修行
クロウディウスは『それ』に話しかける。
「気分はどうですか?」
「どうもこうも、すっきりしないな」
「そうですか。ところで、また暴れたようですね」
「どうしてわかってるんだ? ちゃんと暴れた形跡は消した筈なのに」
「怪我人が出たんですよ」
「そうか。てか、お前人間の匂いがするぞ。もしかして、『新しいバケモン』が来たのか?」
「ええ、リンノ、です。白髪に黒のメッシュ。髪を一つに束ねております」
クロウディウスはまるで身内の事を話すかのように微笑みながら話す。
「成る程。吾輩も一度目にしたいものだ」
「駄目です。黒瑠様の許可がない限り会わせることはできません」
「ハハハ、あ。面接時間5分をとうに過ぎてる。さあ、帰った帰った」
「あら、無愛想ですね。名残惜しくはないのですか?」
「ない。それに吾輩は時間厳守を心掛けているからな。わかったらとっとと帰れ」
クロウディウスは二つ返事を帰して地下研究室から出て行く。
……
翌朝。小鳥がちゅん、ちゅんと囀る…ような爽やかな朝ではなく、鷲がけたたましく鳴いた騒がしい朝だ。
「ほら、リンちゃん! さっさと起きなさい! もう朝食ですわよ!」
「え、だ、……誰ぇ?」
「キャメロットですわ。ホホホ。このようなキャラを一度やってみたかったのです。あ、これからリンちゃんと呼ばせていただきますので」
「はあ」
「さあさ、クロウディウスも席についていますわ!」
「あ、はい」
キャメロットに続いてリンノは部屋から出る。
「あ! ちゃんとドアは閉めてくださる!?」
「え!? あ、はい」
慌ててパタンとドアを閉める。
「さあさ、早く早く!」
……
「お早う、リンノ。とても眠そうね。こっちまで眠くなるわ」
黒瑠の言葉を聞いて目をちゃんと開く。けれど黒瑠のわざとらしいウトウトする仕草は止まらない。
キャメロットはクスクス笑いながら注意した。
「リンちゃん、寝癖がついていますわよ」
「え! ウソ!」
食卓についた皆々がクスクス笑う。恥ずかしい反面、嬉しかった。
「じゃ、早く食べなさい。ガタルと修行するのでしょ?」
「ガタルは?」
「とっくに平らげて闘技場に行ったわ」
「う、嘘…早い」
一刻も早く平らげたかったが、中々そうはいかない。
やはり場が場なのか、乱暴に食べることができないのだ。
…昨日の晩餐は食いに食い漁ったが。
皆はまずスープに手をつけ、スプーンを横にしてゆっくり口に入れていた。
リンノはそれの真似をしてスープを飲む。
何がおかしいのか、黒瑠はその様子を見て笑っていた。
するとファリダットが黒瑠を指摘する。
「黒瑠様、お食事が冷えてしまいます…」
「ああ、ごめんなさいね」
ファリダットは「いえいえ」と一言呟き後ろに戻る。
するとファリダットはリンノに近づく。その時リンノはスープを飲み終え、パンを食べていた。
「パンを食べるときはバターを…」
「いや、別に…」
「バターをつけた方が美味しいですよ」
「あ…そうなんだ……」
ファリダットに指導されながらリンノは朝食を食べ終える。
「リンノ様、お口を」
「あ、……。ありがとう!」
貰ったハンカチで口を拭く。
「…。明るい子だこと」
……
「リンノ! 遅い!」
「だっててーぶるまなーとか知らないし」
「ふん、まあいい。まず、化け物には魔力がある。その魔力を使って魔術を放つ。華鈴の『リオ・スレイブ』も黒瑠の『壱獄錦』もそれだ。今日は魔力のコントロールさえできればそれでいい」
「魔力をコントロールすることによってどんなメリットがあるの?」
「魔力を目に集中させれば遠くまで見ることができるし、足に集中させれば脚力が倍になる。手に集中させれば腕力が倍になるし、指の先端に集中させれば魔力の小刀も創れる」
「へえ…」
リンノはガタルのゆらゆら動く尻尾に目を見やる。
よく見ると一本だけ尻尾が途切れてた。
「それは…」
「ああ、この尻尾か? やられたんだよ、鵺に」
「鵺?」
「そうだ。名は佐為宮湖苗。普段はホーガッド大聖堂に引きこもって研究している」
「ホーガッド…」
「お前が強くなったら連れてやってもいい」
「へ?」
「興味を持ってそうな目をしてたからな」
「…」
「はい、雑談終了!魔力の修行すっぞ!」
「そう言われても、どうすれば?」
リンノは尋ねる。
「まず手に集中させろ。手を見つめて、力を込める。そうすれば青いモヤモヤが手を包む。そうなれば合格だ」
「ああ、じゃあ簡単じゃん。ふん…!! ん…!! ………!! っああ!! 全然難しいじゃん!」
「そう怒られてもな…」
リンノは怒り気味になりつつも手に集中した。
でも青いモヤモヤは全く見えず、体力が消耗するだけだった。顔があったかい。多分、顔が真っ赤になってるんだろうな。
ガタルはその様子を何も言わずじっと見ていた。
かれこれ数時間たっただろうか。ガタルの姿は消えていた。けれどリンノは気にも留めず続けた。
貧血で何回か倒れかけたが、なんとかして立ち上がってきた。でも、次倒れそうになったら本当に倒れるかもしれない。
意識が朦朧として、足がふらついた、その時だった。
そ
ボッ
火がついたような音がして、手に青い触手が絡んでくる。
いや、青い触手じゃない。青いモヤモヤだ。魔力だ!
つい笑顔が溢れた。
するとガタルが戻ってきた。昼食を取りに行っていたようだ。尻尾にサンドイッチが入ったバスケットがかけられている。
ガタルは無邪気な子供のように歓喜の笑顔を見せるリンノを見て微笑んだ。
かつての『ユースティティア』を見ているようだった。
「魔力だ! 魔力が出た!」
「はいはい。じゃあ昼飯食え。次のステップだ」




