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overcast  作者: 街幸カルト
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キヨミ

「ついた…ここが蓮の国……」

 賀助は息を切らして言った。すると声を上げるものがいた。

「俺はこの門にいる」

「!? ガタル様、そのようなことは…!」

「援軍が来たら厄介になるだけだ。だから俺がここにいてそれを食い止める。だからあの小娘を絶対に取り戻せよ」

「は…はい!」

 賀助が威勢よく返事をした後グルオもここに残ると言った。

「兄貴がここに残るなら俺も」

「ケッ」

「なっ、だから皆がんばれよ」

 グルオとガタル以外の者達は金箔城に向かっていった。

 賀助達の後ろ姿が小さくなってついに見えなくなった時だった。グルオは呟いた。

「あの子に執着してるのは…ユースに似てるから?」

「あぁ。アイツのがんばってる姿を見てたら…、かつてのユースティティアを思い出した。だから…」

 ガタルのどことなく嬉しそうな横顔を見てグルオは微笑む。

 ここは兄のために一肌脱ごう。グルオは声に出さず、誓った。



「…おかしい」

「どうした賀助」

「華鈴様、おかしいとは思いませんか? 蓮の国は妖怪たちが集い、共存する国だと聞いております」

「それがどうした?」

「なのに…どうしてこんなに静かなんでしょう?」

「!!」

 しまった。私としたことが。そんな大事なことに気付かないなんて。なんでだ?

 …確かに、賀助の言う通り静かだ。生き物の気配もない。

「私たちのように武装して城に向かうなど普通あり得ません。民も、戸惑うはずです。なのにこんなに静かなのは…何か訳があるのでしょうか…」

「そ、それはわからな…」「ああああああああああああああああああああ!!!!!」「!?」華鈴の言葉を掻き消すようにグランチェスガが叫んだ。

「うるさいぞグラン!」

「す、すみません! で、でもこの…感情…何!? 『怒り』…? でも『怒り』より黒い…」

 グランチェスガには特殊能力がある。それは『感情性魔力』の察知と視覚化。化け物の身体から溢れる感情性魔力を察知したり、視覚化させたりする能力だ。この能力は極稀に産まれた個体が授かっていることがある。感情性魔力とは、魔力が感情によって性質を変化させた物である。『怒り』なら色が赤黒くなり、性質も攻撃的なものになる。『哀しみ』なら青くなり、性質は防御的なものになる。『楽しみ』なら黄緑になり、性質は不安定になってしまう。『喜び』なら橙色になり、性質はこれもまた不安定になる。

 『怒り』、『哀しみ』、『楽しみ』、『喜び』…。それらの感情の魔力はグランチェスガも幾度か見てきた。だが、これは数回しか見たことがない。そう、これは…元人間だった化け物だからこそ抱く感情…『憎しみ』である。『憎しみ』は、心を蝕み、身体を我が物にせんと侵食していって、最終的には自我を持ち一つの個体になってしまうという恐ろしい感情だった。一度『憎しみ』を持った場合、すぐに『憎しみ』を抑えないといけない。『憎しみ』は『憎しみ』の持ち主の身体を乗っ取り一つの個体となってしまう。だからだ。

 もし、この『憎しみ』の持ち主がリンノだとすれば…。

「急いでください! このままだとリンノが危ない!」

「リ、リンノ様が…?」

「に…『憎しみ』が! 城から溢れ出てる…!」

「!!?」

 賀助は更にスピードを出していった。

 すると城に続く長い階段にたどり着く。

 …ここを一気に駆け上がるんだ、賀助。そう自分に言い聞かせながら賀助は城の門目掛けて加速し続けた。

「……」

 こんな非常事態にも関わらず、華鈴は複雑な感情を抱いていた。何故私は、彼女を助けようとしているのだろう。あんな奴に力があるとは思えないとあれだけ言ったのになんでアイツを…。

 まあいい。彼女を助ければ答えがわかるはずだ。


・・・


「……」

「フッ、フフッ、ハハハハァ……!!! なんて素晴らしいの! 最高よリンノ! もっと憎みなさい! アナタと、アナタの妹を傷つける親を!」

「ア゛……ア゛……………」

 高笑いをする子桜を横目にレーニャは豹変したリンノを見つめていた。そして懺悔した。

 ああ、ごめんなさい。私しか得しない我儘でアナタをこんな感じにしてしまって。でも、仕方がないの。ソロモンの鍵を手に入れるためにはアナタが犠牲になるしかないの。

「ア゛……キ……ヨミ……」

「!?」

 レーニャは驚きの表情を浮かべた。今、確かに…誰かの名前を。

 リンノは子桜の幻影に憑りつかれた。彼女は最早子桜の人形といっても過言ではない。だから、自身の意図で何かを喋ったり、行動したりすることがまず不可能のはずなのに…。

 どうやら子桜も驚いているようだ。でも、彼女はますます嬉しそうな顔をした。

「ああ! これが姉妹の愛ってモノなのかしら!? 妹思いのいいお姉さんだこと! 私の人間になっても尚、妹のことを忘れられないだなんて…! でも、そのキヨミはアナタを躊躇わせる。だからキヨミを完全にアナタの中から消すわ」

「これ以上、何をするの?」

「頭に直接封印をするわ。その『キヨミ』って言う言葉をね……」

「………」

 彼女からキヨミが消えたら、彼女はただのバケモノになり得ない。レーニャは自身の勘でそう思った。…だが子桜からすればそれもまた面白味。ただ彼女に刺激を与えてくれる要素でしかない。

 第二の華は、完全にその蕾を開いた。

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