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マリアの独り言  作者: 藤高 那須
第一章 始まりは産声から 幼少期編
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もう一人の

 次の日の朝、先に合格した私達が集められたあのコロシアムで正式な入学式が執り行われました。この前のあれは入学して力の抜けた人達に渇を入れるためにやったようです。そして今は五年生だけでなく、二年から四年の人達まで集まり、私達の入学を歓迎してくれました。


 昼頃から室内の大広間で入学祝いのパーティーが始まりました。踊り子が舞台で踊り、楽団が演奏して学徒や先生を楽しませました。そして、こういうのに慣れていない一年達は戸惑っていました。特に目の前に出された食事を見た時は、本当にこれを食べてもいいのかと周りをキョロキョロしていて、それを見た先輩方は笑っていたり、苦い顔をしていました。後者の方は前に同じ経験をしたことがあったのでしょう、同情した一人の先輩が一年に作法などをかいつまんで教えていました。


「俺も前はあんな感じだったな~」


 その光景をハッシュはしみじみと眺めていました。

 かくいうハッシュも私の家に来た時はあんな感じであたふたしていました。ハッシュは貴族の屋敷を見たことはあっても中までは入ったことはありませんでした。私もハッシュも、あの時初めて互いの暮らしの違いを知りました。そして食事の作法を覚えるのに四苦八苦していました。

 作法は私が教えていたんですが、私に教えられている時のハッシュのあの屈辱的な顔は忘れられません。


「あぁ……、やっと見つけましたぁ」


 人混みの中からライルさんが出て来ました。人見知りな性格なので他人と話せず、誰にも話されないように身を小さくしながら私達を探していたようです。


「まさか隅にいたなんて思っていませんでしたぁ」

「内側は少し窮屈そうでしたので、もしこっちに人が来た時は近くの出入口から部屋を出るつもりです」


 こういうのには興味がありませんし、今はそれほどお腹も減ってはいません。食事を摂りに人の多い所に行くとかえって疲れてしまいます。


「だが、他人との繋がりを強くするのも必要だと思うぞ」

「そうですよ! ここは言わば派閥争いの場なんですよ! どこがより多くの、そして優秀な仲間を集められるか、そんな争いをしているんです!」


 確かによく見ると、先輩に色々教えられていた一年生はいつの間にかその先輩の仲間に加わっていますし、所々でいくつかの集団ができています。

 学徒は将来のエリートに近い人達です。今の内に仲間に入れて家の力を上げるつもりなのでしょう。


「でもライルさんは話すのは苦手でしょう?」

「うぅ……」

「俺は別に繋がりとか持たなくてもいいし」

「私は多分できないです」


 身分を隠していますからね。

 つまり、彼らの仲間に加わるのは無理ということです。集まるならこの三人くらいでしょう。向こうも察しているのか話しかけて来ませんし、このままでいいでしょう。


 パーティーが始まってそれなりに時間が経ったところで、先生方が大広間のカーテンを閉めました。

 部屋が暗くなったことで生徒達は戸惑いました。先輩方もこれは初めてのようです。

 舞台上のシャンデリアのロウソクに火が着き、舞台を照らしました。


「学徒、そして先生の皆様、この一年の方々の入学パーティーも終盤に差し掛かってきました。そこで最後にこの方々がパーティーを締めることになります。それでは――」


 執事の方が舞台裏に向かってお辞儀をします。舞台裏から現れたのは五人の貴族でした。彼らを見た十数人の学徒が驚きました。


「あの方達って」

「知っているんですか?」

「あの服の右胸についている紋章を知らないんですか!? あれは『五色伯』の印ですよ!?」


 『五色伯』と聞いて私は驚きました。

 『五色伯』とは、国王、大公の次に強い権力を持つ五人の伯爵のことです。それぞれの家名に色が入っていることからそう呼ばれ、彼らの地位と力を表しているとか。


「伯爵ってそんなに偉いのか」

「公爵、伯爵といった肩書きと家名は治める領地で決まります。例えば、ログベール公爵領を治めている人はログベール公爵と名乗ることができます。明確な地位の差は三つあり、上が皇帝から大公、つまり王族で、次は上流貴族で公爵から伯爵まで、下流貴族は伯爵から男爵となっています。その下には騎士という階級があります。同じ階級なら上下関係はありません。そして彼らは上流側の貴族でさらに王族に連なる者もいる公爵よりも上。大貴族の中の大貴族です」

「そうです! とっっっても偉い方達なんです! まず、この国全ての貴族の上に立つ筆頭貴族である『エメルソン・チェル・シュバルツァルト伯爵』。『カントル・クベ・ネプルス伯爵』。『ファビオ・アプス・アズーロ伯爵』――」


 皆四~五十を越えていて、様々な死線を潜り抜けてきた戦士のようです。明かりに照らされた舞台の上に立つ彼らの姿は、家名など関係なく、本当に貴族の中の貴族と言っても過言ではないほどのものでした。


「そして『トフソン・アマル・カリーチニヴィ伯爵』で――」


 まるで物語の英雄を見るかのようにライルさんは彼らの名前を言っています。それもそのはずで、らのけ権力もさることながら、一人ひとりの実力もずば抜けています。曰く、ドラゴンを倒したとか、敵国の軍隊を撤退させたなど、国の英雄と言われるほどの戦闘や指揮能力を持っています。


「……ライルさん」


 彼女が彼らの凄さを説明しているところを止め、私は五色伯の一人を指して聞きました。


「あの人の名前は何ですか?」


 途中から聞き飛ばしていたので誰が誰なのか覚えていません。私には関係ないと考えていたので無視していました。しかし、少し関係があるかもしれません。


「ああ、あの方ですか。赤く燃えるような髪、そして睨んだだけで敵を殺しそうな目をした大男。五人の中でもその実力はトップクラス!」


 あんな強面な顔は見たことありませんが、似ているような気がします。そう、あの眼は……。


「その名も、『ゼノ・グニル・カーインマイン・・・・・・・伯爵』です」


 母さんによく似ています。

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