華鈴の過去
聖六道華鈴。人間だった頃は、安藤華鈴。
彼女もまた、黒瑠と一緒に虐待を受けていた。
少しでも音を立てたら髪を引っ張られ、蹴られて、殴られる。ご飯なんか酷かった。いつもカビたパンが乱暴に部屋に置かれていた。
…ただ、その繰り返し。いつも、いつも。
けれど、いつも黒瑠が慰めてくれた。乱暴に引っ張られた髪を優しく撫でる感覚は、今でも思い出せる。
「大丈夫、大丈夫」
すすり泣く声に紛れて優しい言葉が流れる。
暖かかった。
何処から取り入れてきたのか、黒瑠は毎日面白い話をしてくれた。
それが楽しくて、辛くても、毎日生きてけた。
けれど、それも終わってしまった。
親の暴力がヒートアップした。身体を持ち上げては思いっきり地面に叩きつけ、首を死ぬ寸前まで締めた。
もう限界に近かった。両親は特に黒瑠に暴力を振るった。黒瑠が許しを乞うても親はやめない。
華鈴は何もしてやれなかった。だから、せめて…。
そして、次の日。華鈴は親を殺した。
何回も刺した。何回も抉った。何回も裂いた。何回も切った。
親は許しを乞うた。けれど親を殺すその手は止まらない。
死んだ後も血がぶくぶくと溢れ出て気味が悪い。
クズ人間には丁度良い死に方だ。
華鈴は笑みを浮かべた。口が三日月のようになって。
「華鈴…?」
黒瑠が起きてきた。華鈴は勢いよく振り返る。
「おね…ちゃ…?」
黒瑠が怖がっている。恐らく、華鈴を見て。
やめて。怖がらないで。その目で私を見ないで。
「あ、ア…!」
声が上手く出ない。なんて言えばいい? こんな血塗れの状態で、なんて言えば…。
「華鈴?」
華鈴は首を縦に振る。
そうだよ。華鈴だよ。いつもみたいに抱きしめて。いつもみたいに…慰めて。
黒瑠は一度は引き下がったものの、再び華鈴に近づく。
「おねぇ…ちゃ…!」
「おいで、華鈴」
涙が出てくる。血塗れで、一見バケモノの私でも受け入れてくれた。
「でも、これからどうしよう…私達は料理はできない…」
「…ごめん」
「…大丈夫。きっとなんとかな…。…!?」
黒瑠は華鈴の後ろを見て驚愕する。
華鈴はつられて後ろを恐る恐る振り向く。
黒の着物に身を包ませた女性がいた。
華鈴は驚きつい持ってた果物ナイフを突き付ける。すると女性は驚くどころか笑始めた。
「ハハハ、可愛らしい騎士さんだ」
「誰…? 何しにきたの…?」
「お前らを助けに来た…とでも言っておこう。これからどう生きていくのか…悩んでたろう」
「?」
「なら、どんな状況でも生きてける身体にしてやろう」
「!? ど、どうやって?」
「それは企業秘密だ…。ところで、答えを聞こう。生きたいか?」
そう聞かれると二人は顔を見合わせる。
そして、頷いた。
「ほう…。だが、人間ではいられなくなるぞ。それでもいいのか?」
黒瑠が言う。
「この子と一緒に行けるならどうなっても構いません」
「成る程! それがお前の考えか! 名をなんと言う?」
「あ、安藤黒瑠です」
「黒瑠。それに、華鈴…と言ったな。お前らは安藤を捨て聖六道と名乗れ。よいな?」
「「はい」」
二人同時に答えた。
すると女性は懐から丸薬を二つ取り出す。
いや、丸薬ではなくガラス玉だ。
一個には羽が、一個には何やら宝石を象った石が入っている。
「黒瑠はその宝石がある方を、華鈴はその羽がある方を飲み込め。そうすれば、朽ちぬ身体が手に入ろう…」
二人は躊躇うことなくそのガラス玉を飲み込んだ。




