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マリアの独り言  作者: 藤高 那須
第一章 始まりは産声から 幼少期編
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決闘

 学園での授業は、椅子に座って教師の話を聞くものだと思っていました。というのも、学園に入るまでは机の上で勉強していて、学園でも同じようにするのかなと思っていたからです。しかし大半の授業が外で歩きながら先生の話を聞くという内容でした。



「歴史、と言ってもそれほど難しいものではありません。過去の偉人の行い、この国の発展など、スケールを大きくしすぎ、内容を難しくしすぎるから構えてしまう」


 今はこの国の歴史についての授業をしています。片眼鏡を着けている五十くらいの男性、ルミナス先生が先頭に立ち、その後ろを私達が歩いて行きます。私達と言うのは、貴族の息子とひと悶着起こした教師|(前話参照)に指示され教室に集まった人達です。それ以外の人がいないとなると、各教室ごとに教える先生が違うみたいですね。


 ルミナス先生は切り株に腰かけ一人の生徒を指差しました。


「例えば君だ。君はどこから来たのかな?」

「はい。ここから南側にある小さな村です」

「それが歴史です」


 先生の言葉に全員が首を傾けました。


「君は南の小さな村の出身で、年齢は十歳、そして今はこうして学園に入学した。それがあなたの歴史です。一歳に何をして、二歳に何が起こったのか。個人の人生もまた、歴史なのです」


 先生は切り株の面を撫で、年輪の線をなぞりました。


「この一本一本の線の太さ、そして線と線の間隔。これだけでもこの木を取り巻く歴史がわかるのです」


 あなた達が知るのはこの国の生き方、人生、歩み。いいですか、難しく考えてはいけません。所詮、歴史なんてものは何をやって何が起きたのかくらいのものですから。『料理をつまみ食いしたら母親に怒られた』くらいの軽い感覚でいいんです。君達はまだ若い。深く考えるのはもっと後で良い。

 そう言って先生は授業を締めくくりました。




 そして授業と先生が代わっていき、夕方くらいに授業が終わりました。学園にある鐘が鳴るたびに授業が変わっていくようです。

 授業は面白いのもあり、つまらないものありました。ただ一つ共通しているものといえば、先生が全員変な人ばかりだったということです。ルミナス先生の場合、歴史を説明する時に例を使います。ある歴史を他の物と置き換えて簡単に説明しようとしているのです。それで学徒に興味を持たせ、頭に入り易いようにしています。切り株を見つけては年輪をなぞってブツブツ何か唱えているのが気味が悪かったです。


「ライルさんはどうでしたか?」

「わかりませぇ~ん」


 ライルさんはハンモックのベッド――部屋の隅に上下と二つあり、ライルさんは下――で枕に顔を埋めていました。


「よくここに入れましたね。いやまあ私達は特別に入れてもらった感じですけれど」


 私はここに入るまでにちゃんと下積みをしてきたけれど、ライルさんはしていませんでした。というかできませんでした。私とライルさんとでは環境が全く違いましたから。ライルさんは平民で私は貴族の娘。そう考えるとよくここまで上ってこれたと思います。


「いいえ、私が落ちたんでしょうね」

「どうかしました?」

「私達は同じ年に入った学徒達の中でかなり下の位置にいるらしいじゃないですか。そして先生は「上に行きたければ努力して結果を残せ」とも言っていました。じゃあその結果というのをどこでどう見せればいいのか気になりまして」

『よくそんな嘘がスラッと出てくるな』


 ルシファーの言うとおり、我ながらスラッと嘘が出てきたなと感心しました。


『ていうか何勝手に出てきてるんですか。さっさと私の中に入って下さい』

『ハハハ何を言っている。俺はお前と契約してから一度もお前の中に入ったことはないぜ』

『ということは何ですか。ずーっと外にいたわけですか。ずーっと外にいては私の裸をじーっと見つめていたわけですか。いやらしい』

『てめぇみたいな幼児体型なんざ見てもつまらねぇし嬉しくもねぇ! というかその時はずっと遠くにいたわ!』

「あのぉ、マリアさん。どうしました?」

「いえ何でもありません」


 話を戻して、どこでどうすれば努力の結果を教師達に示すことができるのかお互いに考えました。

 最有力としては、結果を見せる場所が設けられていて、それを教師が見極めて判定することです。学力、武力を見せてランクを上げさせてもらう。単純で分かりやすいですね。無駄に多い教室やコロシアムはそのためなのかもしれません。


「本当だったらワクワクしますね」

「こ、怖いじゃないですか~」


 明日はどんなことをするのか、楽しみにしながら眠りました。





†††††




 学園が決めた授業のない休みの日。それは起こりました。


「僕と決闘しろ!」


 メイズさんとライルさんと私の三人で散歩をしていると、突然どこの誰かもわからない男が目の前に現れて指を差しました。

 メイズさんに。


「ほう。決闘とは、これまた大きく出たものだ。言っておくが、決闘は十を過ぎたばかりの私達でも適用されるぞ」


 メイズさんが目の前の男の子を威圧します。威圧された男の子は一歩退きましたが、再び足を前に出しました。メイズさんが顔をしかめます。メイズさんはやりたくなかったみたいです。だから威圧したんでしょうね。


「しょうがない。それじゃあ――」

「では決闘を始める前にルール説明を行います」


 二人の間に入ってきたのは、ルミナス先生でした。分厚い本を広げ言いました。


「学徒同士の決闘は我々の管理の下執り行われます。我々の説明そして指示を無視もしくは我々が違反と判断した場合対象を強制的に敗北とします。いいですね?」

「はい!」

「う、うむ」


 あの年齢に似合わず大人びたメイズさんが珍しく狼狽えています。ここでの決闘は学園のローカルルールに沿って行うようですね。先生の管理とは私達の安全を保障するということですか。


「勝敗は三つの競技で決めます。一つは挑戦者、もう一つは対戦相手、最後は審判のこのルミナスが決めます。先程の順番で競い合い、二回勝った者が決闘の勝者です。質問は?」

「この決闘、相手が死んだらどうなる?」

「そうならないための我々の管理です。しかし貴女もそういったことがないように気をつけてください」

「……では競技内容はどうやって決める? 適当に決めてそれはできないなんて何度も言われいいたらきりがない」

「自由に決めていただいて結構です。内容を決めた後審判である私が少しばかり変更を入れます。変更はあくまで死人が出ないようにするためのものなので、内容によっては大きく変える場合もあります」

「ふむ、わかった」

「では挑戦者から、競技内容と勝利条件を!」

「魔法、武器ありの一騎打ちだ!」

「対戦相手は」

「同じく」

「ではその戦いで勝利した者が決闘の勝者となります。四等以上の魔法の使用を禁止します。武器は木製の物を使用します。いいですね?」

「ああ!」

「わかった」

「挑戦者が勝利した場合、対戦相手とのクラスを入れ替えます。敗北した場合は一つ下のクラスの誰かと入れ替わります。決闘は今から三十分後、第十二コロシアムにて開始します!」


 ルミナス先生は腕を振り下ろし宣言しました。瞬間、周りの人達に歓声が湧きました。




「結果を見せるというのは、あれだったんですね」

「格上相手に勝利することで上のクラスへと進む。実に簡単じゃないか」

「貴女には全く旨味の無い決闘じゃないですか!」

「『勝者は常に勝者たれ』。そういうことだろうな。格上は勝って当たり前。格下に勝ったところで自慢にもならない。……これだな」


 木箱から取り出したのは、ただの木の棒でした。メイズさんは棒を数回振って、突いて、ウンウンと何度も頷きました。


「だ、だだだ大丈夫なんですかぁ? も、もし相手が魔法を使ってきたら……」

「相当熟練した者でなければ媒介無しで魔法を使うことは難しい。特に媒介を使って魔法の練習をし続けた貴族の息子ならな。だから魔法ではなく武器主体の戦いでいこうと思う」


 制服の襟を整え、メイズさんはコロシアムの舞台へと進みました。


「それに、私も魔法は使える」



 コロシアムの観客席には人がたくさんいました。ここに来たのは一年は少数で、大部分が二年や三年の方達でした。


「やっぱり新しく入ってきた人が気になるんでしょうね」

「それだけじゃありませんよ。メイズさんはかなり上のクラスの人ですから、威力偵察というのもあるのかもしれません」

「あの二人の戦いを見て私達の能力を測ろうというわけですか」


 聞いた話によると、挑戦者の男子は中の下あたりのクラスのようですし、クラスの位置や実力差が丁度いいのかもしれません。


「それでは決闘を開始いたします。審判兼立会人はルミナスが行います。それでは、始めぇ!」


 開始の合図。先に動いたのは相手の男の子でした。


「『砂嵐』!」


 叫ぶと同時、砂が浮き、メイズさんの周りをぐるぐる回り始める。


「なっ!?」


 一日に何度もメイズさんが動揺するなんて、珍しいですね。


「ま、魔法を普通に使ってますよぉ!?」

「媒介を使って魔法の練習をするぅ? 貴族がみんなそうじゃないってことくらい彼女は良くわかっていたはずなのに。相手を見くびったのは減点ですね」


 私然り、たぶん彼女だって媒介無しで魔法の練習をしていたはず。なのに貴族の息子だからとタカを括ってしまった。今日のメイズさんは調子が悪いみたいです。

 しかしメイズさんは砂嵐を突っ切り男の子に向かって行きました。お互いの武器が届く距離。メイズさんはきっと魔法を使う暇は与えないでしょう。


「残念だが、これも想定済みだ」

「くそっ」


 武器がぶつかり合う。メイズさんが一歩後退しました。向こうが持ってるのは自分の身長くらいの長さの木剣です。リーチや重さは向こうが上。

 さらに男の子は追い討ちをかけます。少しずつ、少しずつ押されていくメイズさん。ついにコロシアムの端まで追い詰められました。


「トドメだ!」


 男の子は木剣を振り下ろしました。それをメイズさんは咄嗟に回避しました。木剣は壁にぶつかり先が折れてしまいました。

 すかさずメイズさんは棒を男の子の首に置き、そして決闘の決着が着きました。


 男の子に背を向け、颯爽と立ち去るメイズさん。

 男の子はそこを見逃しませんでした。木剣を手に取り折れて刺になった先をメイズさんに突き立てました。


「やめなさい!」


 ルミナス先生が男の子の腕を掴んで止めました。メイズさんは気にせずコロシアムから出て行きました。


「この決闘、対戦相手の勝利! 挑戦者は敗北。従って挑戦者は一つ下のクラスに降格になります。しかし……」


 ルミナス先生は男の子を睨み、言いました。


「勝者を背後から狙う卑劣な行為により、挑戦者はさらに下のクラスに降格とします!」


 そしてメイズさんが出て行った方を指し――


「そして自身が勝者であると油断し相手に背中を向けた対戦相手に対してもクラスの降格を言い渡します!」


 結局、全員が損した結果で決闘は幕を閉じました。


 そして、この決闘をきっかけに学園は大きく変わっていくのでした。

ルミナス先生「ビシィッ……(一度やってみたかったんです)」

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