ソロモンの鍵
子桜は『グルートーストリート』にいる。
グルートーストリートは風狩村に続いている街道であり、レーニャもそこでひっそりと暮らしている。
子桜はレーニャに用があってそこに来た。
「それにしても綺麗な場所ね」
気づけばもう夜になっていた。街灯が橙色に光り、家や屋敷には明かりがついている。夜市も賑やかでついつい買ってしまいそうだ。
だが彼女は夜市で食物を買うためにグルートーストリートに来たわけじゃない。レーニャに会うために来たのだ。
子桜は歩を進める。
しばらく歩いて、殺風景な路地裏に行く。するとそこには居酒屋やらバーやら立ち並んでいた。情報によればレーニャはよくハリーギルドというバーにいるそうだ。
ハリーギルドの看板を見つけ、扉を開ける。入ってすぐに見えるカウンターに…彼女はいた。
子桜はレーニャの隣に座る。
「あら、子桜」
子桜が話しかける前にレーニャが話しかけてきた。
「ハロー、レーニャ」
「フフッ、貴方にはここは似合わないんじゃない? 日本酒が一番似合うわよ」
「笑える冗談ね。私は仮にも元アメリカ人よ? 日本酒は口に合わないわ」
「そうね。で? 何しに来たの? ここまでわざわざ足を運んでくるなんて」
「貴方に話があって来たの」
レーニャは手に持っていたカクテルを一気飲みして伺った。
「何?」
「私に手を貸す気はない?」
あまりにも安直すぎて、馬鹿らしい質問をしたせいか、レーニャは声を出して笑った。
「こんな公の場でそんなこと言う!? 私は吸血鬼、貴方は唐笠よ? 身分的には私のほうが上よ。簡単に言うけれど、私は簡単に手のひら返す女じゃないわ」
「そういうと思ってたわ。はい」
子桜は懐から鍵を取り出した。持ち手が独特の形状をした鍵だ。だがレーニャにとってはそうでもない。
「貴方…何故それを…!?」
「あら、欲しいの?」
「…ッ、ええ…」
「そう。なら私に協力なさい。任務を果たしてくれたらこれ、あげるわ」
「ッ…。わかったわ。今回ばかりは貴方に協力するわ」
レーニャが悔しい横顔を見せたと思いきや、「マスター」と一声上げた。
「もう一杯お願いできるかしら」
「はいよ、ありがとさん。ところでそこの和服が似合うお姉さんは何がいいんだい?」
「あら、ならこの店のおすすめで」
「はいはい」
マスターはそういうと倉庫に向かった。
「ここは獣人が経営してるのね」
「ええ、彼一人でこなしているのよ」
「そう…。忙しくはないかしら」
「忙しいだけで弱音吐いてたら今私はここにいないわ」
「確かにそうね」
タイミングよくマスターがカクテルとケーキを持って戻ってきた。
子桜が聞く。
「それは?」
「当店のおすすめさ。人狼の生き血をストロベリーソースに混ぜてるぜ。ちょっと酸味があるがおいしいって評判だぜ」
「そう。人狼の生き血は珍しいから美味しく頂くわ」
「アンタ、子桜だろ? 四天王に絶賛されたら売り上げも上がるってことよ」
マスターは一息ついて声をかける。
「ところで、さっき何の話をしてたんだ?」
「ちょっと手を組もうって話」
「そうかー。吸血鬼雇うってことは、誰かの護衛か何かかな?」
「ええ。せっかく捕まえた白物なの。取り返されたらいやだから」
「へえ、代物か。取り返されるって…誘拐でもしたのかい?」
「そうよ。名前はリンノ・クルットリアー」
「!?」
レーニャは驚く。馬鹿な。この間会ったばかりなのに。それに、ここにきて一週間も経ってない。彼女はいつから彼女に目星をつけてたの?
「あら、随分間抜けな顔をしてるわね」
「貴方…いつからあの子に…」
「知り合いなの? ごめんなさいね。だから言ったでしょう? 『白』物だって」
「あーッ! 代物じゃなくて白物かあ! ってことは、白の化け狐かい?」
マスターが口を挟む。
「そうよ。珍しいし、即戦力となるわ」
「確かにそうだねェ。けれど白亜雲英にやられたりはしないかな?」
「あら、知らないの? 彼女は風狩の巫女に封印されてるわ」
「あらまっ、じゃあ正鶴丸一族の族長も?」
「ええ」
「おやー…。巫女ちゃんまだ一ヵ月しか経ってないのに、あの二人封印しちゃうんだねえ…」
二人の会話を流し聞き、カクテルを飲み続ける。
そんな。あの子を守るってことは、黒瑠を敵に回すってこと…。でも、子桜が持ってる鍵…あれは間違いなく本物の『ソロモンの鍵』…。
やはり、彼女を敵に回す以外方法はないのか…。このチャンスを逃したら、『アレ』が天界軍に回ってしまう…。
ごめんなさい黒瑠。私は貴方の敵になるわ。




