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マリアの独り言  作者: 藤高 那須
第一章 始まりは産声から 幼少期編
38/40

平等ゆえに

これだけ時間をかけてもまだ三千字半。もっと捻りださないといけないなー。

 カーインマイン。その言葉を聞いた瞬間私は部屋を飛び出しました。

 会場から離れ校舎の外に出た私は校舎の壁にもたれ、頭を抱えその場に座りました。焦りのせいか息は乱れ、前がよく見えなくなっています。この五年間体を鍛えたつもりだったんですけれど、動揺してしまうとこんなにも疲れが早くなってしまうようです。

 しばらくするとハッシュとライルさんが来ました。私が突然部屋から出て行って焦ったようです。急いで私を追いかけたらしく、ライルさんの顔が真っ赤になっていました。体弱そうなのに、走って追いかけてくれたんですね。


「それで、なんで突然出てったんだ」


 ハッシュは意外と冷静で、落ち着いた口調で私に質問をしました。ライルさんも疑問に思っていたようで、私をじっと見つめています。

 説明をしようと口を開きましたが、ハッシュがそれを遮りました。少しして私も気づき、ハッシュと同じ方向を向きます。校舎の角に誰かが隠れているようです。


「どうやらバレたようだ」


 そこから現れたのは、男装の麗人といった風の女性でした。腰まで伸びた黒に近い藍色の髪と薄紫の目。体のラインがはっきりわかる服を着ていて、その体つきはスラリとして、十歳とは思えないほどスタイルの良い人だなと一目見て思いました。


「誰だアンタは」


 ハッシュは警戒心剥き出しで、私の方に歩いて来る彼女をじっと睨み付けていました。それに対して彼女はどこ吹く風で、ハッシュの威嚇を無視していました。そして彼女は私の前に立つと膝を地面に付けて頭を下げました。


「初めましてマリア様。自分の名は『メイズ・ラムサエル』。ラムサエル子爵の娘です」


 彼女のその完璧と言って良いほどの騎士が忠誠を誓う時にする姿勢に、まるで私が一国の姫になったかのような錯覚を覚えました。校舎の外の庭のはずが、周りが豪華な装飾の施された城にいるように思えてしまいます。

 そんな風に呆けていると、ハッシュが私の頭を軽く叩きました。ハッシュのおかげで元の世界に戻った私は目の前の人について記憶を巡らせました。


「ああ、ラムサエル子爵。思い出しました」


 確か七歳の頃でした。仕事中の父さんの部屋に忍び込んだ時に、床に落ちていた紙を拾った時にそんな名前が書かれていました。ラムサエル子爵はログベール公領内の街の一つの統治を任せていた貴族でした。

 ログベール公領は、危険区域が入っていてもその範囲は広く、一つの貴族ではとても治めることはできません。なので子爵などの貴族が、他貴族の領地の一部を代理として運営するのです。これはログベールだけでなく、他の貴族もやっていることです。


「例え地方の代官という立場でも、ラムサエル子爵家と貴女の家はとても深い関係で結ばれております。ここに来たのも、武術や魔法を学ぶだけでなく、貴女を全力で支援することも目的なのです」


 その忠誠を誓う姿勢のまま真っ直ぐ見つめられると流石に気恥ずかしくなってしまいます。一旦彼女を立たせ、彼女も交えて話の続きをすることにしました。


 あのカーインマイン伯爵家の当主の人が私の母方の父であることを言うと、ライルさんは泡を吹いて倒れました。ハッシュも倒れはしなかったものの、目を大きくして口を開けていました。彼女……メイズさんは最初からそれを知っていたようです。顔色を一つも変えず、私の告白を聞いて倒れたライルさんを咄嗟に抱き止めていました。


「あの人と母さんには因縁があって、私としても極力近づきたくないんです。このことは絶対に誰にも言わないで下さいね。貴方達だから言ったんですよ?」


 ライルさんだけは絞り出すような声で返事をしましたが、皆ちゃんと了承してくれました。


「というより、口外すれば首を飛ばされるだろうね。いろんな人に」


 メイズさんの言葉に、私達は静かに頷きました。





 夜も更け、歓迎会も終わり、私達学徒はそれぞれの寮に戻りました。部屋に入る前に教師に寮のロビーで呼び止められ、最終的には寮内の皆がロビーに集まっていました。

 全員がロビーに集まると、教師は明日からのこの学園での生活を説明しました。

 まずは教育のカリキュラムです。最初は文字の読み書き、それが出来る人は別の科目をします。国の歴史や宗教を学ぶようです。そして簡単な算術、足し算や引き算をします。そして言葉の文法や使い方の教育をします。私達一年組は、最初の一年間の前半をこの教育を行います。後半からはそれぞれの能力に線引きをして発展した教育をする。と教師は言いました。

 途中からほとんどの人がそれを理解していない様子で、一部では椅子に座ったまま寝ている人もいました。

 午前八時から午後四時まで、七時間授業をします――残りの一時間は移動時間です――。朝の七時になれば寮の従業員が起こしてくれますが、時間内に教室に入るように。そう言って教師は寮から出て行きました。

 その後、皆はロビーの壁に貼られた一週間のカリキュラム票が書かれた紙を見ました。授業内容に実施場所が詳しく書かれ、横には学園の見取り図がありました。一通り見た後皆はそれぞれの部屋に戻りました。


「ハッシュもさっさと見て下さい」

「んあ?」


 ずっと眠っていたハッシュを起こし、私も部屋に戻りました。






†††††





 次の日、寮で作られた朝食を食べた後、私達三人は教室に向かいました。

 そして教室に行ったわけですが、手前で学徒達が集まって通れません。


「えーっと、君は何組? あぁ。じゃああっちの教室ね」


 一人の教師が学徒に組を聞いて教室の場所を指示していました。


「君は……あー、向こうの方だね」


 そうやって一人ずつ場所を教えていると、教室を分ける理由を学徒の一人が教師に聞きました。それは皆思っていたことのようで、学徒の質問に皆が同意します。


「あ? そんなもん聞かなくてもわかるだろうが」


 そう言って教師がその学徒を睨みました。さっきとは全く違う雰囲気に学徒が動揺しました。


「簡単に言うとね、これは能力別に教室を分けてるんだよ。出来る人と出来ないグズとね。試験後に教室で他の教師に言われただろう。『君達は優秀だ』もしくは『お前らは負け組だ』とか。その試験で君達の能力が判別され、今の教室分けに繋がるんだよ。と言っても、集まる学徒は同じクラスだった奴らだろうけどね。あと君の教室は……残念。負け組の教室だ」


 とうとうその学徒は怒り狂い、目の前の教師を殴ろうとします。しかし相手は大人であり、これから私達が師事する人です。為す術なく学徒は床に叩き伏せられました。


「もう一度言う。君は今は負け組だ。今は我慢して、その枠組みの中で努力したまえ」

「つまりそれは、能力さえ身に付ければ勝ち組とやらに入れるということかな?」


 学徒達が教師から距離をとる中、一人の少女、メイズさんが前に出ました。


「貴女は……メイズ様ですか。まだ幼い身でありながら気品ある言葉に立ち居振舞い。正に人々の上に立つ能力を持つお方です」

「自分は質問をしているんだ。答えてもらおうか」

「まあ、これは近いうちに言うことだったんですけれどね。確かに、能力さえあれば上へ行けます。例え負け組でも、勝ち上がれば勝ち組の仲間入りです。しかし逆に言えば、勝ち組は負け組に行くことだってあります。例えそれが貴族の息子娘だったとしてもね」


 最後の言葉に、その貴族の息子娘らしき人達が怒りを現しました。無礼な、とか。貴族に対してなんだそれは、とか。お前の名前を言え、とか。そんな罵倒雑音が響きました。しかし、それは教師の拳一発で収まりました。


「だったらここを辞めて他の学園にでも行きなさい。私は国王直々にこの学園の教師を任された人間です。ここに来た瞬間に、私は全力を持って貴方達を指導すると決めました。例え相手が貴族の子供だろうと、私の教育理念は変わらない」


 教師はさっきからずっと押さえつけていた学徒を立たせ、埃を払ってから、真っ直ぐ目を見つめて言いました。


「負け組と言われたくないなら努力しなさい。毎日、時間のある限り。そこに結果が残れば必ず報われます。皆さんもいいですか、ここは崇高なる学舎まなびやでも、入れば人生を約束される場所でもありません。学び、実践し、昇華させる。常に己を研鑽し高みへと昇り続けなければならない。そしてそれをほんの少しでも怠った者は地獄へと落とされる。そんな場所です」


 ここは貴族、商人、平民、皆平等にチャンスがあります。しかしそれは、それだけここが険しい道だと言うことです。私もハッシュも、それを理解してここに来ています。

 平等ゆえに、与えられる恩恵が大きく変わる。その先の将来が左右される。だから皆はその椅子につくために争う。どれだけ昇っても、そこは地獄。天国からは程遠い。

 それでも私達は、上へ進みます。

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