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勇者試験の受験者達



 ゼンタ達と逸れてどれほどの時間が経ったかわからない。入って来た扉の近くの壁に、もたれかかり、アルは久しぶりの睡眠を取っていた。


 アルが扉を通過して驚いた事、それは扉の先の異様な空間。先程までの薄暗い通路とは一変して、そこには広く煌びやかな空間が広がっていた。


 宮殿の様な内装。先程までの血の池とは似ても似つかない、深紅の絨毯が一面に敷かれてるいる。玉座でも置けば、王室と言えるほど豪華な作りだ。


 しかし、至る所にある無数の扉のせいか、まるで異空間にでもいるような不思議な雰囲気すら感じさせる。


 それに加え、その空間には何と大量の人間や獣人、魔人までもがいたのだ。

 面構えや出立ちから相当な手練れ達である事は肌で感じられた。


 恐らくアル同様、ここまでの数々の試練を超え、たどり着いた強者達で間違いない。


 ホゲールや、罪人のような見てくれの人間はいない事から、ここにいる生物は全て、勇者志望者かその仲間。

 無数にある扉を見ると、自分達とは違うルートでここにたどり着いたのだろう。


 アルは眠っているからと言って、意識を失なったりはしないが、それであっても、見知らぬ土地で無防備に居眠りをしたりはしない。しかしそれができるのも、彼らが勇者志望であると言う安心感からである。



 目を開け、周りを確認するも対して眠る前と何かが変わった様子はない。久しぶりの睡眠にアルは満足感を覚えるとゼンタ達が後、どれほどかかるのかを想像した。


「今のゼンタができる攻撃なんて限られてるからなあ……殴る蹴るは試してるだろうし、それでも開かないなら、新技の習得をしてるのかもしれないなあ」


 アルは両手を頭の後ろで組むと、足を伸ばして考えに耽る。


「となると、魔法も使えない、攻撃スキルも持ってないゼンタができる事って言ったら、物理攻撃だけだからなあ……魔法しか使えないレイちゃんじゃ物理攻撃を向上させるような組手の類もできないし、モンスターもいないあんな場所じゃ大した修行もできないだろうから……筋トレくらいしかする事ないんじゃないかなあ………だとすると、まだまだかかりそうだなあ」


 壁にもたれかかり天井を眺めていると、アルの隣にある扉が開いた。

 アルは人の影を横目で捉えると、顔を向け入って来た人物の顔を確認した。


「待たせたな。アル」


 横に立っていたのはゼンタであった。まだまだ時間がかかると思っていただけに2日とかからず再開できた事に、アルは喜びよりも驚きの表情を見せる。


「え! ゼンタ! どうやって入って来たの? 凄い武器でも落ちてた?」


 アルのその言いぶりにゼンタは機嫌の悪い表情を見せると、またしてもその扉が開いた。


「ひとえに私のおかげだ。とっておきの必殺技を開花させてやったぜ」


 レイは「ふふん」と誇らしげな表情で扉をくぐると、何食わぬ顔でゼンタとアルの輪に入っていった。


「なんだここ……あの通路と繋がってるとは思えねえな」


 ゼンタはその王室のような部屋を見渡し、そこら中にいる人間や獣人達を見て、胸を高鳴らした。


「うちらが来たルート以外にも、ここに来れる場所は沢山あるみたいだね。ゼンタ達を待ってる間も、3人くらい色んな扉から出て来たよ」


「魔人なんかもいるみたいだな。こいつら全員勇者を目指しているのか」


 ここまで辿り着いた周りの猛者達をキョロキョロと眺めていると、近くの2人組の男の話し声が聞こえてきた。


「おい、見ろよ。ジャスティンのパーティーがいるぜ」


 男達の目線の先には4人組の冒険者がいた。恐らくパーティーのリーダーであろう男は、品行方正と顔に書いてあるかのような善人らしい身なりと表情でパーティーメンバーと話している。


 その他にも、随分と高そうな杖を持つ魔法使いの女に、丸太のように太い腕を持つ男戦士、最高位である上長しか身につける事が許されない漆黒のウィンプルを被った僧侶が4人で雑談をしている。


 近くにいた男達につられて、そのパーティーを見ていると、雑談中のリーダーがこちらに気づき近づいて来た。


「やあ、僕たちが気になったかな? それにしても将来有望だ。君達みたいな子供がここまで辿り着くなんて凄いじゃないか」


 爽やかに挨拶して来た、そのパーティーリーダーの笑顔があまりにも眩しく、ゼンタは実年齢を言う事も忘れ、口籠もってしまった。


「緊張しているのかな? まあ無理もないよね。子供だけでこんな所に来たんだ、不安にもなるよ……ところで、その浮いてる子を見たところ君は精霊使いかな?」


「いや…………俺は……特に役職はないけど」


 ゼンタのその言葉を聞き、後ろについて来ていた自分のパーティーメンバーの面々と顔を合わせると、彼らは盛大に吹き出した。


「ははははは! いやあ、失礼。あまりにもおかしな事を君が言う物だから。ギルドで冒険者登録した時に職業を選択しただろ? それを聞いているんだよ」


「冒険者ギルドに行った事がないというか……」


「ああ、じゃあどこかの国の騎士団にでも所属していたのかな? その割には剣も盾も持っていないようだけど」


「騎士団に所属した事はない」


「君…大人をからかっているのかい? 精霊を連れているのに精霊使いでもない、冒険者でも騎士団に所属しているわけでもない。そんな人間がここまでこれるわけないだろ」


 ずっと爽やかな表情で、はにかんでいた顔から少し、苛ついた雰囲気がこぼれる。


「本当に私はこいつに、ついて来てるだけで、別にこいつに使われてる精霊って訳じゃねえぞ。そもそもてめえ誰だよ。自分の自己紹介してからこっちの詮索してこいよ。まぬけ」


 レイがその男よりも更にイライラした表情を見せ、自己紹介を促すと男は右手をこちらに差し出した。


「随分、口の悪い精霊さんだ。でも確かに自己紹介が遅れたね。僕はA級冒険者のジャスティン。光炎のジャスティンと言えば少しは知れた名なんだけどね。まだまだ子供達の耳には届いていなかったかな?」


 ニコリと笑い握手を要求して来たジャスティンの手を、ゼンタが握ろうとした時、横からビュンと伸びて来た手が、ゼンタの代わりにジャスティンの手を握った。


「うちはアルセーヌ・ヘルメス。大怪盗の異名を持つS級冒険者だよ」


 その自己紹介と共にジャスティンの手を握ったアルまでもが、何故か機嫌の悪そうな口ぶりで挨拶を済ませた。


「アルセーヌ? あのS級盗賊の?」


「そうだけど? 何か文句でもある? A級冒険者さん」


 苛つきをぶつけるようにアルが挑発する。


「君達ね、さっきから嘘ばかりついて。それで大人が怯むとでも思っているのかい? 将来有望と言ったのは取り消すよ」


「何も知らないくせに、なんで嘘なんて決めつけるのさ」


「アルセーヌは今、スワンプリズンに幽閉中だ。どんな手を使ってあの扉を開いたのかは知らないけれど、はったりだけで勇者になる事はできないよ」


「ちゃんと実力で扉を開けたんだけど」


「人間が使役できる精霊ごときの力であの扉が開くわけないだろ?」


「だから! 私はこいつに使役されてる訳じゃねえって! 私はディビンヌスリーの1人! 魔術の大精霊だぞ!」


 レイがそう叫んだ時、ゼンタ達の周りにいる人間全員が黙りこみ、ほんの一瞬の静寂に包まれると、打って変わってその静寂は大きな笑い声に変わった。


「ははははは! もうよしてくれ! こんなに笑ったのは産まれて初めてだよ! ははは! なんでディビンヌスリーの大精霊様が人間なんかといるって言うんだよ! そこまで行くともう君達のことが好きになってきたかもしれない!」


 ジャスティンは腹に手を当て、爽やかな表情を作る事など忘れるほど笑った。彼のパーティーメンバー達も同じように笑っている。そもそもゼンタの周りにいる人間は全て腹を抱えていた。


「ゼンタこいつら全員殺していいか?」


「いいわけねえだろ……今から勇者試験受ける奴が勇者志望者殺すってどんな愉快犯だよ」


「はあー……笑わせてもらった……君達の事は応援しているよ。大怪盗アルセーヌと魔術の大精霊と…………君は?」


「ゼンタだ」


「じゃあねゼンタ君。僕達がピンチの時に遭遇でもしたら、その大いなる力で是非助けてくれよ」


 ジャスティン一行はまた小馬鹿にしたような笑い声で別れを告げると、その場から立ち去った。しかし、先程の話を聞いていた周りの参加者達のクスクスという、せせら笑いが止まる事はなく居心地の悪さを感じていた。


 その時、何もなかった広い空間の中心が突如としてねじ曲がり、瞬きをする間もなく人型の影が現れた。


「ここまでよくぞ辿り着いた!」


 その男は上半身に衣服を身につけていないものの、頭にズボンを被るという何とも奇妙な身なりをしていたが、その見た目からは想像を絶するほど迫力のこもった大きな声を上げた。



「それでは勇者試験を始める!!」



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