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overcast  作者: 街幸カルト
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第二の華

子桜はすでにレーニャを連れて金箔城に戻っていた。

鶯の間に戻ると、リンノと蘇鍾がいた。

「あら、どうしているの?」

「子桜様…。彼女は……」

「そう、いいわ」

子桜は察したのか、自分の席に座る。

リンノはレーニャの姿を見つけて絶句した。

「あ……」

「ッ……」

「なんで……」

「……」

レーニャは何も言えなかった。まさか、自分の欲しい物のためにこんなことをするなんて。

「そういえば」

子桜が口を開く。

「もう、食べ終わったのね」

「あ…」

「ものすごい食い意地だこと。貴方にはもっと食べてもらわないと」

「?」

「レーニャ」

子桜は話し相手をレーニャに切り替える。

「貴方は燕子花の間よ。ユヅメ、案内なさい」

「はい」

レーニャはユヅメという化け狸に連れられ、燕子花の間へ向かった。

「リンノ」

「…?」

「アナタ、私につく気はない?」

「え、でも黒瑠が」

「いいえ、あの子はね、貴方を騙そうとしてるの」

「え?」

「本当よ。嘘じゃない」

「そんな……」

…もちろん、そんなのは嘘だ。黒瑠は本気でリンノに信じてほしかった。騙すつもりなどこれっぽっちもなかった。

やっぱり、頭の中は6歳のお子様ね。バレバレの嘘で騙されるだなんて。

「私につきなさい。ここはアヤカシが住まうの。貴方もアヤカシ。ここは貴方にとってはかなりいい場所よ」

「……」

「それに、この城には強いアヤカシがたくさんいるわ。アヤカシに教われば、強くなるかもね」

「……! 人間を殺せる…力を?」

「フフッ、人間なんて屁でもないかもね」

「……」

リンノは静かにうなずいた。

「それは、私につく、という解釈でいいかしら?」

「…」

こくり、とうなずく。

子桜はこれまでにない喜びに包まれた。

…ついに、ついに『白の化け狐』が私の手中に…。



「行くわよ」

黒瑠のその声と共に皆々がやっとかと言わんばかりに立ち上がる。

「賀助、案内をお願い」

「はい!」

門が開き、真っ先に賀助が前に出る。

まさか僕が先陣をきるなんて。緊張感とプレッシャーが足を重くする。けれど、僕は彼女を助けたい。合って何日も経たないし、関わったこともない。でも助けたい。助けなくちゃいけない気がするんだ。僕がこの手で。

助けたい一心で走り続ける。いつの間にかプレッシャーの重りは身体から離れていた。疲れなど一切感じない。後ろの皆の足音すら耳に入ってこない。とにかく、道を間違えずに慎重に、かつ素早く蓮の国に行かなくてはいけない。

「ッ……」

黒瑠は賀助の変化に気づき始めていた。リンノを見てから、彼は、何かが変わった。その何かはよくわからない。が、彼のこの先を一変させるものということだけはわかる。

「!!!」

賀助が止まった。皆は慌てて止まる。

「どうした賀助!」

ディアスラーが怒鳴る。

「ま、前……」

「前…、…!?」

そこには雪女がいた。蓮の国のマークの腰巻をかけている。

「やはり来ていたのね聖六道。子桜様の言った通りだわ」

「貴方は?」

黒瑠が問いかける。

「村雨純歌。貴方達にはこれ以上は行かせない」

「そんな…、これでは、リンノ様を救えない…」

「いえ、ここは私だけで十分よ」

黒瑠が名乗り出る。純歌はもちろん、他の皆も驚いた。聖六道の筆頭が、村雨の下っ端に自ら戦いを買うだなんて。

「筆頭がこんなところで離脱していいのかしら?」

「ええ。この子たちにはなるべく早く先に行ってもらいたいし、貴方が相手ならすぐに終わると思って」

「私もなめられたものね。ま、いいわ。この先にはまだいるから」

黒瑠と純歌がにらみ合い、賀助達は先を急いだ。

「貴方とは一度戦ってみたかったのよ黒瑠」

「あらそう。せいぜい楽しめるといいわね」


・・・


「ッ……」

黒瑠様。大丈夫だろうか。あの方は『寒い』のは苦手なのに…。

でも彼女は僕達に猶予を与えた。絶対にリンノ様を助け出して見せる!



「リンノ。少しこっちへいらっしゃい」

暗闇に包まれた鶯の間。そこにはリンノと子桜しかいない。にわかに部屋を照らす紫色の灯篭の灯が妖しさを際立てる。

「…」

リンノはただ黙って子桜の誘惑につられ言われるがままに行動する。

「ええ、いい子ね。今から貴方に術をかけるわ」

「術……」

「そう、術。貴方も欲しいでしょう…? 力」

「はい……」

「少し頭が痛くなるけれど我慢して。今からかけるわよ」

子桜はリンノの額に手を当てる。子桜の二の腕から赤の魔力が出てきて、リンノの身体の中に入っていく。

「ゔ……!?」

リンノが低い声を上げる。

「ゔ…ゔあ゛あああああああああああああああああああああああ!」

額に触れている腕を掴み、暴れまわる。子桜は必死に抵抗する。

「暴れ…ないで……」

「ヴヴ、ゔ……、ゔゔゔゔゔ…………!」

唯一自由の足をバタバタさせてのたうち回る。けれど子桜は額から手を放さなかった。だがそれも仕方がないこと。

この術は自分の魔力を標的に注入させることによって自分の言うことをすべて実行する使い勝手のいい傀儡にする術。これだけならまだかわいいほうだ。

問題なのは、魔力の注入。この術だけは、注入の際魔力が『実体化』する。その上魔力の性質は変わらないので、身体の隙間という隙間から入ろうとする。そのため目から、口から、どこからでも入ろうとする。実体化しているので力ずくで隙間から入る。人間で例えるならば、蛆虫や芋虫が目から、鼻の穴から、口の中。そして耳の穴から身体内に侵入しているような痛みだ。

魔力は腕を伝ってリンノの額に触れているので、真っ先に見つかる『隙間』は目。今彼女は『目から蛆虫が入ってくる』痛みをうけている。

「のたうち回るのも……わかるわ…っね……!」

時間が経つほどリンノの動きは激しくなる。爪が腕に食い込んで血が流れてきた。けれど子桜はやめない。

「ゔ、ゔゔぁ……」

足の爪が畳を傷つける。畳に刻まれた傷がリンノの苦しみを表している。けれど子桜はやめない。

「ゔぎ、ゔ…ぉ……あぁ……」

頭以外の身体を駆使して子桜から離れようとする。……だが子桜はやめない。表情をまったく変えずに。子桜は笑っていた。目の前でリンノが死ぬより苦しい痛みを受けているにもかかわらず彼女は余裕の笑みを浮かべていた。リンノはその様子を見て諦めたのか動きを止めた。

「ふぅ…完了」

「………」

「いつまで寝てるの? 早く起きなさい」

「はい」

リンノはまるで別人のように起き上がる。

「これから貴方に命令を出すわ。実行…してくれるわよね?」

「はい、子桜様」

新しい妖華が芽を出した。

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