妖しい花
「華鈴、痛い痛い」
「…」
華鈴はリンノを抱きしめ頑なに離さない。
クロウディウスは、
「ちょっとお邪魔なようなのでお暇しましょう」
と小声で冥々たちに耳打ちした。
「ええ、そうね。それに晩餐の準備もある。行きましょ怱々」
「え~尻尾モフモフしたい…」
「ダメ」
「むきゅぅ…」
「ダメ」
「はい」
冥々と怱々はさっさとその場を去った。ローズマリアはすぐに眠りについた。
クロウディウスはリンノ達を横目に見ながらその場を後にする。
「うん、華鈴、離れて。皆行ったから」
「…」
華鈴は離れた。その顔は微笑んでいてさっきよりも女の子らしくなっていた。
「……いい」
「?」
「笑顔のほうがいい」
「…!」
「…」
「じ、じゃあ私はここで…。さっきは済まなかった」
「別にいいよ。また喉が渇いたら」
「…。華鈴、変わりましたね。それでいいのでしょう? 黒瑠様」
「勿論よグルオ。またこの前の華鈴に戻ってくれたわ。やっぱりリンノは普通の白狐じゃない」
「確かに。会って一日しか経ってないのに和解するなんて」
「ハハッ、確かに。…ところで、あの人狼の件はどうなったの?」
「ガタル達と考えた結果、『蓮の国』より派遣された人狼ではないかと」
「蓮の国ね…。確かに最近蓮の国の情報を聞かないわ。何か隠してるのかしら」
「今度蓮の国にスパイを送ります。その後、突撃するかどうかの御検討を」
パルクールは研究員に甘えていた。
「ねーねー! ボクキャンディーが食べたい!」
「ダメだよ。それにこっちは忙しいんだ。ちょっとあっちに行ってくれ」
「えー?…ラリスのことで?」
「そう。リンノを利用して抜け出そうとした」
「リンノ?」
「新しく来た化け物だよ。女性で、黒のメッシュが特徴的な白狐だよ」
「キートはリンノ好き?」
キートという研究員はため息をついて振り向く。
「そんな訳ないだろー? 俺はインキュバス、あっちは狐。合う訳ないし、それにあったこともないんだ」
「フーン…。つまんない」
パルクールはキートに背を向けて立ち去る。
リンノかー、どんな女性なんだろ。僕のマスターになるのかな? でも、僕は結構重いからなー…。大丈夫かな。持ち上げられるかな?
…面白いかな。優しいかな。それとも、厳しい? 怖い?
ちょっと楽しみになってきた。僕が彼女の武器になるかどうかはわからないけど。そういえば早ければ明日に決まるって。楽しみだな。
「あ、クロウディウス!」
パルクールはクロウディウスを見つけ駆け寄る。
「どうしたのですか? パルクール」
「リンノってどんな感じ? の人?」
「そうですね…。まだ来たばっかりなのでよくわからないですが、おそらく頼りがいのある人でしょう」
「優しい? 怖い?」
「さあ、それはわかりません。ほら、御飯ですよ」
「今日も語呂蚯蚓?」
「ええ」
「苦いから嫌いなんだけど…」
「リンノは好んでましたよ。煮干しみたいだって」
「じゃあ食べる」
蓮の国。そこにある城、金伯城にて二人の女性が話し合う。
「申し訳ありません子桜様。聖六道に勝手に出撃した摩訶がつぶされました。次はこのようなことがないように心がけます」
片方の女性は面を下げ子桜に謝罪する。
「いいのよ…葉咲。貴方の一族も大変でしょう。住森組と脱森組で別れて、勢力が2つに分裂したところにこんな無茶をさせたのだから」
「いえ、貴方様が謝る必要などございません。すべては私が監視を怠ったからにございます」
「いいから面を上げなさい」
「はい。…!」
子桜は葉咲の頬に手を添える。
「子桜様、顔が…」
「いい? 私は貴方達に敵の殲滅をお願いしたわけじゃない。なるべくこちらに近づけさせないようにしてほしいと言ったの」
「! 申し訳ございません。命令を勝手に解釈した私が愚かでした」
「でも、別に貴方を怒ってるわけじゃないわ。貴方はとても強い」
子桜は葉咲の頬を指でなぞりながら言った。
「だからいなくなっては困るの。なるべく命を落とすような真似はしないでね」
「はい。私などの命を気にかけていただきありがとうございます」
「貴方は堅いわね…。どれ、ちょっと、柔らかくしてあげましょう」
子桜は葉咲の胸倉をつかむ。
妖しく佇む華の根がリンノ達に絡むのはもう少し後の話。




