ・スタンガンたった1人の手で滅亡したのでごじゃる!」
その惨劇を思い出したかのように、涙を流しチヨメがそう叫ぶと、地面を殴った。
「父上も母上も、同胞も里の長も皆無惨に殺された! ABCエリアの荒地を舗装し、水を引き、何百、何千年と言う時をかけ築き上げた里を! 奴は地上げなどと言って横取りしにきたのじゃ! 拙者は何もできず、逃げる事しかできなかった!」
その話を聞き同情した表情を見せると、チヨメが強い仲間が欲しいという意味を理解した。
「俺達がお前の復讐を果たす手助けができるかわからねえが、困った人間を助けるのが勇者だ」
ゼンタはチヨメに手を差し出した。
「初めて合うお前の事はよく知らない。でもそんな悪がのさばり、故郷を滅ぼされた女が泣いてる。その敵討ちに手をかさないような奴は勇者になる資格なんてねえ!」
「ゼンタ殿……」
頬を伝う涙が干からびた砂の上にポタポタと落ちる。
チヨメは袖で涙を拭うとゼンタの手を両手で強く握った。
「まあ、今のお前じゃ到底勝てる相手じゃねえぞ」
レイが冷めたように口を挟む。本当にこんな奴が大精霊とは、世も末である。
「組織のボスは言うまでもないが、それを固める6人の幹部も、他を寄せ付けない強さがある。いや、勇者がアリエル・リリアンとかいう幹部を倒したから今は5人か。こいつらと相対したらお前なんか小指1本で殺されるぞ」
「死なねえけどな」
ゼンタにまた一つ目標ができた。
しかし、それもこの試験に合格し、ゼンタが勇者にならなければ実現されない。
勇者になって悪を討つ。まさにゼンタはその為にこの地、足を運んだのだ。




