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主催者の正体


「あの野郎、どこから現れたんだ?」


 レイがそういうと、アルは当たりをキョロキョロと見渡した。


「見えないほどの速度で移動して来たって感じじゃないね。地面に跡もないし、周りの空気の動きもまるで変わってない」


 2人のやりとりに、ゼンタは何か意見する事はできない。まるで自分には理解できないと言うのもあったが、どうやって来たかなど、ゼンタとってはどうでも良い事だと思っていたのが本音である。しかし、次のレイの言葉には思わずゼンタも首を突っ込まずにはいられなかった。


「それに奇妙だな……勇者試験……勇者を誕生させる為の試験だろこれは……あの主催者側の案内人……魔人だぞ」



 勇者の大きな目的は世界平和を目指す事。それには様々な偉業を成し遂げなければいけない。その中にはもちろん、魔王討伐も含まれる。魔界の王。つまり魔人達の、主である魔王を殺す存在を作り出す事に、魔人が加担している事はどうにも引っかかった。


「自分達の王とは言え、その王に恨みを持つ魔人がいたとしても不思議じゃない。勇者試験を受けてる魔人達は少なからず、魔王に反旗を翻す為に参加している者もいるだろう。ただ主催者側は別だ。いくらそいつが魔王に恨みを持っていたとしても、主催者側がスパイや工作員の可能性がある魔人を向かい入れる訳がねえ」


 レイの考察にゼンタは納得する。だとすると何故、今、目の前の魔人が試験を開始しようとしているのか、その目的の予想が全くつかなかった。


 それはゼンタ達以外の人間も考えているようで、何人かの人間は突如現れた魔人に疑いや不安の目を向けている。


「お前達は強者だという事は認めよう! お前達が扉に放った技は全て、この試験の主催者様が受け、合否を決めた! つまりここにいる者達は主催者様が認めた者達! 歓迎しよう!」


 扉に放った技を全て受けた。扉に放ったはずの技がどう言った原理で主催者の元に届いたのか、それはこの際、もうどうでもいい。しかし、アタナシアやレイの魔法を含む、ここにいる全ての人間の最大の技を1人が受け切ったというのはどうにも信じ難い。そんな事ができる存在がいるなら、勇者試験など開かずそいつが魔王を討伐しに行けば良い話だ。


 その疑問を参加者達が口にするより早く、そのおかしな格好をした魔人は、広い空間に響き渡るほど大きな声を出しながら地面に手をついた。


「つまり! それほどの強さを持つお前達ならば! これしきの事は耐えてくれると確信している!」


 そう言って魔人は、地面についた手に力を込めたような素振りを見せると「転移」と叫んだ。


 自分の視界がねじ曲がっていく、目がイカれたのかと思ったが、空間そのものが歪にうねっているのを全身で感じる。グラグラと揺れる床。ブツブツと途切れる視界。割れそうなほどの激痛が頭に走り、内臓が破裂しそうな重みを感じる。


 この感覚は……アタナシアを撃った時と同じ感覚。わかる。俺は今、死を感じている。レイやアルは………


 無理矢理首をねじり、顔を2人に向けると、あの2人ですら両手で頭をかかえ、苦悶の表情を浮かべていた。


 それを見て「どうにかしないと」とゼンタが思った時には、目前は暗闇に包まれていた。



◇



 幽霊達が舞踏会でも始め出すような薄暗く不気味な広間の玉座にワイングラス片手に喜ぶ男がいた。その向かいに2人の魔人が片膝をつき、こうべを垂れている。


「第一試験会場への転移、完了致しました」


 その内の1人の魔人が頭を上げる事なく、報告する。頭に被ったズボンも、その魔人の姿勢と同じく地面を目指すように垂れている。


「いい! 素晴らしいよ! 今期は豊作だよ! 凄い使い手が3人もいたんだ! 攻撃を喰らってあんな大ダメージを受けたのはいつぶりだろう! ありがとう! ゼロアシ!」


 見た目こそ青年と呼べる出立ちであるが、癖っ毛とそばかす混じりの見た目も手伝って、まるで子供が喜んでいるようにも見える。その姿に反して、頭の左右から生えた大きな角には禍々しくも気高い貫禄を感じざるを得ない。


「勿体なきお言葉。恐悦至極でございます」


 その2人のやりとりを見ていた、もう1人の魔人が下を向いたまま頬を膨らませる。

 シャツを無理矢理1枚の服として着ている彼女の服装も、ゼロアシと呼ばれた男の魔人同様、奇怪で、左の袖はきちんと左手に通しているものの、右の袖は脚に通しているので、ワンピースとは呼べないほど非対称的な見た目になっている。そんな着こなしをしているためシャツのボタンは4つほど開けられており、服の右側が大きく下に引っ張られ、右のたわわな胸を隠す布が丸見えとなっている。


「そんな顔しちゃダメじゃないか。ライトニング。君の活躍にも期待しているよ」


「はい! ありがとうございます! 頑張ります!」


 元気よく返事をした後、彼女の頬が膨らむ事はなかった。


「今から言う3人にも、あれを送るよう言っておいてくれるかい?」


「かしこまりました! 魔王様!」


 魔王と呼ばれた男はワクワクした気持ちを押し殺せないと言ったようにニヤけた。


「さあ、この中に僕を殺してくれる子達はいるのかな?」



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