姉代わり
「華鈴のことで?」
「はい…。私、長い間華鈴様のお世話をしてきました。けれども最近華鈴様の顔が暗いのです」
「と言うと?」
「笑っても、どこか寂しそうなんです。多分、まだ誰かに甘えたいんでしょうね。けれど、私はメイドの身。それにメイド長でありますから、忙しいのです。ですから、リンノ様。華鈴様のお姉様代わりとなってはくれませんか? 私はもう彼女の寂しい顔は見たくはありません」
「…わかったよ。そこまで言うなら」
「ほ、本当ですか!? ありがとうございます!」
ハルがゆっくりファリダットに近付いてちょっかいをかける。
「チョー必死だったね〜ファリダット」
「ちょ、やめてよハル!」
仲睦まじい。リンノはただ『それ』を羨ましいと思った。
湯をかけあう二人を横目にリンノは立ち上がる。すると冥々が声をかける。
「アンタもうあがるの?」
「まあね」
「ならあたしも」
冥々も立ち上がる。二人は浴場を後にし、脱衣所に戻る。
リンノは脱いだ着物を持って言う。
「これは洗濯はいいの?」
「洗濯は不要よ。黒瑠様は匂いを消したり発生させたりしてるの」
「…その能力どんな時に使うの?」
「怪物相手に有効よ!」
「へぇ…」
匂いを嗅いでみる。…キンモクセイ。
「キンモクセイ」
「キンモクセイかぁ。私はローズ。キンモクセイが好きなの?」
「キンモクセイしか知らない。あまり外に出たことがないから」
「キンモクセイしか知らないなんて可哀想よ。そうだわ。これから私とでかけない?」
「え?」
「この世界は人間界より花の種類が多いの。さあ、そうと決まれば善は急げよ。早くそれ着て大広間まで来て!」
一階の大広間。
「さあ、行くわよ!」
と言った瞬間だった。賀助と太助が立ちはだかる。
「これ以上はダメです。門限をとうに過ぎています」
「黒瑠様の御許可がない限り外出は厳禁だぜ」
冥々はむっとしながらもそこを無理やり通ろうとする。
「いいから、そこを通しなさい!」
「ダメです! それに、リンノ様には死なれては困るのです! まだ化け物に慣れてないのに、ここで死んでしまっては人間に逆戻りです!」
「あたしは強いのよ! いいから通して!」
冥々は賀助と太助を跳ね飛ばす。そして、門を開ける。
「行くわよ! リンノ!」
「ちゃんと様付けで…! あぁもう、知りませんよ!」
「はー! 口喧しい門番だわ!」
「…。この世界で死んだらまた人間になるのか?」
「ええ、この世界に来た人はまた人間になって、人間として死んだら強制的に魂がこっちにくるわ」
「へぇ…」
「…ちゃんと、様付けで読んだ方がいいかしら」
「いや、いい。呼び捨ての方が馴れ合いやすいし」
「…そう。あ、これはツクモノハゴロモよ」
「なにそれ」
冥々は得意気にツクモノハゴロモという花の説明をする。
「これは付喪神『ヤクモハタマル』が身にまとっているとされる羽衣にそっくりな事からこう名付けられたわ」
「へぇ、ヤクモハタマル?」
「五大付喪神の一人よ。強いの」
「ふぅーん…」
「自由に見てきてもいいわよ。…あんまり離れないでね!」
リンノは言葉に甘えて森の中を探索する。
異形の虫、花、蔦…彼女は幻想的な森に包まれた。一生ここにいてもいいぐらいだ。
すると、白い猫が一匹目の前にいた。
「なんでこんなところに猫が…」
そう呟きながら手を近づける。すると。
「やあ!」
「うわっ!」
「? 脅かしちゃったみたい。そんなことより、キミ、ここに来たばかりだろう? 僕が案内するよ! さあ、おいで?」
「で、でも私は冥々が…」
「そんなのいいからさ…」
「リンノ下がって!」
冥々が茂みの中から現れて猫に向かって魔術を放つ。
「『獄乱舞』!」
黒の魔力が彼女の身体を包み、彼女の身体のように動き猫にダメージを与える。
「はあ!」
飛び膝蹴りを食らわす。地面にヒビが入り、もう少し強ければ木々が抉り出されただろう。
「強いねー! キミみたいな乱暴者が相手じゃ敵わないや…。じゃあね、リンノ。またキミを迎えに来るよ」
白猫は闇に包まれ消えていく。
冥々はリンノに近づく。
「大丈夫!? もう少しで『継ぎ接ぎの国』に連れてかれるところだったのよ!」
「つ、『継ぎ接ぎの国』…?」
「『継ぎ接ぎの国』。パッチワークランドとも言うわね。さっきの奴は『ホワイト・チェシャー』。国へ誘う者よ」
「パッチワークランドはそんなに脅威なのか?」
「ええ、脅威よ…。終わりのないお茶会、首切りが大好きな赤の女王…。キチガイの国でしかないわ!」
冥々は袖に手を添える。
リンノは冥々にお礼を言う。
「ありがとう。私の事を守ってくれて」
すると冥々は顔を真っ赤にし、全否定した。
「そ、そそそそんな訳ないじゃない! あれは別にアナタを助けるわけじゃなくてアナタに見せつけてたのよ! 私がどれだけ強いかを!」
「どっちにしろ私を助けてくれた。ありがとう」
「何回も言わないでよ! …。全く、じゃあ戻るわよ」
冥々は満更でもない顔で言った。
森を出て、城に戻る。門を開けた先には華鈴がいた。
「華鈴…」
「どうして外にいるんだ? 門限は過ぎている筈だ」
「そ、それは…」
「私が外に連れ出したからよ」
冥々が堂々と声を張って出た。
「…冥々。どうしてお前はルールを守れないんだ」
「じゃあ聞くけど、ルールを守ったら何か利益があるの? 私達メイドをこき使って、挙げ句の果てにはルール? 冗談じゃないわ」
冥々は華鈴に近づき、耳元で囁く。
「アナタには支配される側の気持ちがわからないのよ」
冥々はさっさとその場から立ち去る。
「華鈴」
「お前は大目に見てやる。門限の事は言ってなかったからな」
「…ここに来たばかりで生意気だとは思うけど、何か言いたかったら私に言ってくれよ」
「…フン、余計なお世話だ」
華鈴はリンノに背を向けて中庭に出て行った。
……
地下研究室。クロウディウスはまた『それ』と話していた。
「またお前か、クロウディウス」
「また私ですよ、ラリス」
『それ』の名前はラリスと言う。
「…ところで、アイツの鍛錬は終わったのか?」
「ええ、造り終えたところです」
「やはり、我々『地獄軍』の技術は上がってきている。まさか聖剣エクスカリバーのコピーが造れるとはな。正直なめていた」
「エクスカリバー・パルクールがリンノと調和すれば戦力もアップです」
すると、別室から小さな獣が出てくる。青い、カーバンクルに酷似した姿だ。
ラリスが言う。
「そいつがパルクールか?」
「ええ」
パルクールは口を開く。
「ねぇ、ボクのマスターは誰なの!? 早く戦いたいよ」
「まあまあ、そのうち決まりますから焦らないで…」
「えー! まだ決まらないの〜!? つまんないつまんないよー!」
「フフフ。早ければ明日には決まりますから」
「ホント! やった!」
パルクールは大いに喜ぶ。
ラリスはカプセルの中で笑う。
「吾輩も早くこのカプセルからでたいものだ」
ラリスは誰にも見られないように不敵な笑みを浮かべる。




